SDGs達成に向けて

日本の食品乾燥技術をアフリカに 農産物の高付加価値化に貢献【大紀産業株式会社(岡山市北区)】

2025年 1月 6日

大紀産業の安原宗一郎社長
大紀産業の安原宗一郎社長

果物を乾燥させたドライフルーツや乾燥野菜は、全国に広がる道の駅や農産物直売所の定番商品となっている。果物や野菜の栄養成分やうまみが凝縮され、長期保存も利く。そのまま食べたり、料理や飲料に加えたりと、さまざまな用途に利用されている。農家にとっては、市場で売れず、廃棄していた規格外の果物や野菜を付加価値の高い商品として販売できる。フードロスの削減に加え、農家の収益向上に役立っている。

岡山市北区の大紀産業株式会社は食品乾燥機のトップメーカーだ。電気式の食品乾燥機を業界で初めて商品化。小型軽量で使いやすく農家に一気に広がり、農家の乾燥食材ビジネスを定着させた。2015年から8年間にわたってアフリカ・スーダンでの電気乾燥機の普及に取り組むなど積極的なSDGs活動を展開している。

「食品乾燥で世界を豊かに」 SDGsに直結するビジネス

食品乾燥機のシェアナンバーワンを誇る。顧客のニーズに対応し幅広い商品を提案している
食品乾燥機のシェアナンバーワンを誇る。顧客のニーズに対応し幅広い商品を提案している

「『食品乾燥で世界を豊かに』というのが、われわれのキャッチフレーズ。この技術を通じて世界中の人を豊かにしていこうと考えている。乾燥機は売ることがSDGsに直結する。これはビジネスの大きなポイントになっている」と代表取締役社長の安原宗一郎氏は胸を張る。

創業は1948年。葉たばこ用の乾燥機の製造が原点だ。安原氏によると、国内で食品乾燥機を製造するメーカーは大紀産業を含め6社あるそうだが、そのうち4社が葉たばこ用乾燥機から始まったという。葉たばこの乾燥には、灯油を熱源にしたボイラー式の乾燥機が使われ、大紀産業も創業当初からボイラー式乾燥機を製造していた。

本社がある中四国地域を主要な営業エリアにしていたが、葉たばこ栽培面積の少ない生産者が多く、業界でのシェアは最も低かったという。それでもたばこに対する意識が寛容だった時代は事業が安定していた。だが、国民の健康意識の高まりとともにたばこ需要が縮小する時代が訪れる。葉たばこの生産農家は急減する一方、業界の競争が激化した。業界下位だった大紀産業の経営は悪化し、一時は存続を危ぶむほどになってしまった。その中で、起死回生を期して開発したのが、電気式の食品乾燥機だった。

岡山市内の自社工場で一貫生産している
岡山市内の自社工場で一貫生産している

安原氏は大学を卒業後、大手ガラスメーカーに勤務していたが、実家の窮状を知り、家業に入った。2007年に父の跡を継ぎ、社長に就任。その翌年、業界初の電気乾燥機が発売された。「ちょうど全国に道の駅や農産物直売所が増えてきた時期で、今まで廃棄していた果物などを乾燥食材にする農家が増えていた。電気式で電子レンジくらいの小型サイズから製造を始めると、農家から高い評価を受けてヒット商品となった」。

開発した電気乾燥機の価格は10万円台。当時、ボイラー式が30万~40万円ほどの価格だったうえ、設置には畳一畳ほどのスペースが必要だった。ボイラー式は定期的なメンテナンスが必要だったが、電気式はその必要がない。家庭用電源が使え、手軽でコンパクト。火を使わない安全性などが高く評価された。

「規格外の果物の利活用ではジャムづくりなどがあるが、時間と手間がかかる。一方、ドライフルーツは、カットした果物を乾燥機に入れ、スイッチを入れると翌日にはでき上がる。しかも、そこそこ高い値段で売れる」と安原氏。天日干しよりも衛生的で果物や野菜の色が鮮やかに出るため、商品価値が高くなる。農業法人や食品メーカーなどからも引き合いが来るようになり、大型の商品ラインアップも拡充した。業界ではトップシェアを確保するまでに成長した。

