あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「PARM」高級と低価格の間をねらって新市場をつくる

「あの人気商品はこうして開発された!」 「PARM」-高級と低価格の間をねらって新市場をつくる 平日の「ちょっと贅沢」「自由時間」を志向する“大人”のアイスクリーム「PARM」が人気を呼んでいる。森永乳業が2005年春に発売した話題の商品だ。 高級品と低価格品に2極分化する市場の中で、デイリープレミアムを標榜する新しい市場をつくり出した。そのねらいは—

平日の「ちょっと贅沢」「自由時間」を志向する“大人”のアイスクリーム「PARM」が人気を呼んでいる。森永乳業が2005年春に発売した話題の商品だ。

なめらかさや口どけのよさなどの食感が受け、現在まで夏冬問わずに市場を広げている。

2005年、「デイリープレミアムなアイスクリーム」をコンセプトにPARM(パルム)が発売された

「弘法筆を選ばず」

この格言、能書名筆は道具の善し悪しに拠らないという例えだが、それとはま逆な流れで生み出されたのが森永乳業の「PARM」(パルム)だ。筆を選んで名筆を書す。すなわち新設備(筆)を厳選し、それを活用することでヒット商品(名筆)の開発へとつなげたのだ。

それは2005年春だった。森永乳業はアイスクリームの主力工場である冨士乳業三島工場にヨーロッパから新設備を導入し、従来のバーアイス(棒付きアイス)とはまったく異なる製法でアイスクリームの生産を始めた。それがPARMであり、PARMは発売後間もなくヒット商品に名を連ね、5年後の10年度には売上を初年度の5.5倍まで伸ばしている。

ちょっとした贅沢を大人に提供しよう

PARM開発の端緒は、新設備の導入を機とした新しいコンセプトの商品づくりだった。その開発計画は03年、ちょうど新設備が導入される2年前に始まった。

開発計画がスタートした03年、アイスクリーム市場はダウントレンドの真っ只中にあった。94年に約4300億円規模だった市場は、その後、漸減傾向をたどり、03年には3300億円にまで縮小していった。新商品の開発に向けて同社が市場を調査・分析してみると、つぎのようなことが浮き彫りになった。

「平日にちょっとした贅沢を楽しむ。そこに新たな市場があると読みました」と冷菓マーケティンググループ・アシスタントマネジャーの今藤知也さん

少子高齢化が進む中で、家族みんなが手軽に食べやすい小ぶりのアイスクリーム(マルチパック入りの低価格帯)がスーパーマーケットでは主流の商品になっている。ところが、そうした商品は必ずしも大人たちには満足感をもたらしていない。そこで大人たちはハーゲンダッツに代表される高級アイスを好んで食べるが、毎日食べるには高価格すぎる。そうしたジレンマが顕在化する市場は、高級品と低価格品の2極分化されていた。

それと同時に社会の一線で日々忙しく働く大人たちは、1日の中で自由時間を充実させたいと強く思い、そのための商品を見出そうとしている。その表れだろう、ちょっと贅沢なコーヒーを楽しめるコーヒーメーカーなどがよく売れている。

フレーバーの基本はチョコレートのほかに、「アーモンド&チョコレート」「バニラホワイトチョコ」「ストロベリー」の4アイテム。現在、ストロベリーは販売休止中

ならばアイスクリームも、従来のファミリー向けよりワンランク上の“ちょっとした贅沢商品”を大人向けに提供すればビジネスチャンスが生まれるのではないか。2極分化する高級品と低価格品の中間をねらう。その空白地帯に新しい市場をつくれるはずだ。そう考えて同社は、「大人」「自由時間」「ちょっとした贅沢」の3つをキーワードに市場を探っていった。

まず、20~40代の働く男女を対象に「ちょっとした贅沢」に関する意識調査をしたところ、週末に満喫する“贅沢”のレベルを落としてでも平日にちょっとした贅沢を楽しみたいという回答が9割以上だった。それについて、冷菓マーケティンググループ・アシスタントマネジャーの今藤知也さんは説明する。

「週末の贅沢と平日の贅沢では楽しみ方が違う。そういう回答が8割もありました。週末の贅沢はいわゆるハレ、誇らし気分で迎えます。高級感や特別感が決め手になる贅沢です。

