あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「カントリーマアム」手づくり感あるクッキーを家庭に届けたい

「あの人気商品はこうして開発された」 「カントリーマアム」—手づくり感あるクッキーを家庭に届けたい 焼きたての手づくり感のあるクッキーを家庭で手軽に食べてもらいたいとの思いから、不二家は「カントリーマアム」の開発をスタートした。外の生地はサックリしていて、中の生地はしっとりしている商品設計は開発に苦慮すると思われた。だが、手がかりはすぐ近くにあった。それは日本伝統の和菓子まんじゅうだった。

「外はサックリ、中はしっとり仕上げたソフトクッキー」—。不二家がチョコチップクッキー「カントリーマアム」を発売した1984年ころに使っていたキャッチコピーだ。二つの食感が楽しめる秘密は、原料も仕込み方も異なる2種類の生地を使った二重構造にある。しっとりとした生地をもう一つの生地で包み込み、低温でじっくり焼き上げる。生産性を考えれば手間のかかる工程は省きたくなるが、それでは求める品質が追求できなかった。惜しまなかったのは「焼きたての手づくり感のあるクッキーを家庭に届けたい」との思いからだった。

焼きたてクッキー、日本上陸

不二家は1980年代に入ると、キャンディ「ミルキー」やチョコレート「ルックチョコレート」に次ぐ、第三のジャンルを探していた。市場にインパクトを与えられる商品構想を考えていたところ、ヒントは街角にあった。

当時、米国で人気となっていた焼きたてクッキーが日本にも上陸し、手づくりクッキーを売る店が出始めていた。ナッツやドライフルーツ、チョコレートチップを具材に入れたものなど、さまざまな種類のクッキーが店の棚を飾っていたという。

焼きたてのような手づくり感のあるクッキーを作り、家庭で手軽に食べられるようにしよう—。カントリーマアム発売の約1年前の1983年ころから、開発プロジェクトがスタートした。ただ、当時の市場にあるクッキー商品は中までしっかり焼き上げたビスケットタイプが主流。焼きたて感のする「ホームメイドタイプのクッキー」を生産するノウハウは培われていなかった。

まんじゅうが二重構造のヒントに

生地のアイデアは日本伝統の和菓子まんじゅうにあった

外の生地はサックリとしていて、中の生地はしっとりとしている商品設計は開発に苦慮すると思われたが、手がかりはすぐ近くにあった。それは日本伝統の和菓子まんじゅうだった。「まんじゅうは外側の生地と、あんからできている。別々に仕込み一つに成形してから蒸す。生地の加工段階についてのアイデアは、まんじゅうからだった」(菓子事業本部マーケティング本部の野口一彦氏)と打ち明ける。これを裏付けるように原材料には「白ねりあん」が含まれている。サックリとした食感の外側が特徴の生地と、ある程度の水分量を残した内側の生地を別々に仕込み、内側を外側の生地で包み込むまんじゅうの構造を採用し、焼いても中の生地がしっとりとした状態になる食感を実現した。

もうひとつ、こだわったのが具材に使われているチョコチップだ。不二家はルックチョコレートやアーモンドチョコレートなど、さまざまなチョコレートを発売してきたが、カントリーマアムでは専用のチョコチップを開発し自社で製造している。

生地自体が甘めなため、相性が合うようにビター感のあるチョコレートを使用し存在感を引き立たせただけでなく、形状も手で絞ったような形にして、手づくり感が出るように工夫した。

また生地を二重構造にしたことが、チョコチップの食感を強調する上で役に立った。「一つの生地にチョコチップを入れて焼くと固くなってしまうが、水分量を含んだ内側の生地に含めて焼くことで、柔らかい食感を残すことができる」(同)とし、まんじゅう構造のもう一つの利点を語った。

わざと手づくり風の不揃いの形状に

1984年のカタログ。カントリーマアムには“田舎の貴婦人”という意味が込められている

専用チョコチップとまんじゅうからヒントを得た二重構造の生地を生産ラインに乗せ、低温でゆっくり焼き上げると、大きさや形にバラつきが出ることがあった。試行錯誤を重ね技術改良した結果「ある程度までは安定した形状に揃えることができた」(マーケティング本部の野口一彦氏)。

