起業のススメ

「株式会社ジゴワッツ」学生社長と社会人を経て、大学時代のアイデア実現

「IoT(モノのインターネット)を使って、面倒なICカード認証を不要にした」と話すのは、ジゴワッツの社長。電気自動車(EV)の充電スタンドを利用した際の認証・課金を、スマートフォン(スマホ)で完了できるシステムを開発した。車の中にスマホを置いたまま、充電スタンドから20~30メートルの範囲に近づくと、自動認証して充電器を使うこともできる。

多くの充電スタンドは事前に専用のICカードを取得した上で初めて使用できるようになり、利用時に持ち歩く必要がある。充電スタンドでの採用はまだないが、奈良先端科学技術大学院大学でカーシェアリング実証試験中の自動車の鍵として使用されている。スマホが鍵となるため、鍵を返却する必要がない。駐車場や自宅のドア、公共のロッカーなどへの応用も可能だ。

在学中に絵付きQRコード開発

柴田知輝は慶応義塾大学総合政策学部に在学中、大学の友人が設立したエクスフロンティアに取締役として参加した。コミックマーケットなどで販売される同人誌をパソコンで閲覧できる電子書籍を販売する事業だ。年2回のコミックマーケットに行かなくても「いつでも買えるところに需要がある」と考えた。柴田はソフトウェア開発を担当し、コピー防止機能を付けたプログラムを作った。だが、iPadが発売される前で、タブレット端末も普及していない時代で、書籍を読むためのハードウェア環境が充実していなかった。「売り上げは小遣い程度」だった。

1年後、友人は学業に専念することになり、柴田が会社を引き取った。電子書籍事業は中止し、イラスト入りのQRコードを開発した。採用されたのはあるベンチャー企業1社だけだったが、後にデンソーウェーブから「特許について話を聞きたい」と連絡がある。QRコードは元々デンソーが開発し、デンソーウェーブが事業を引き継いだものだ。話を聞いてみると、デンソーウェーブは本物か偽物かを判定できるQRコードの特許出願を考えており、柴田の開発した特許に侵害しないかを確認しに来たのだった。柴田は「これで儲かる感じもしなかった」ため、権利は主張しなかった。同時にデンソーウェーブへの入社も誘われたが、辞退した。

EVとの出会い

一方、EV充電器の認証・課金のアイデアは学生時代から持っていた。きっかけは、三菱自動車が2006年に発表したEV「i-MiEV」だ。「実際に試乗してみると加速感など見た目より面白い車」だったが、航続距離160キロメートル(初期型)の短さに「もったいない」と感じた。そこで、充電インフラ整備には、手軽に認証・課金できるシステムが必要と考えた。このアイデアを、慶応大の学生が主催するビジネスコンテンスト「KBC」に応募し、最終選考まで行った。ところが、最終プレゼンの日に寝坊して遅刻。「朝方までデモを作っていて、起きられなかった」。

その「心残り」を抱えたまま、京都大学大学院情報学研究科へ進学する。「特に起業したい、と思って学生社長になったわけではないが、一度始めたことをもうちょっと挑戦したかった」のだ。また「会社一本でやれる自信はなかった」ためだ。大学院で家庭向けの電力供給を最適化する研究をした後、PFU(石川県かほく市)に就職した。PFUは慶応大で寄付講座を提供しており、受講中に親しくなった会社だ。大学院時代も幹部らと個人的な付き合いが続いていた。

企業でモノづくりの品質を学ぶ

PFUには3年間勤務した。業務用スキャナなどの電気回路設計に従事し、品質の大切さを学んだ。「PFUが最も得意としていたのが品質。(設計ミスなどは)なるべく源流で止める仕組みだった」。ハードウェアベンチャーは開発資金が潤沢にないことが多い。「ハードはソフトと違ってコピー&ペーストで直すことはできないので、全部作り直さないといけなくなる。ワンミスが大変」と起業後の教訓として、品質の考え方が生きている。

一方、柴田は地方暮らしの生活を持て余した。毎週末、かほく市から片道400キロメートル以上離れた東京まで自家用車を運転して行き来した。年間の移動距離は2万5000キロメートル。東京では学生時代の友人や、エクスフロンティアとして活動していた時に知り合ったベンチャーの社長などに会いに行っていた。東京で刺激を受ける中、再び起業家として挑戦したいという気持ちが膨らんでいった。仕事の合間を見て「スマホを使って簡単にEVを充電する」と学生時代に思いついた開発テーマに取り組んだ。システムの開発にめどをつけて、PFUを退職。友人2人を誘って、2番目の会社となるジゴワッツを設立した。資本金150万円の大半はサラリーマン時代の貯金を充てた。27歳の時だった。

認証機能を内蔵したEV用充電器_R

認証システムを横展開

会社を立ち上げたものの、大手自動車メーカーの専用ICカードの認証機からの置き換えは容易ではなかった。このため、EV用に開発した認証機能を、iPhoneに搭載されている近距離無線システムiBeaconの発信機に応用し、製造・販売を始めた。iBeaconは店舗に設置した発信機から、近くのiPhoneユーザーにセール情報を流したり、来店ポイントを付与したりできるものだ。

海外メーカーの発信機を調達し、iBeaconとして機能するようにファームウェアを書き換えて、アプリ・ベンダーに出荷した。パッケージはダンボールをレーザーカッターで切り抜いた手作りだ。今までに数千台を販売した。また、機械式駐車場向けにスマホを使った認証・課金システムも開発し、現在、営業中だ。今年は「商品ラインアップのカタログを作成し、営業面にも力を入れる」方針だ。

2015年3月末のプラグインハイブリッド自動車とEVの国内保有台数は前年比35%増の11万4718台。スタンドの設置ニーズも高まっている。認証機能を内蔵したEV用充電器も作った。どこでも設置しやすいように、小型で家庭用電源に対応した普通充電タイプだ。「1時間の充電で2時間走れる。喫茶店で打ち合わせ中に充電すれば、来た道くらいは帰れる」と話す。「車と同じくらいの充電器があっていいので、そのうちの数%のシェアが取れれば嬉しい」と夢を膨らませる。

(敬称略)

起業を目指す後輩に送るメッセージ

学生の時に一番楽しかったのが会社経営。周りの大人が本気で一緒に遊んでくれる。取締役の名刺を持っていけば、相手も最初はぞんざいな扱いはしない。真剣にビジネスをしている大人と対等に喋れるのは、勉強になるし楽しかった。ビジネススクールで学ぶより、会社を作って仕事した方が絶対よい。全リスクを背負って、その会社を一生かけてずっとやる必要もない。

ただ、社会人になってからの起業は慎重に考えた方がよい。安定的な収入が見込めるサラリーマンの方が大概の人は幸せになれる。大手企業に勤めながら、副業の一つもできないようなら起業しない方がよいと思う。

掲載日:2016年3月25日

企業データ

企業名
株式会社ジゴワッツ
Webサイト
設立
2014年5月
法人番号
9021001053662
代表者
柴田知輝
所在地
神奈川県藤沢市遠藤5892-5
事業内容
認証・課金システムの開発、受託