あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「ゼリーdeゼロ」カロリーを気にせずに甘さを楽しめるゼリーを

「あの人気商品はこうして開発された!」 「ゼリーdeゼロ」-カロリーを気にせずに甘さを楽しめるゼリーを提供したい 2008年春、マルハニチロ食品から「ゼリーdeゼロ」が発売された。甘さへの誘惑を断ち切れずとも、体重を気にしないで食べられるカップセリ—商品。時代のトレンドをつかんだこのヒット商品の誕生物語とはいかなるものか。

ダイエットニーズがますます高まりをみせる時代にあって、マルハニチロ食品の「ゼリーdeゼロ」が好調に売上げを伸ばしている。甘さへの誘惑を断ち切れなくても、体重を気にしないで食べられるカップゼリー商品。脂肪燃焼補助成分まで入っていて、しかもおいしさはフルーツゼリーと遜色がない。この商品特性が消費者の支持を集めたのはいうまでもないが、そこには同社の独自技術という裏付けがあった。

サプライズを提供する

水産最大手・マルハニチロホールディングス傘下のマルハニチロ食品が、カップゼリーを手がけたのは1995年。旧・マルハ(前身は大洋漁業)の時代である。

カップゼリーを製造するにあたり、充填機は新たに調達する必要があったが、幸いにも原料の選別法や殺菌、冷却などの設備は缶詰用のものがそのまま転用できた。

当時、魚関連だけでなく、フルーツ商品も缶詰が主流だったが、やがて消費者からは中身が見える缶詰へのニーズが高まっていった。そこで同社は2003年に透明容器に入った野菜の缶詰(ピュアシリーズ)を発売した。さらに05年には透明のプラスチックカップに大ぶりのフルーツが入ったゼリー「今日のくだもの」を発売し、コンビニ(CVS)ルートを中心に市場開拓を進めていった。

中身が見える缶詰への消費者ニーズが高まり、2003年に透明容器入の野菜缶詰「ピュアシリーズ」(左)、2005年にフルーツゼリー「今日のくだもの」を発売

こうした取組みの中、新たな切り口としてカロリーゼロを訴求するゼリー商品「ゼリーdeゼロ」を2008年春に発売した。商品企画は07年初頭にスタートしたが、実はその約1年前の06年にカロリーゼロのゼリーをテスト販売していた。ただ、テスト販売の段階では市場からどのように評価されるのか見当がつかなかった。

新商品開発では、念入りに市場のトレンドを探り、それなりの資金を投じて執拗に消費者調査をかけたうえで満を持して発売しても、大半が当て外れに終わるのがほとんどのケースだ。その一方で、商品開発のプロでも見当がつかない商品がその憶断に相違して売れていく。そこに消費市場の妙味があるといえるだろう。

この「ゼリーdeゼロ」が発売されたころ、消費者の間ではダイエット志向の高まりが顕著であり、特に体重を気にする女性からのダイエット食品に対するニーズは根強く、砂糖ゼロのチョコ、糖質ゼロのビールなどが支持されていた。

「ゼリーは嗜好品のためカロリーがゼロなだけではだめ。当然おいしくないと買っていただけません」と「ゼリーdeゼロ」の開発のきっかけを語る西田幸世さん(市販用食品第二部デザート課)

「ゼリーdeゼロ」開発の経緯について、管理栄養士で日本野菜ソムリエ協会認定野菜ソムリエの資格を持つ市販用食品第二部デザート課の西田幸世さんは語る。

「ダイエット志向の高まりといっても、かつては体内に溜まってしまったものを取り除く商品という発想が中心でしたが、近年の市場のトレンドとしては、余分なものを摂らないという方向に移っていました。そこでカロリーゼロに着目したわけですが、ゼリーは嗜好品のためカロリーがゼロなだけではだめで、当然おいしくないと買っていただけません。そこでおいしいけれどカロリーはゼロというサプライズ(驚き)を提供する商品の開発をめざしました」

「ゼリーdeゼロ」のメインターゲットはF1層(20-34歳の女性)、そこに向けてネーミングはカロリーゼロをストレートに訴求。パッケージデザインも上蓋に大きくゼリーでゼロを描いてアイキャッチ効果を狙った。

