特殊シリンダー製造のトップメーカー

野村和史(南武) 第1回「自社特許製品をもつ実力派の中小企業」

野村和史代表取締役社長 野村和史代表取締役社長
野村和史代表取締役社長

国内シェア70%を誇る金型用中子抜きシリンダー(ダイカスト)

南武は多品種少量受注生産の特殊油圧シリンダーメーカーである。自動車エンジン製作向けに使われる金型用中子抜きシリンダーでは国内シェア70%、製鉄用のロータリーシリンダーでは世界シェア70%を誇る。国内有数の中小製造業の集積地として知られる大田区でも、特許に裏づけられた自社製品を製造する実力派の中小企業である。

社長の野村和史は1995年6月に死去した父親の創業者、野村三郎の後を継いだ2代目社長。経済学部卒の文科系ながら油圧シリンダーの知識にはかなり強い。本人は「門前の小僧、習わぬ経を読みです」と謙遜するが、同社が2000年9月に製品化した特許製品、金型用「スーパーロックシリンダー」開発の発想は野村のアイデアからだった。先代が築いた事業を土台に、同社を世界的なシリンダーメーカーに育て上げたのが野村なのである。

南武本社の写真

自動車エンジンの製作は複雑な形状をしたエンジンに対応して、一体成形可能な特殊シリンダーが求められていた。複雑な構造と成形とかつ精密さを要求されるエンジン製造には南武の特殊シリンダーの需要が高い。

「スーパーロックシリンダー」は金型に射出されたアルミニウム合金の射出時に起きる衝撃を防ぐシリンダーだ。これまでの技術では衝撃によって生じた隙間にアルミニウム合金が流れ、成形したエンジンにバリができてしまう。当製品は射出前に衝撃圧力の2.1〜3倍の圧力(プリロード)をかけ、衝撃を抑えることに成功した点だ。これでバリ取り作業の手間が省けた。従来技術では衝撃時に起きる圧力による戻りを防ぐため「かんぬき」を必要として大掛かりな設備を要した。

野村によると「何事においてもダイカスト製品にバリが発生するとバリ取りにたいへんな手間隙が掛かります。当製品はバリも出ない、かんぬきも要らない、しかも従来と較べ極めてコンパクトであり、コストダウンにつながることが評価され、自動車メーカーに採用されたんです」と開発の成果を強調する。

南武に基本特許を取られた、ある自動車メーカーの技術者が上司から「こんな簡単なものが南武に作られて、なんで君たちにできなかったのか」とお叱りを受けたというエピソードをもつ技術なのである。

同社の特殊シリンダーが「南武規格」として業界の標準規格となっているのも頷ける話だ。

黒字基調支える独創的な技術力

ロータリコアプーラの写真

南武は野村が2代目の社長に就任してから今日に至るまで、連続して業績は順調に推移してきた中小製造業の優良的な会社でもある。このことについて野村は「私が社長になってから極端な減益になったことがありません。特許製品ですから売り上げが伸びなくてもある程度、利益を確保できるんです。ですからこの間、資金調達に苦労したことはあまり経験がありません」と、企業の強みを強調する。

企業規模の大小を問わず、バブル崩壊後の未曾有の長期不況を乗り切った同社の技術の強みとはどこにあるのか。その秘密はまず第1に創業以来、他社の追随を許さない独創的技術の開発を重視してきたことにある。

現在、同社が保有している基本特許は10件に留まる。しかし、これに派生する周辺製品がしっかりと技術基盤を整えている。「毎年1件、特許製品を開発していこうと思っています」(野村)。特殊油圧シリンダーという専門分野であることを考えれば、十分過ぎる特許戦略と言える。

そして第2に、わが国最大の基幹産業である自動車メーカーならびに鉄鋼メーカーを顧客にもつ強みがある。しかし、自動車の大手メーカーを取引先にしていても、それだけで経営が安定するわけではない。まして顧客は常に激しい国際競争に曝されている産業だ。製品を安定供給するには並大抵の技術力では他社に市場を奪われてしまう。

しかし、南武には世界一の技術力を自負する自動車メーカーでさえ認める技術力と高い信頼を勝ち取るだけの隠された技術ノウハウがある。そのノウハウの一端を窺い知ることのできるこんなエピソードが残されている。(敬称略)

■ プロフィール

野村 和史(のむら かずし)

1938年12月、東京都大田区生まれ。
1961年4月、青山学院大学経済学部を卒業後、南武鉄工(現南武)入社。
1963年12月、本社工場の全焼に伴い退社し、17年間のサラリーマン生活を送った後、1984年に南武に再入社。
1995年6月、父で創業者の野村三郎の死去に伴い社長就任。

■ 会社概要

社名

株式会社南武

創業

1941年8月

設立

1965年12月

代表者

野村 和史

事業内容

特殊油圧シリンダーの製造・販売

資本金

58,000千円

従業員数

127名

本社

東京都大田区萩中3−14−20

掲載日:2007年8月 6日