それに対して平日のそれは、日々の生活の中で手軽にできるささやかな贅沢です。ちょっと高級なコーヒーを飲む、入浴剤を入れた湯船でアロマ効果を楽しむといった、継続的、持続的でなにげない贅沢ですね。そして、そこには間違いなく新しい市場がある。われわれは消費者の意識調査の結果をそう読んだのです」

週末の贅沢である「ウイークエンドプレミアム」に対し、今藤さんたちはこの「平日のちょっとした贅沢」を「デイリープレミアム」と名づけ、知財権として商標登録した。そして、ウイークエンドプレミアムの対象が高級アイスであるのに対し、デイリープレミアム(=日常のちょっとした自分へのご褒美)なアイスをつくる。それが新商品のコンセプトとなった。

独自の特長を生み出す

テレビCMでは俳優の寺尾聰を起用、携帯サイトではオリジナルコミック(手のひらの中に)を配信してPARMの訴求を図った

平日のささやかな贅沢を満たすアイス。その商品コンセプトを表現するため、商品の特長に独自性を盛り込んだ。「なめらかさ」「口どけ」「コク」がそれだ。そして、その独自の食感を生み出すために新設備が大きく寄与した。

まず、なめらかさだが、時間をかけてアイスの成分を凍結すると成分内部の氷の結晶が大きくなる。この氷の結晶が大きいほどアイスのなめらかさは妨げられる。それに対してPARMでは、急速凍結することで結晶のサイズを小さく抑え、口当たりのなめらかさを実現した。

つぎに口どけについてだが、従来のチョコバーアイスは、アイスをコーティングしたチョコが口中でパリッと剥がれ落ち、アイスが先に溶けて後からチョコレートが溶けていた。そのためアイスの味を感じるよりも、チョコレートの後口が強く残ってしまっていた。

PARMでは口の中でアイスとチョコが一緒に溶けるようなオリジナルレシピのチョコを開発した。それにより独自のなめらかさを表現した。

最後にコクについてだが、プレミアムアイスに使われるのと同じようなクリームや脱脂濃縮乳などを使用し、さらに原料の配合比をたくみに変えることで乳固形分15%以上、乳脂肪分8%以上を含むアイスクリームグレードに仕上げている。

さらに顧客層を広げるために

「なめらかさ」「口どけ」「コク」という商品の特長に独自性を生み出したPARM。商品名はイタリア語で“手のひら”を意味する「palma」(パルマ)に由来する。その形状はpalmaのごとくなめらかな楕円で丸みを帯びる。

発売当初のPARMの価格は1箱350円。ところがそれを流通チェーンは嫌がった。300円商品が主流の従来品とは異なる価格帯のため、新しく商品棚をレイアウトして売場を管理する煩雑を避けたかったのだろう。今藤さんは言う。

「最初は苦労しましたが、店頭で試食販売をやって味を訴求し、徐々に実績を積み上げることでようやく認知していただけました。2005年春に発売したPARMですが、ようやく軌道に乗り始めたのはその年の秋でした」

売上は初年度に比べて08年度に約2.5倍、10年度には既述のよう5.5倍まで伸ばした。また、08年度に一時品薄状態になったため、09年には新設備を追加して生産体制を増強した。

現在、フレーバーはチョコレート、アーモンド&チョコレート、バニラホワイトチョコ、ストロベリー(現在は販売休止中)の4アイテム。これらを定番にして、半年に1回の頻度で季節限定フレーバーを1アイテム加えて5アイテムで展開している。

ターゲット層の拡大を図るため、09年には1本入りの「PARMチョコレート」をコンビニで発売した

また、10年秋には量販店の店頭強化策として全国40チェーンストアの約2000店舗でセールスプロモーションを展開した。

アイスクリームは商品の特性から若年層および女性がメインターゲットとされているが、デイリープレミアムを謳ったPARMはターゲット層の拡大も図っている。成人以上の男性も取り込むため、コンビニで販売する1本入りの「PARMチョコレート」(126円)を09年末に発売した。さらに幅広い顧客層をつかむためのコンビニ戦略を展開している。

企業データ

企業名
森永乳業株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役社長 古川紘一
所在地
東京都港区芝5-33-1
Tel
03-3798-0111

掲載日:2011年5月 6日