あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「生クリーム仕立てのプチシュー」手軽さを追求すると“プチ”になった

「あの人気商品はこうして開発された」 「生クリーム仕立てのプチシュー」—手軽さを追求すると“プチ”になった  モンテール(東京都足立区)は1991年にチルドデザート市場に参入した。自社ブランドの本格的な展開に向け新商品開発に力を入れていた同社の目に、洋菓子の定番商品「シュークリーム」が留まった。ただ、すでに市場にある商品を焼き直しても後発のモンテールに勝機は薄い。差別化のポイントを探ると“誰でも手軽に”というキーワードが浮かんだ。

今までになかったシュークリームをつくろう—。モンテール(東京都足立区)は、1991年に「小さな洋菓子店」ブランドを立ち上げ、チルドデザート市場に参入した。自社ブランド商品での本格的な展開に向け、新商品開発に力を入れていた同社の目に、洋菓子で老若男女を問わず好まれる商品としてシュークリームが留まった。ただ、すでに市場にある商品と同じシュークリームを生産しても、後発のモンテールに勝ち目は薄い。差別化できる商品設計を模索し開発を進めていくうちに、「誰でも手軽に食べられるシュークリーム」というキーワードが浮かんだ。

食べやすさを追求した結果「プチ」に

モンテールは1991年に「小さな洋菓子店」ブランドを立ち上げチルドデザート市場に参入した(写真は98年秋ごろの売り場の様子)

モンテールは1991年にチルドデザート市場に参入すると自社ブランドのほか、コンビニ向けのプライベートブランド(PB)を主に手がけていた。ただ、商品のライフサイクルが短く洋菓子の定番商品をつくることが難しかった。

モンテールが自社商品として「マロンプリン」(現在の「焼プリン・モンブラン」)を売り出した時のことだった。発売すると、売り上げを伸ばし人気商品になった。「誰でも知っていて親しみのある定番商品の需要はあると気づいた」と、大曲治営業部部長は当時を振り返る。

洋菓子の定番商品の中で、モンテールが目をつけたのがシュークリームだった。市場を見回すと、直径10センチメートル程度の大きなシュークリームがほとんど。「専門店の味を誰でも手軽に」というものづくりへの姿勢をもつモンテールは、シュークリームの大きさに着目した。

「消費者調査で、大きなシュークリームは子どもや女性の口では食べづらいとの結果が出た。『そう言えば、口どけの良い本格的なカスタードクリームを使った“小さな”シュークリームは市場にないよね』と気づいたのが商品開発の原点だった」(大曲営業部部長)という。

1994年に発売した「プチシュークリーム=写真」は食べやすさなどからヒット商品になった

商品企画と試作のほか、焼き上がった小さなシュークリームの皮をつぶさずにクリームを充てんするノズルの設計や、生産ラインの改良などに約半年の時間を費やし、1994年9月に小さなシュークリームは「プチシュークリーム」として発売された。

それまで市場になかった小さく一口で食べられる「プチシュークリーム」は、食べやすさや子どものおやつとして重宝され売り上げを伸ばしていった。発売翌年の95年には前年比85%増の約780万パックに、96年には同28%増の約1000万パックの出荷数となった。

生クリームの配合比率に苦戦

“モアベター精神(「ベストはない。常に革新し続ける。」)”※造語をモットーにするモンテールは、常に商品の改善・改良を行い「(季節限定商品などを含めると年間約180の新商品を発売しているが)発売当時のまま今でも販売している商品は一つもない」(大曲営業部部長)という。1994年に発売した「プチシュークリーム」も例外ではなかった。

より良いおいしさを目指すために、モンテールは「プチシュークリーム」に使われている素材の見直しに着手。従来の自社製カスタードクリームとホイップクリームに加え、生クリームを使用することになった。

2005年に発売された「生クリーム仕立てのプチシュー」。絶妙なクリーム感を出すために試作を繰り返した

洋菓子専門店がつくるような深く本格的な味わいのシュークリームにするためには、生クリームの量を多くすれば良いようにも思える。しかし、「生クリームを使い過ぎると温度変化でクリームが変性しやすくなってしまう。流通過程に耐えられ、しかも口当たりの良いクリーム感を損なわない配合バランスを探し上げるのに苦労した」(同)。

約3カ月間、理想のバランスを追い求めた結果、経営陣も納得する配合を突き止めた。2005年3月に、商品特性をダイレクトに訴求するため、プチシュークリームを原点にした小さなシュークリームは「生クリーム仕立てのプチシュー」という商品名で発売された。

品質にこだわり牛乳を自社生産

自社内に設置されたミルクプラント。生成された牛乳を使い自社でカスタードをつくっている

モンテールの2013年8月期の売上高は253億円で、02年比で約2倍に伸びている。同社の成長を支えているのは、「プチシュークリーム」や「生クリーム仕立てのプチシュー」などの独自商品を開発してきた企画・開発力だけではない。洋菓子専門店と同じような素材へのこだわりと品質を求める徹底した取り組みがある。

同社は97年に、つくば工場(茨城県坂東市)を稼働させると、工場内にミルクプラントを設置。仕入れた生乳をパイプラインで送り、同プラントで牛乳本来の風味が生かされた低温殺菌牛乳をつくっている。また、この牛乳と卵黄や砂糖、小麦粉を混ぜて、自社内でカスタードクリームも生産している。

洋菓子専門店と同じ品質を追求するモンテール。八潮事業所(埼玉県八潮市)内にある直売所のショーケース(=写真)には、さまざまな商品が並ぶ

カスタードづくりでは、熱伝導率が高くなめらかなクリームづくりには最適な銅釜を使用する。効率よく生産するには大きな釜が理想的だが、「大量生産する工場としては比較的小さい銅釜を使っている。効率を求めるより、一番おいしいカスタードをつくることを優先させている」(大曲営業部長)という。衛生管理では食品衛生法で定められた基準よりも約300倍厳しい自主基準を設定し、品質管理を徹底している。

“楽しさ”伝えるためのさらなる取り組み

「万全の品質管理と本格的な味わいが差別化のポイント」と語る大曲治営業部部長

モンテールはTVCMなどのマスメディアを使った宣伝活動をしていない。それでも、売り上げを伸ばすことができている背景には「万全の品質管理と、自社製素材を使った洋菓子専門店のような本格的な味わいを追求してきたことが差別化のポイントになっている」(大曲営業部部長)と胸を張る。

もっとも、消費者とのコミュニケーションを疎(おろそ)かにしているわけではない。長年販売する定番商品の泣き所は、消費者が食べ飽きてしまうことにある。商品が陳腐化しないように、半年ごとに行っている味わいの改善・改良はもちろん、モンテールは自社商品を使ったアレンジレシピのイベントを開催したり、食品スーパーなどの店頭ではデコレーションした自社商品をショーケースに入れて展示したりするなどの取り組みを行っている。妥協のない品質へのこだわりと自社商品を使った商品提案が、成長の原動力になっている。

企業データ

企業名
株式会社モンテール
Webサイト
代表者
代表取締役社長:鈴木徹哉
所在地
東京都足立区島根4-23-22

掲載日:2014年3月12日