もっとも、焼き上げたクッキーの大きさが不揃いになることは当初から想定していたことではあった。カントリーマアムが目指したのは手づくり感のあるクッキー。手づくりのクッキーに同じ形状がないように、カントリーマアムでも同一形状にはせず不揃いであることに商品価値を見出したからだ。

生地に使われる原料やチョコチップの素材、両者の相性など山のような試作を繰り返し、1984年7月に“田舎の貴婦人”という意味を込められ名づけられた「カントリーマアム」は発売された。

食感の浸透を図るために苦慮

発売すると今までに市場になかった食感だっただけに、消費者から「湿気ったクッキーと言われたこともあった」(野口氏)という。当時、クッキーといえば固い食感のものがほとんど。内側がしっとりした食感のクッキーを消費者に浸透させる必要があった。

温めて食べる提案をしたり大袋タイプを発売したりするなどさまざまな取り組みを行う

不二家は発売すると「アットホームな米国の田舎」を連想するTVCMを放映した。起用したのは、米国のTV番組で日本でも放送され人気を博した「大草原の小さな家」に母親役で出演していた女優のカレン・グラッスル氏。米国の大草原の田舎で婦人がカントリーマアムを割ってしっとりとした生地を見せる内容にした。手づくり風クッキーを訴求した同CMにより「外側がサクッとしていて、内側はしっとりしている食感をお客さまに伝えることができ、認知度が高まった」(同)。また、食品スーパー(SM)などの店頭での活動では、消費者にカントリーマアムを温めてもらうことでさらに焼きたて感が楽しめる取り組みなどを現在でも地道に行っている。

発売から3年後の1987年には、トレーの中でクッキーの形が崩れてしまったり、湿気ってしまったりしたため、包装形態を分割トレーから個別包装タイプに変更。個装タイプの方が袋をもったまま食べられるため、消費者に好まれることが分かったことも変更の背景にあった。さらに、92年にトライアルアイテムとして、大袋タイプを発売するなどさまざまな取り組みを行っている。

アイテム群強化の狙い

「ブランドの拡張は定番商品の活性化にもつながる」と語る菓子事業本部マーケティング本部の野口一彦氏

09年にはカントリーマアムブランドから内側の生地もサクサクとした食感が特徴の「カントリーマアムクリスピー」を発売。カントリーマアムの生命線とも言える食感に変更を加えた理由について、野口氏は「消費者調査をしてみると、意外にチョコチップの認知度が低いことが分かった。カントリーマアムには専用のチョコチップを使っている。チョコとサクッとした食感に特化した商品を発売し、チョコチップをふんだんに使ったクッキーであることをお客様に再認識してほしかった」という。

今年8月にはクリスピーから、チョコチップを内容比30%使用した「カントリーマアムクリスピー(バニラ)」と、チョコチップとホワイトチョコチップを同26%使った「カントリーマアム(Wチョコ)」を発売した。「内容比30%は菓子業界でも最高水準」(野口氏)と胸を張る。

アイテム群の強化はブランドエクステンション(ブランドの拡張)だけではなく、定番品の活性化の意味合いも持つ。「新商品投入はバニラとココアリッチチョコ定番2品を再度知ってもらう機会にもなる。定番品を浸食するような戦略はとっていない」(同)と強調する。

屋台骨の一つに

カントリーマアムブランドの2012年12月期売上高は「150億円を超える」(野口氏)。売上高構成比で菓子事業の30%弱を占めるブランドに成長した。市場にない独特の食感から、伸び悩む時期もあったが、今では不二家の屋台骨を支えるブランドになった。商品の改良はマイナーチェンジを含め40回以上。「手づくり感にこだわった商品をお客さまに提供したいとの思いを持ち商品改良を続けてきた結果」(同)と伸長の要因を分析し、にこやかに笑う。

企業データ

企業名
株式会社不二家
Webサイト
代表者
代表取締役社長:櫻井康文
所在地
東京都文京区大塚2-15-6ニッセイ音羽ビル

掲載日:2013年10月 2日