時代によって乾燥させる食材も変化が出ている。「鳥獣害が増え、イノシシやシカの肉をジャーキーにする。人用だけでなく、ペットフード用が多い。また、災害時の非常食として需要が高まっているアルファ米の製造にも活用され、高たんぱく食品として注目を集めるコオロギなど昆虫食にも製造にも利用されている」と安原氏は説明してくれた。

海外にも販路が拡大、東南アジアからアフリカへ

スーダンの市場で売られていたタマネギ。大量に余り、離農やフードロスの問題も顕在化していた
スーダンの市場で売られていたタマネギ。大量に余り、離農やフードロスの問題も顕在化していた

電気式の開発で海外での展開も大きく開けてきた。

ボイラー式はメンテナンスがネックとなって海外展開が難しかったが、電気式になったことで課題が解消され、海外の幅広い事業者向けに販売できるようになった。タイやベトナムなど東南アジアを中心に輸出すると、「故障が少ない」と海外の利用者からの評判が広がり、順調にマーケットを広げていた。そんな中、海外展開で知り合ったコンサルタントからアフリカ・スーダンでの事業の相談が寄せられた。

「スーダンで乾燥タマネギの生産を復活させたい。ぜひ協力してほしい」

スーダンは、エジプト南部と国境を接し、サハラ砂漠の入り口にあたる半乾燥地帯に位置した国だ。園芸作物の中では、タマネギの産出額が最も高い。現地ではタマネギは1年に一度だけ収穫されるため、乾燥させて保存食にする。乾燥させることで半年から1年ほど保存ができる。かつては欧州にも乾燥タマネギを輸出するほどだった。

乾燥タマネギは、日本であまりなじみのない食材だが、スーダンでは郷土料理をはじめ、さまざまな料理に利用されている。沸騰したお湯に乾燥タマネギを入れ、塩コショウで味付けしたオニオンスープがインスタント食品のように手軽に飲まれている。

スーダンには、もともと旧ソ連の援助で建てられた大規模なタマネギの乾燥工場があり、産地から集められたタマネギを1日50トンも処理していたという。しかし、老朽化などからその工場が2006年に閉鎖され、大量のタマネギが市場に余る事態になった。価格が乱高下するなど市場が混乱。農家の耕作放棄や売れ残ったタマネギの大量廃棄などが深刻化していた。その状況を何とかしたいと考えたコンサルタントが大紀産業の電気乾燥機に着目した。

スーダンは水力発電所が整備され、電気代が安く、現地では電気乾燥機を必要としていた。安原氏はコンサルタントの話を聞き、「ほかの日本の企業ではこの事業はできないだろう」と感じたという。アフリカは東南アジアよりもはるかに遠い。スーダンでの事業が成功すれば、社会課題の解決に貢献でき、ビジネスチャンスが広がる。事業化の検討を重ね、JICAからの支援を前提に事業に取り組むことを決心した。

JICAが採択、乾燥機を現地に納入

現地の女性たちに乾燥機の使用法を指導するようす
現地の女性たちに乾燥機の使用法を指導するようす

2015年にJICAの中小企業海外展開支援事業に応募。事業化の可能性を探る案件化調査の採択を受けた。翌年、スーダンに乾燥機1台を無償で供与した。8時間に120キロのタマネギを乾燥できる中型の装置を導入。12時間稼働させ、1日180キロのタマネギを乾燥させた。製造された乾燥タマネギは非常に品質が高かった。現地での導入ニーズは強く、2017年には普及・実証事業に採択された。岡山県で初の採択となった。

普及・実証事業では、以前のような大規模工場を設けるのではなく、農家組合単位で導入できる食品乾燥機を普及させることを目指した。1日約50トンものタマネギを処理していた以前の大規模工場に比べると、乾燥機1台で処理できるタマネギの量はわずかにしかならない。「現地でも小さすぎる」という声があったという。

そこで安原氏はまだ開発中だった新型機の導入を進めた。8時間の稼働で240キロのタマネギを処理する能力がある装置を1施設に3台導入する。それぞれ12時間稼働させると、1日約1トンのタマネギが処理できる。こうした生産工場が各地に50カ所、100カ所と増えていけば、大規模工場に匹敵する生産規模になる。農家組合が乾燥タマネギの生産から販売までを手掛ける体制をつくることで、農家の収益力を高め、経済的な自立を後押しする。製造するための新たな雇用を創出できる。

