あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「俺のスイーツ」価値づくりを追求しよう

「あの人気商品はこうして開発された」 「俺のスイーツ」—価値づくりを追求しよう 「スイーツは女性の食べ物」という固定概念に風穴を開けたスイーツがファミリーマートから2010年9月に発売された。ブランド名はズバリと「俺のスイーツ」。男だっておいしいスイーツをがっつり食べたい、そんなニーズを取り込んだ。こだわったのは売り手の思いを伝えることだった。

“スイーツ好き男性”を取り込め—。2010年9月に発売されたスイーツブランド「俺のスイーツ」シリーズがターゲットにしたのは、洋菓子商品で意表を突く男性だった。スイーツといえば女性の食べ物という固定概念に風穴を開けた。「おいしいスイーツをがっつり食べたい」と思う男性のニーズを的確に捉えた同商品の購買比率は「男性7割、女性3割と、ファミリーマートでの通常のチルドデザート商品より男性比率が1割近く増えている」(商品本部デリカ食品部の堀地晃良氏)。こだわったのは、商品という「モノづくり」に終始するのではなく、価値という「コトづくり」の追求だった。

俺のスイーツの前身「男のスイーツ」

2007年6月に発売した「男のスイーツ」シリーズ

ファミリーマートは2006年にオリジナルスイーツブランド「Sweets+」を立ち上げ、スイーツを戦略商品のひとつにしていた。また、元々コンビニ利用者は男性が多いこともあるが、同社のチルドデザート購買層は女性4割に対して男性は6割を占めているという。

当時は「スイーツ男子」などの言葉も出始めたころだった。メーン客層の男性をスイーツでも獲得していくために、ファミリーマートは07年6月に「男のスイーツ」シリーズを発売。北海道牛乳を使用したバニラゼリーにほろ苦く仕立てたコーヒーゼリーを合わせた「男のカフェラテ」や、濃厚なコーヒーの苦味と酸味のするコーヒーゼリーにショコラムースを重ねた「男の珈琲ゼリー」、甘さを抑えた「男のティラミス」などさまざまな商品を展開していった。

同シリーズでは、男性が普段飲み慣れているコーヒーをベースに素材を厳選しボリューム感を出すなど「商品ごとにテーマを決めて、男性向けスイーツの開発をしていた」(デリカ食品部の堀地晃良氏)という。ただ「見た瞬間に男性向け商品という感じのする設計ではなかった」(同)と振り返る。

思いを伝えられる商品開発をしよう

「俺のスイーツ」では、ターゲットとなる男性に響くような“価値づくり”に力点が置かれた

売り手の意思をしっかり伝えよう—。「男のスイーツ」発売から約2年後、ファミリーマートはリニューアル作業に取りかかった。商品という器(うつわ)をつくることだけに終わるのではなく「価値をつくることを追求しなければ、商品の魅力がお客さまに伝わらない」との判断の下、コンセプトの練り直しが行われた。

商品設計でキーワードになったのは、(1)ボリューム(2)控え目な甘さ(3)こだわりの素材。ターゲットとなる男性に、より響くように“とがった”コンセプトにした。男性の「スイーツをがっつり食べたい」というにニーズに応えるため、容量を大きくし視覚的にも男性向けに仕上げた。また、たくさん食べても飽きがこないように甘さを抑える設計にしつつも、リキュール類などを使い味が立体的になるように工夫した。

商品名は、がっつり食べたいというイメージを連想させるように「俺」の文字を採用。2010年9月、「俺のスイーツ」シリーズは、コクのあるホイップクリームをブラックココアの苦味のある生地で巻いた「俺のロールケーキ」と、深煎りコーヒーの苦みがアクセントになった「俺のティラミス」の2種類で発売を開始した。

コンビニならではの難しさ

商品サイクルが早いコンビニでは「年間約200種類の新商品が発売される」(ファミリーマート)という。店舗全体で商品のバランスを考えなくてはならず、コンビニには一つのブランドを長期間販売することが難しい面がある。「手軽な価格ながらも本格的な女性向けスイーツを重視する戦略を取ることになった」(デリカ食品部の堀地晃良氏)ため、俺のスイーツブランドは発売から約2年すると、新商品の開発を中断することになった。

