あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「のりたま」良質なタンパク源を手軽に採ってほしい

「あの人気商品はこうして開発された」 「のりたま」—良質なタンパク源を手軽に採ってほしい 日本人のカルシウム不足を補うために開発されたふりかけは、魚の骨を砕き味付けされたものがほとんどだった。従来品とは違う、高品質のタンパク源を家庭で手軽に摂取できる商品を模索していた丸美屋は、旅館の朝食をヒントに新商品を開発した。

「変わらずおいしい」と思われるためには、味を変えなくてはならない—。1960年の発売から52年目を迎えた丸美屋食品工業のふりかけ「のりたま」がロングセラー商品になれたのは、消費者の嗜好(しこう)を意識した味を追求してきたからだ。「同じ味を貫くと消費者の味覚変化から、変えていないのに『変わった』と思われる。“変わらない味”と思われるには、常に時代に合った変化が必要になる」(吉田哲広報宣伝課課長)。味や食感のマイナーチェンジを繰り返し、消費者の嗜好と乖離(かいり)させないことで、いつの時代も変わらない味という「安心感」を与えた。「のりたま」は数あるふりかけ分野の中で、トップシェアの約8%(丸美屋推定)を占めている。

良質なタンパク源を手軽に

1927年に発売した「是はうまい」

のりたま誕生の原点は、丸美屋食品工業の創業者・阿部末吉氏が「良質なタンパク源を家庭で手軽に採ってもらいたい」と考えたことにあった。

ふりかけは、大正時代に日本人のカルシウム不足を補うために開発され「魚の骨を砕き、しょうゆなどの調味料で味付けされたものがほとんどだった」(吉田広報宣伝課長)。丸美屋食品研究所(後の丸美屋食品工業)も、白身魚のイシモチを使ったふりかけ「是はうまい」を1927年に発売していた。同商品は、米一升(1.5キログラム)が30銭の時代に45グラム入りで35銭と高価格、販売先は老舗百貨店の三越で高級品の部類に属していた。

高品質のタンパク源を家庭で手軽に摂取できる商品を模索していた阿部氏は、食材に卵を選択。また、旅館の朝食では卵とのりの組み合わせが定番であることがヒントとなり、二つを組み合わせたふりかけの商品化を思いついた。

1960年当時の「のりたま」。緑色の食品パッケージは斬新だった

開発に当たり役立ったのが「是はうまい」で蓄積した造粒技術だった。ふりかけにはパウダー状にした食材を一定程度の大きさにして流動性を持たせることが必要となる。「是はうまい」では、食材単体をパウダー状に固めるだけではなく、砂糖や塩などの調味料を練り合わせた後に、メッシュ状の網目に原料を通過させ乾燥させる独自の造粒法を開発していた。培った技術やノウハウを応用し、小麦粉や砂糖、塩などを練り込んだ生地に生の卵を混ぜ込み熱風を注ぎ込む「熱風乾燥法」を採用。食材に選んだ卵をふりかけに合うような食感に粒子化する造粒技術は難しく「発売後もなかなか類似商品が出なかった」(マーケティング部の新井信吾氏)ほどで、「他社が簡単にはまねできない」(同)サクサクした食感の卵を実現した。

パッケージングにも工夫を凝らし、瓶詰めのふりかけが主流の中、ふりかけ商品では画期的な袋入にした。また青や緑色は食欲を刺激しない色としてデザイン上敬遠されていたが、斬新性を求めあえて緑色のパッケージデザインにした。「創業者の阿部氏は新しいものを積極的に取り入れる人だったと聞いている。消費者の目を引くデザインにしたかったのではないか」(吉田広報宣伝課長)と分析する。

マーケティング部の新井信吾さん

魚粉のふりかけが主流の商品群の中で、卵とのりを主原料にする従来品とまったく違ったタイプの「のりたま」は、消費者の注目を集め、着実に売り上げを伸ばした。そして発売から2年後の1962年、一般家庭にテレビが普及しはじめると、さらに認知度を高めようと、全国でテレビコマーシャル(CM)を展開。CMキャラクターには落語家で、映画俳優の顔も持つ桂小金治氏を起用した。また1964年には、当時の人気アニメ「エイトマン」とコラボレーション。キャラクターシールを商品に同封した。映画やテレビの人気登場人物とコラボレーションするキャラクター商品は当時としては珍しく「子どもたちを中心に、人気を博した」(マーケティング部の新井氏)という。

変わらないために変える

“変わらないおいしさ”を追求するため、のりたまは時代のニーズに応じて味を変化させている。健康志向が高まると、1981年に塩分をカット。1996年には、さらに塩分を控え、同時に味の品質を落とさず向上させるように改良した。

また同年、消費者の嗜好調査から、のりたまに求めるのは「卵の味や存在感」ということが分かると、卵の種類を追加。従来の卵をベースに、マイクロウェーブ乾燥技術を応用し、少し大きめの卵の粒子を加えた。「基本の味を通常の卵粒子で表現し、大きめの卵で見た目の良さとサクサク感を強調させ、両方の卵で食感を引き立たせた」(吉田広報宣伝課長)。

「手のりたま」。手のひらサイズのひよこ容器に「のりたま」が入っている

農林水産省の「食料需給表」によると、米の消費量は1961年をピークに減少を続け、2006年には51%減少(1961年比)している。米食離れが加速している現在では、ふりかけも苦戦していると一見思われるが、売り上げは伸びているという。外食を控え家でご飯を食べる内食ブームや弁当ブームなどの外部要因もあるが、「のりたまは発売から52年。子ども時代にふりかけがなかった世代の人は自分の子どもが成人すると、ふりかけを消費しなくなるが、子どものころからふりかけに慣れ親しんでいた人は、大人になってもそのままふりかけを食べ続けてもらえる。そのため、ターゲット層が広がっている」(同)ことが大きい。のりたまを中心に、ソフトタイプやおかず感覚で食べられるタイプなど、ラインアップを充実させ、ふりかけ商品全体で需要の底上げを行っている。

「変わらない味」と消費者から言われるために、マイナーチェンジを繰り返し味を変えてきた「のりたま」。逆説的な商品戦略が功を奏し、ロングセラー商品と認知されるようになった。根底には、そのときどきの消費者の味覚に合った味を追求する姿勢がある。

企業データ

企業名
丸美屋食品工業株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役社長:阿部豊太郎
所在地
東京都杉並区松庵1-15-18

掲載日:2012年10月 3日