乾燥機から取り出された乾燥タマネギ
乾燥機から取り出された乾燥タマネギ

導入した現地の農家組合の農家を指導するため、安原氏や社員は何度もスーダンに足を運んだ。日本から現地まで片道で丸2日もかかる。「一度現地に行くと、2週間滞在するが、行き帰りに4日取られてしまう。実質10日という限られた時間の中で活動していた」と安原氏は振り返った。就業機会が少ない農村女性に働く場を提供しようと、女性だけの農家組合の組織づくりも支援した。「イスラム教の国なので、女性と直接話すとトラブルが起きることがあるので、現地の文化や風習に配慮しながら指導にあたった」という。

乾燥タマネギ以外の食材の活用も模索。「オクラを乾燥して粉末したものは現地の評価が高かった。マンゴーも試したが、今一つだった。現地ではドライフルーツを食べる習慣がないようだった」と安原氏は笑顔を見せた。最初に乾燥機をスーダンの2つの州の2カ所の農家組合に導入したのを皮切りに13カ所に31台の乾燥機を稼働させた。ほとんどは日本政府のODA(政府開発援助)によるものだが、現地の民間事業者が導入したケースもあったという。

内戦の発生で支援が中断 ネットを通じてサポートを継続

2024年8月に東京都内で開催されたTICAD閣僚会議の展示会で自社製品をアピールする安原社長
2024年8月に東京都内で開催されたTICAD閣僚会議の展示会で自社製品をアピールする安原社長

首都があるハルツーム州、たまねぎの主要な産地であるリバーナイル州、エチオピアに国境を接する東部のカッサーラ州の3地域での活動を続けていたが、事業は大きな壁にぶつかった。2023年に内戦が起きてしまったのだ。

現地で急速に進んだインフレも大きな壁となった。当初の事業モデルでは乾燥タマネギの販売収入で乾燥機などの導入費用を3年で返済可能な計画だったが、インフレの進行で国内向けの生産・販売だけでは厳しい状況になった。内戦が起きたのは、中東への輸出を検討するなど事業を軌道に乗せるための新たな取り組みを進めていた矢先だったという。スーダンの国軍と準軍事組織との間で断続的に発生しており、日本の外務省は全土に渡航退避勧告を出した。その後、スーダンには入国できなくなってしまった。

「首都があるハルツーム州は内戦が激しく、完全にストップした。乾燥機がある施設の状況も全くわからない状況になっている」と安原氏。一方、リバーナイル州とカッサーラ州に設けられた施設は現在も稼働中だ。こうした地域に対しては、インターネットを通じて、現地と連絡がつく状態になっているそうで、「何か装置にトラプルが起きたりしたときには、動画をみながら対処法などをアドバイスしている」。厳しい状況の中でも可能な限りのサポートを続けている。

岡山市北区にある大紀産業
岡山市北区にある大紀産業

「政情不安で現地の人たちは厳しい生活を強いられている。乾燥機の普及が現地の貧困の解消につながってほしいと考えていただけに非常に残念な思いでいっぱいだ。早く安定化してほしいと願っている」と安原氏は語った。

スーダンでの支援はストップしてしまったが、この事業をきっかけにアフリカでの事業展開も積極的に取り組んでいる。ケニアやモザンビーク、ボツワナなどアフリカ各国に導入実績を上げている。安原氏によると、アフリカとの取引がある岡山県内の企業は、大紀産業のほか1社くらいしかないそうだ。2025年には、横浜市で第9回アフリカ開発会議(TICAD)が開催される。会議に併せて行われる展示会などのイベントなどにも参加する予定だ。

「アフリカは今後、急速な人口増加が予測され、人口爆発で食料危機が拡大することが懸念される。フードロスになっている農産物を食べられるようにしておく必要がある。その中で、われわれの乾燥機は大きな貢献ができる。アフリカのみなさんに乾燥機の有効性を積極的にアピールしていきたい」と安原氏。乾燥機の普及を通じたアフリカ諸国の社会課題の解決に意欲を示している。

企業データ

企業名
大紀産業株式会社
Webサイト
設立
1948年1月
資本金
2,000万円
従業員数
28人
代表者
安原宗一郎 氏
所在地
岡山市北区清心町3-3
事業内容
食品加工用乾燥機、特注乾燥機の製造販売、葉たばこ乾燥機、その関連機器・資材の製造販売など