潮目が変わった

2013年6月に復活を果たした「俺のスイーツ」。パッケージは従来通り黒色を基調に、男性のシルエットを配置しわかりやすさを演出した

だが、2013年に入ると風向きが変わってきた。「スイーツをがっつり食べたい」や「俺のスイーツをもう一度食べたい」と、俺のスイーツの復活を望む声が多く寄せられるようになった。

それだけでなく、デリカ食品部の堀地晃良氏は「マーケット自体が変わってきた」と分析する。「10年当時は女性のお客さまが男性向け商品を購入することは少なかったが、今はそのような性格の商品を出したからといって、女性が購入しなくなる傾向は薄れている。価格と商品価値が符合していれば、性別を問わず買っていただける」(デリカ食品部の堀地晃良氏)という。また「1年くらい前のコンビニスイーツの単価は150円程度だったが、今は200-300円の少し高い単価の商品が動いている」(ファミリーマート)と市場を取り巻く環境も変わってきた。

市場の変化が追い風となり、俺のスイーツは13年6月「俺のエクレア」と「俺のティラミス」の2種類で復活した。「俺のエクレア」の大きさはファミリーマート定番クレア商品の約1.5倍、エスプレッソ抽出したコーヒーの苦みを効かせた「俺のティラミス」は同社定番ティラミスの約2.6倍とインパクトを出した。

見た目だけではなく、味つけでも飽きがこないように工夫した。「甘さにキレがあれば、多少甘くてもしつこくは感じない。口の中に甘さが残らないように後味の良い甘さを追求した」(同)。また、パッケージは従来通りの黒色を基調にしながらも、男性のシルエットを配置し、わかりやすさを演出した。

大切なのはコンセプトが伝わる売り場づくり

俺のスイーツブラントでは、同商品に特化した販売促進活動は行っていないという。

「売り場で目立つ棚づくりが一番の宣伝活動」(デリカ食品部の堀地晃良氏)との思いがあるからだ。「コンビニに並ぶ商品の半分程度がオリジナルブランド。ひとつのブランドだけを抽出して宣伝するよりも、店頭で目立ち、お客さまに商品コンセプトがしっかり伝わる売り場づくりが一番の販促活動」(同)と、強く語る。

左から「俺のチョコロールケーキ」「同 チョコモンブラン」「同 のチョコクッキーシュー」。
10月に相次ぎ発売しラインアップの拡充を図る

ブランドエクステンション

復活を果たした俺のスイーツブランドは「俺のティラミス」などに続き、大容量のプリン「俺のプリン」や、バナナクリームを巻き込んだボリュームのある「俺のダブルロールケーキ」、チョコチップとビターチョコレートクリームをサンドした食べ応えのある「俺のワッフルケーキ」を発売した。

「商品コンセプトが伝わる売り場づくり」を展開するファミマ。今後は「俺」ブランドを「俺の豚玉」などスイーツ以外にも拡張していく

今年10月4日には、ココア味の黒いロール生地にチョコカスタードとアーモンド入りのホイップクリームを絞った「俺のチョコロールケーキ」を、8日にはブランデー入りチョコクリームを入れた「俺のチョコモンブラン」を相次ぎ発売。15日にはザクザクした食感が特徴でがっつり食べられる「俺のチョコクッキーシュー」の発売を予定するなど、ラインアップを広げている。

また、「俺」ブランドをスイーツ以外にも展開していく予定で、通常のお好み焼きの約2倍の厚さの「俺の豚玉」など惣菜や弁当商品も発売しブランド拡張していく方針だ。

デリカ食品部の堀地晃良氏は「俺のスイーツで培った“価値を作り上げる”という経験を生かして『俺シリーズ』をファミリーマートの独自定番商品に育てていく」と、思いを込める。

企業データ

企業名
株式会社ファミリーマート
Webサイト
代表者
代表取締役社長:中山勇
所在地
東京都豊島区東池袋3-1-1

掲載日:2013年10月 9日