08年3月に発売した当初はマスカット風味とマンゴー風味の2種(内容量190g、希望小売価格150円)。CVSを主体に販売した。

風味、甘み、食感を実現した秘訣とは

「これまで手がけたフルーツゼリー商品で提案したフルーツの味覚を楽しむというコンセプトを踏襲しながら、『ゼリーdeゼロ』はカロリーがゼロです。逆に言えば、カロリーゼロでありながらフルーツの風味と甘みを楽しめるのです。その秘訣として、ダイスカット(サイコロ形状)のゼリー(キューブゼリー)を入れることで本物のフルーツを口に入れたような食感を楽しめるようにしました。それがこの商品の大きな特徴です」

フルーツゼリー並みにフレーバーや食感を豊かに表現しながらも、カロリーゼロという差別化ポイントをもつ商品を開発できたのは、同社が長年かけて築いてきたフルーツゼリーづくりの技術力が基盤にあったからだ。

「ゼリーdeゼロ」は、カロリーゼロに抑えるため通常のゼリーに使用している糖分(砂糖、液糖など)をいっさい使用せず、エリスリトールやアスパルテーム、アセスルファムカリウムなどの人工甘味料で甘味をつくり出している。人工甘味料は食すと特有の後引き感があるためそれを嫌う人も少なくないが、数種類の甘味料や香料の組み合わせにより、自然な風味を実現した。

さらにダイエット志向者への訴求を図るため、脂肪燃焼補助成分として知られるアミノ酸のL-カルニチンを配合した。

「ゼリーdeゼロ」にはキューブゼリーを入れて食感にアクセントを与えている。ベースのゼリーだけでなく、少し歯応えのあるキューブゼリーが入っている。見かけと歯応えがフルーツのようなキューブゼリー、これが消費者から「ゼリーdeゼロ」が支持された肝でもあった。その開発にはいささかの試行錯誤があったという。

というのも、キューブゼリーはあくまでも脇役であるため自己主張しすぎてはいけない。したがってキューブゼリーが大きすぎたり多すぎたりしないよう、主役のゼリーとのバランスを入念にチェックし、サイズ、量とも絶妙の配合比を引き出した。

また、開発当初はキューブゼリーの形が崩れやすかったり、軟らかすぎて食感がよくないなどの問題もあったが、これに対してゲル化剤の配合比率を調整することによって解決した。
 「当社の『みつまめ』づくりの技術的経験が最後に大きく利きました。といいますのも、寒天をつくる機械を所有していたので、それをうまく活用すればいけるのではないかと考え、実際にうまくいきました。他の商品では便宜的にコンニャクやナタデココなどを入れていますが、キューブゼリーを開発できたことに『ゼリーdeゼロ』が差別化を図れた大きなポイントがあります」(市販用食品第二部副部長兼デザート課長・松本洋一さん)

発売後直後から予想以上の売れ行きとなり、その後も「ゼリーdeゼロ」の快進撃は続いた。

つぎなる一手を打ちこむ

カップゼリーの市場規模は現在370億円超。そのうちカロリーゼロの機能性ゼリーが約60億円を占める。短期間のうちに一大市場が築き上げられたといえよう。

CVSでフルーツゼリーを購買する男女比率は7対3であり、とりわけ30代の男性の比率が高い。それに対してゼロカロリー系のゼリーは女性の比率が上がるという。

 一方、量販店は当然ながら女性客が圧倒的に多い。発売当初の「ゼリーdeゼロ」の容量はCVS、量販店ともに向けも190gの商品を供給していたが、09年からはそれぞれの顧客の特性に対応するよう販売戦略を修正し、男性客の多いCVS向けの内容量は290gに設定した。さらに、10年秋の商品からはコラーゲンを入れ、12年春の商品からは寒天を入れるなどつぎつぎと商品の付加価値化を進めている。

10年秋の新商品ではコラーゲンを入れて付加価値化を高めた

また、競合他社の商品に対する優位性を高めるため、安易な低価格競争から脱する一案を温めている。
「実は消費者調査から、よりよいもの、より満足できるものを求める主婦層の消費性向には、フルーツゼリーでも比較的高価格帯が伸びています」(松本さん)
カロリーゼロのゼリー商品「ゼリーdeゼロ」を生み育てる一方で、高価格でも十分な満足を提供するゼリー商品を広く展開する。マルハニチロ食品のゼリー商品はつぎへの一手を着実に打ち進んでいく。

企業データ

企業名
株式会社マルハニチロ食品
Webサイト
代表者
代表取締役社長 坂井道郎
所在地
東京都江東区豊洲3-2-20 豊洲フロント

掲載日:2012年2月 8日