農業ビジネスに挑む(事例)
「日本情報化農業研究所」おいしい野菜を!無農薬・無化学肥料栽培法開発
- 無農薬・無化学肥料の独自栽培法を開発
- 野菜で高級品カテゴリーの確立を目指す
2005年春に京都大学大学院修士課程を終え古荘貴司さんは、同年暮れに起業し日本情報化農業研究所を設立した。
起業のきっかけは、農業が抱える問題を生産工学、品質工学といった技術面から解決できないかと考えたことだった。というのも、在学中から流通を介して農業と関わった経験のある古荘さんは、製造業では当たり前の品質・在庫管理、人材教育といった経営手法が農業では用いられておらず、そうした経営手法を導入すればもっと効率的な農業経営ができると感じていた。
アグリメディアが最初に始めた事業が収穫体験イベントの「ノウジョウシェア」。都市生活者である参加者が首都圏の農家を訪れ、野菜やコメ、果実などの収穫を体験、農家の人たちから農作物の栽培やおいしい食べ方などを教わるとともに、収穫したての農作物の手料理をごちそうになり、おみやげをもらって帰るというイベント事業だ。
しかし、現実の農業現場にはそうした考えを受け入れる素地ができておらず、農業でコンサルティング事業を始めようと起業したものの、その思いはすぐに断念せざるを得なかった。
自分で農業を始める
それならば、農家の経営サポートでなく自分で農業を始めよう。2006年、そう決意すると京都の篤農家の協力を得ながら、肥料・燃料に依存せず、かつ高収益の仕組みを確立できる野菜栽培の研究を始めた。そして2008年、無農薬・無化学肥料の栽培方法を開発し、知人の経営する農業生産法人セレクトファームと提携してその栽培方法の実施を試みた。
古荘さんが農業を始めるときに掲げた目標の「高収益な経営」を実現するためには、高品質で高価格の野菜、いわゆる高級野菜の栽培が必須だ。高品質とは「おいしい野菜」のこと。そのおいしい野菜づくりを追求して辿り着いのが、農薬・化学肥料が不要な栽培技術だった。
「おいしい野菜とは、当然人間が食べておいしいと感じる食味です。これは、虫にとってはおいしくない味であり、よって人間がおいしいと感じる野菜をつくれば、必然的に虫はつかないのです」(古荘さん)
味が濃い、香りが強い、くさみが少ない、歯ごたえがあり筋張っていない。それがおいしい野菜の定義であり、そうした高品質の野菜をつくる限り虫は発生せず、結果、農薬などの薬も不要になるわけだ。
古荘さんが開発した栽培方法は、土地の状態に応じ、安価に調達できる有機質資材を、その成分、性質、分解過程に関する科学的知見に基づいて利用する。それが特徴だ。
この無農薬・無化学肥料栽培法を実践した提携先のセレクトファームでは、初年度(2008年)から野菜の栽培に成功し、現在に至るまで安定的な生産を続けている。
野菜でも高級品のカテゴリーを確立したい
日本情報化農業研究所が開発した無農薬・無化学肥料の独自栽培法は、現在まで提携農場・セレクトファームだけで実施されている。ただ、野菜の生産・販売の主体はセレクトファームであり、日本情報化農業研究所の売上にはしていない。
そのため現在まで同社はITのパッケージ提供とそれに付随するコンサルティングをコア事業としてきており、そうした中で汎用CMS(コンテンツ管理システム)およびその関連ツール、さらに農作業現場のニーズから生まれた業務情報共有コミュニケーション・アプリなど、生産現場で役に立ソフトウエアを開発・販売してきた。
ただし、これからはITの事業のほかに自社で農業生産も始める。独自開発した栽培法で自ら野菜を栽培し、販売する。
「米や牛肉などの高級品は通常品の約3倍の価格で売られています。野菜でもそうした高品質・高価格のカテゴリーを確立していきたいのです」(古荘さん)
提携先のセレクトファームでは1個580円のきゃべつを生産・販売しているが、日本情報化農業研究所でも通常の3倍近い価格帯の高級野菜を栽培し販売していく。
それに向け、今冬から京都市内の直営農場(5ha)で生産を開始する。コカブなど10種の野菜を栽培し、ネット通販と新規直販ルートで販売する予定だ。
いよいよ、起業時の目標である「肥料・燃料に依存しない高収益な仕組みの農業経営」に踏み出していく。
企業データ
- 企業名
- 株式会社日本情報化農業研究所
- Webサイト
- 代表者
- 古荘貴司
- 所在地
- 京都市左京区高野東開町8-5ヴェルエール松屋1階