あの人気商品はこうして開発された「食品編」
「きゅうりのキューちゃん」うまくて、安価で個性のある漬物をつくる!
戦後10年を経過しようとしていた1950年代、国内は流通革命により大量生産・大量消費の時代を迎えようとしていた。それと軌を一にするように、食品包装の技術も大きな発展を図ろうとしていた。プラスチックを原料とする容器や袋などさまざまな形態のパッケージが開発されていた。
そんな社会情勢を背景に、東海漬物製造(現、東海漬物)は1962(昭和37)年にきゅうりの漬物「きゅうりのキューちゃん」を発売した。透明な小袋に入った漬物。しかも醤油で味付けされている。当時としてはすべてが珍しい漬物商品であり、またたく間にヒットを飛ばした。
漬物の革命だった
日本人にとって漬物は食卓に欠かせない食べ物。だからうまくて安価で個性のある漬物を開発する。それがキューちゃんを開発する動機だった。
昭和30年代、漬物はぬか漬けが常識だった当時、同社は刻んだきゅうりを醤油に漬けた漬物を発売した。業界から見れば常識破りの漬物であり、同社としては漬物の革命を自負する新商品だった。うまくて個性がある。その表れが醤油漬けであり、その流れを受けたのがキューちゃんだった。
キューちゃんは味付けだけでなく、パッケージも革新的だった。冒頭にも触れたが、50年代に入ると食品用のプラスチック系パッケージが著しく進化した。当時、漬物は店頭の樽から小分けされ量り売りされていたが、キューちゃんは家族構成に合わせた小袋入りの商品として発売されたのだ。小売店での量り売り時代に小袋入りの商品は珍しかったが、食品スーパーが台頭し始めた時代だったことを鑑みれば、時代を先取りしたパッケージの採用だった。
また、商品名も革新的だった。「キューちゃん」という擬人化したネーミングとキャラクターの採用は、漬物のみならず食品全般を見渡しても珍しく、大胆な決断ともいえた。
キューちゃんは発売からヒットを飛ばし、10年も経ないうちに同社の基幹商品に成長した。流通革命により全国津々浦々まで商品が搬送され、食品包装革命により衛生的な個包装の商品が家族構成に応じて入手できる。こうした利便性がキューちゃんのヒットを後押しした要因でもあった。そしてなにより、醤油漬けという新しい味が消費者の心をつかんだのだった。
消費ニーズの半歩先を行く開発
ロングセラー商品の常である改善・改良にも余念がない。商品コンセプトの根幹である風味は守り続けているが、味付け成分の1つである塩分については継続的に低減化を試みている。発売当初の塩分濃度は10%以上だったが、リニューアルのたびに低減させ、2001年にリニューアルした商品では4%まで減塩している。漬物の味わいでは塩分が大きく影響するが、これだけ減塩化してもキューちゃんの風味は変わっていない。
キューちゃんを始めとして同社が商品開発で貫くポリシーが「その時代の消費者ニーズに同期」する姿勢だ。決して消費者ニーズを大きく先取りすることなく、消費者ニーズに合致、もしくは少しだけリードした商品を提供する。それが開発ポリシーだ。
その表れの1つが07年にリニューアル発売した「きゅうりのキューちゃん」。新しくなったキューちゃんのメッセージは、「ごはんに合うおいしい野菜」。パッケージでも訴えているが、消費者の健康志向にさらに合致させるため、ゴーヤを用いることで食物繊維を加えた。これにより栄養素の補給による付加価値の向上を図ったのだが、そのために採用したゴーヤはいまほど広く知られた野菜ではなく、当時としては認知が広がりかけていた野菜であり、その点では開発ポリシーの「消費者ニーズを少しだけリード」を実践した改良だった。
東海漬物では、きゅうりのキューちゃんを始めとした今後の商品開発では、漬物というカテゴリーにとどまらず、野菜加工商品というイメージを訴えていくことが重要と考えている。日本人にとって漬物は塩分の高い食品というイメージが強いが、漬物の原料である野菜はカロチン、ミネラルなど栄養素を摂取しやすい食材でもある。だからこそ、従来のようにビタミンなどの栄養素と嗜好性(クロロフィルなどの呈味成分の摂取)の提供だけでなく、野菜のもつ重要な機能である生体調節機能も訴求する商品へとつなげていく。そんな新しい概念の漬物づくりにベクトルを定めようとしているのである。
企業データ
- 企業名
- 東海漬物株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 代表取締役社長 大羽恭史
- 所在地
- 愛知県豊橋市駅前大通2-28
- Tel
- 0532-51-6101
掲載日:2011年12月 6日