中小企業とDX

深刻化する人口減少に危機感 IoT活用「業務の無駄」をカット【株式会社高梨製作所(山形県河北町)】

2024年 11月 18日

従業員たちとポーズをとる高梨健一社長(中央)
従業員たちとポーズをとる高梨健一社長(中央)

プラスチックの成形品の製造や金型製作を手掛ける山形県河北町の高梨製作所は10年以上も前からIT・IoT化を積極的に進め、非効率な業務を徹底的に排除してきた。部門横断的な生産管理システムを導入し、24時間無人稼働する工場を実現させるなどのデジタル改革を推進。中小企業のモデルケースとなる優良企業を集めた経済産業省の「DXセレクション2024」に選定された。DX推進を後押ししたのは、大都市よりも深刻化する人口減少への危機感だ。DXを推進することで人口減少がもたらすリスクに先手を打って対処している。

生産管理システム導入、「段取り時間」4分の1に

24時間無人で稼働する工場。DXで「段取り時間」を大幅削減した
24時間無人で稼働する工場。DXで「段取り時間」を大幅削減した

「10かけていた工数をどうやったら8で済ませられるか。それを可能にするのがDX。最初はITから始まりIoTに移行、さらに進化しDXになった」と代表取締役社長の高梨健一氏は語る。

高梨製作所は1970年の創業来、一貫してプラスチック成形品の生産を手掛けてきた。熱可塑性、熱硬化性の両方のプラスチック製品を成形加工する生産能力を備え、特に熱硬化性プラスチックの製造を得意としている。熱硬化性プラスチックは耐熱性に優れた素材で、電線同士をつなぐためのコネクタ部品などを大手部品メーカーなどに供給している。また、金型の設計・製作にも力を入れ、顧客のニーズに応じた製品開発にも取り組んでいる。

従業員の数は17人。工場には15台の成形機があるが、ロボットが自動で作業するシステムになっており、ほぼ無人で設備を稼働させている。「人の作業は『段取り』だけ。成形機は一台一台がIoTでサーバーを経由して、クラウドにつながっている。生産情報はリアルタイムでシステムに記録される。その情報は従業員全員に支給しているパソコンでもみることができ、リアルタイムでアップされる情報をもとに作業をしている。手順書や企画書、過去のトラブル情報などすべてデータ化され検索できる仕組みになっている」と高梨社長の長男で工場長の真司氏は説明してくれた。

「段取り」というのは、生産する部品用の金型をセッティングしたり、仕様に合った原料を用意したりする準備作業のことだ。2018年に新たな生産管理システムを導入したことで、生産計画が各部署間と共有化され、段取りにかかる作業時間の大幅削減を実現した。

「以前は、どの機械で何を生産するか現場で綿密に打ち合わせをして生産管理の担当者が紙にまとめて配布していた。今はパソコンで簡単に作成できる。生産時間も自動計算するため、金型の取り換えなど別の製品を生産するための準備もスムーズに行える」と真司氏は語る。

成型機ごとに製造する製品や使用する材料、生産量、納期などの情報を入力。現場のモニターにその情報が映し出され、モニターの情報を確認しながら「段取り」を進める。先々の生産予定を「見える化」したことで材料替えの回数を削減。材料を基準に生産計画を組むことで、2018年に年間のべ1万2000時間かけていた段取り時間は、2023年には4分の1の2900時間しかかからなくなった。

過去のデータから金型に流し込む樹脂の温度や圧力などのデータも蓄積し、設定した一定の規格から外れたものを自動的に不良品としてはじく仕組みも自社で開発。稼働状況の「見える化」によって歩留まり率の改善につなげた。「袋詰めや梱包などの作業は自動計数機と自動袋詰め機を使用している。重さで計測すると個数に誤差が出るので、一つ一つカメラで個数を計測して袋詰めするようにした」と真司氏。従業員が出社しない土日曜日も機械は稼働しており、トラブルが起きた時は携帯電話が鳴る。遠方に出かけていてもスマートフォンで工場に設置した8つのカメラで状況を確認し、社内連絡網で誰かしらが対処する体制にしている。

「IT、IoTを自社の強みに」改革に着手

最新の設備を備えた金型工場。2019年に新設した
最新の設備を備えた金型工場。2019年に新設した

高梨製作所がDXに取り組みを始めたのは、まだDXという言葉が一般的ではなった2012年ごろにさかのぼる。「『自社の強みは何か?』ということを考えたことがあった。他社よりも優れている物がないと顧客にアピールできない。当時、IT、IoTということが注目され始めたころ。IT、IoTに特化した会社になってみようと考えた」と高梨社長は振り返る。そして、手始めに間接部門の改革に着手した。

「電話番のために事務員を一人配置するのはもったいない」と、従業員に携帯電話を配布し、外線電話を廃止した。紙を消費するファクスの使用もやめた。外部との連絡でメールを窓口にし、取引先とは担当者が直接、携帯電話で連絡を取る。SNSも積極的に活用。グループ機能を活用して社内や社外と情報をやり取りする。今でこそ同様の取り組みをする企業は多いが、当時としては相当思い切った業務改革だ。この取り組みを皮切りに勤怠管理や経理業務など間接業務全般をクラウドで運用し、従業員一人一人が入力する仕組みにした。間接業務の効率化を進めたことで、事務職員を直接業務に配置転換し、現場の生産性向上につなげた。

一方、生産部門の効率化は、2018年にシステム関連の展示会に高梨社長が足を運んだことがきっかけで一気に進んだ。

以前は安価版のシステムに導入したものの、3年ほどで自社にはなじまないと感じていた。そこで東京に出張するタイミングで展示会に足を延ばした。そこで成形業界に特化した生産管理システムを展示するシステム会社のブースを見つけ、スタッフに声をかけた。

「『こういうことをやりたい!』『こういうことはできるか?』とスタッフとずいぶん長い時間やり取りした。すると、カスタマイズして大概のことはできると言われた。『それなら』とまずはメーカーの異なる機械3台をピックアップして試すことにした」と高梨社長は語る。実際に使ってみると、使い勝手がよく、拡張しやすいシステムで大きな投資を伴うものの、すぐに導入を決めた。

「大手なら稟議を通したり、投資効果をじっくり検討したりとなかなか進まないだろう。決めるのが早いのは、少数精鋭の当社の強みでもある」と高梨社長は胸を張った。

身近なデジタル人材がDXを後押し

左が工場長の長男・真司氏、右が取締役管理部長の二男・直人氏。
左が工場長の長男・真司氏、右が取締役管理部長の二男・直人氏。

高梨製作所のDXを後押ししているのは、高梨社長の二男で取締役生産技術部長の直人氏の存在だ。国立高等専門学校で知能エレクトロニクス技術を学び、コンピューターのプログラミングの知識を持っている。直人氏のスキルを活用し、製造現場のニーズに応じたプログラムのカスタマイズ、新たなソフトやアプリの開発、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)なども自前で対応している。

電子帳簿保存法やインボイス制度に伴う作業を効率化するため、取引先からメールで届いた請求書をサーバー内に自動的に振り分けるプログラムもRPAの技術を用い、自前で作成した。また、電気代が高騰する中、弊社は成形機の電力使用量をリアルタイムで集計するプログラムも構築。このデータをもとに節電対策を進め、20~30%の使用量削減につなげた。自社で取り組んだ対策や技術を「節電キット」として商品化。ピンチをチャンスに切り替えた。

従業員のデジタル教育にも直人氏の能力が生かされている。2023年から毎月、DX勉強会を開催。直人氏が講師となり、従業員のITスキルの向上にもつながった。従業員からは日々の業務の効率化につながる提案が寄せられるようになった。ボトムアップでのDXが進みつつある。「地方でデジタル人材を確保するのは大変で、確保できても継続的に雇用できるかどうかわからない。家族の中でデジタル人材がいてくれたのは非常にありがたい」と高梨社長は目を細めていた。

AIを活用し、生産計画の自動作成に照り組む

DXのさらに深化させようと現在は、生産計画の完全自動化に取り組んでいる。

取引先からメールで注文書が届くと、AIが高精度で文字を認識するAI-OCRシステムを通じて、パソコン上で注文書を自動で読み取り、その製品が社内在庫としてどれくらいあるのか、不足分はいくらなのか、過去の歩留まりはどの程度なのかを分析する。生産時に必要な材料・部材の数と社内在庫の照合を自動的に計算し、RPAを用いて生産管理システムに生産計画を入力するシステムだ。これが実用化されれば、朝、出勤した時には自動的に生産計画が作成されていて、オペレーターはその計画に合わせて作業をするだけになるという。

「将来的にはAI機能とチャットGPTを組み合わせ、お客様からの要望を自動的にシステムが判断して、納期の前倒しなどのお客様のニーズにAIが対応できるようにしたいと考えている。DXの進化はとどまることはない」と高梨社長は話していた。

地方ほど深刻「経営者は人口減に早く備えを」

山形県河北町にある高梨製作所
山形県河北町にある高梨製作所

DXは「働き方改革」に効果を上げている。従業員の深夜の勤務がなくなり、残業も減った。有給休暇も取りやすくなり、働きやすい職場環境を整えることにつながった。将来、さらに人材確保が難しい時代が到来しても他社よりもいい条件を提示することができ、たとえ従業員が減ってしまっても事業を継続できる生産能力を維持することができる。

「山形県の人口は2025年には100万人を切るレベルになる。隣の仙台市は100万人いる。山形県全体が一つの市よりも人口が少ない。どうしても利便性のいいところに人が吸われていく。この状況を見過ごしていては、地方で会社を存続させることが難しくなる」と高梨社長は指摘する。

高齢化も大きな課題だ。高梨製作所の従業員17人のうち、パートが10人を占めているが、その平均年齢は50歳を超えているという。これから先、戦力となっている中高年層の働き手がリタイヤする時代がくる。大都市よりも急速に少子高齢化が進行する地方で働き手を確保することがさらに厳しくなることは想像に難くない。DXはその先を見据えた投資で、ものづくり補助金や県の支援事業などを積極的に活用した。

山形県は県内企業のDXを積極的に推進しているが、2023年に実施した県内企業のDX取り組み状況調査では、6割の企業がまだ取り組んでいないと回答している。「今働いている従業員から辞めるといわれ、業務が回らなくなって会社を閉めるということはいつ起きてもおかしくない」と高梨社長は憂慮する。「地方の会社ほど経営者は、目の前にある難局に備えるべき。地域から企業がなくなれば自治体も困る。自治体もより危機感を持って地域企業のDXに取り組む必要がある」と指摘。自治体をはじめ地域が一体となったDX推進の必要性を訴えていた。

企業データ

企業名
株式会社高梨製作所
Webサイト
設立
1970年6月
資本金
1,000万円
従業員数
17人
代表者
高梨健一 氏
所在地
山形県河北町谷地字十二堂287-4
事業内容
精密熱硬化性・精密熱可塑性射出成形、金型作製、システム開発、アプリ開発