あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「俺がえらぶ、おかず黒ごま」商品化が進んでいない素材こそチャンスあり

「あの人気商品はこうして開発された」 「俺がえらぶ、おかず黒ごま」—商品化が進んでいない素材こそチャンスあり ごま製品の製造販売を手がける真誠は、黒ごまを使った商品の開発に乗り出した。ただ、同商材は色合いなどから食品メーカーが使用を敬遠してきた素材。POSデータ上も、最下位に属する材料だった。“とがった”商品設計にしなえれば、開発するだけ損になることは目に見えている。商品化の鍵は「男らしさ」にあった。

黒ごまに脚光を—。白ごまと違い、黒ごまの黒い色素には抗酸化作用のあるアントシアニンが含まれ健康に良いことは知られているが、色合いなどから商品化が進んでいなかった。ごま製品の製造販売を手がける真誠(愛知県北名古屋市)は、ここにチャンスを見出した。白ごま加工品がごま商品市場を席巻している中で、黒ごまを使った商材を開発できれば「インパクトは大きい」(関東営業部の内野昇営業部長)と考えた。営業上も有利になるが、黒ごまは胡麻の中でも販売時点情報管理(POS)データ上、最下位に属する商品素材。“とがった”商品設計にしなければ、開発するだけ損になることは目に見えている。どうすれば、消費者の目を引く商品にできるのか—。鍵となったのは「男らしさ」だった。

味つけごまの基礎は「しょうゆ味ゴマ」

ごまの加工法は「煎る(いる)・擂る(する)・練る(ねる)」の3つのパターンがほとんどで、利用法に広がりが欠けていた。何か違う方法でごまを使うことはできないか企画を練っていた真誠は、ごまに味をつけることを思いついた。日本人の口に合うようにと、選んだ味はしょうゆ。96年に「しょうゆ味ゴマ」を発売した。

商品開発のベースになった「しょうゆ味ゴマ」(1996年発売)

同商品は、そのまま食べるだけでなく、ふりかけや和え物などにも利用されるようになり認知度を高め、同社のロングセラー商品に成長した。その後、「うめ味ゴマ」や「マヨネーズ味ゴマ」、ふりかけの素材としてのかつお風味のごまなど、フレーバーを増やし、さまざまな味付ごまが開発された。

ただ、これまで味付ごまに使っていたのは白ごま。「黒ごまの見た目もあるが、黒だとそれ以上色を付けることができない。そのため、黒ごまを選択することはなかった」(開発部 企画・開発チームの近藤貴宜主任)という。

男性をターゲットに商品設計

「白ごまが主流の商品群の中で、黒ごまを使った商品ができればインパクトがあるのではないか。黒ごまで商品を開発してみたい」—。「俺がえらぶ、おかず黒ごま」を開発したきっかけについて、近藤主任はこう振り返った。

もっとも「黒ごまは全国的に見ても、ごま商品の中で最も売れない商品。いりごまの白が安定的に首位で、いりごまの黒は最下位が定位置となっている」(内野営業部長)ため、商品開発の素材にするには向かない材料だと思われていた。

コーティング法などの蓄積してきた技術やノウハウが生かされた

風向きが変わってきたのが、黒ごまを使った商品構想を練っていた2010年ころ。「弁当男子」や「男子ごはん」などの言葉が流行し、男性向けの料理本や雑誌が数多く出版されるようになってきた。「男性をターゲットにした商品という切り口にして、手軽に料理をアレンジできる商品にすれば、黒ごまを使えるのではないか」と、近藤主任はひらめいた。「黒色は男らしさの代表格。黒ごまにニンニクを使い唐辛子のピリッと辛い味付けにすれば、“とがった商品”にすることができる」(同)と、商品コンセプトを落とし込んでいった。

黒ごまに味をつける際に役立ったのが、「しょうゆ味ゴマ」発売から積み上げてきた技術だった。当初は液体調味料のみでごまに味付けしていたが、さらに濃い味を付けるため、調味パウダーをごまにコーティングする技術を自社で開発。これにより、さまざまな味付けごまが生産できるようになった。

壁になったニンニクのにおい

順調に進んでいるかのように見えた開発だったが、問題が出てきた。ニンニクを使うと、においが他の商品についてしまうため、生産工場での使用になかなかGOサインがでなかったのだ。

ごまにコーティングする際に、においの少ないニンニクパウダーを探し出すために、食品の素材展示会に足しげく通ったり、取引先から原料を取り寄せたりする日々が続いた。10数種類ほどに目星をつけて、試作していると、その内の一つに、釘つけになった。「においを嗅ぐと、それ程においがしない。それでいて、口に入れると、ふわっとニンニクの味が広がった。これだ!と飛び上がった」(近藤主任)。工場に持っていくと「この程度なら」とお墨付きをもらい開発が本格的にスタートした。

ニンニクに合わせる調味料には、日本人になじみのある「しょうゆ」と、変わり種ではあるが、にんにくと相性のいい「マヨネーズ」を選んだ。また、ニンニクの風味をダイレクトに感じてもらうために「にんにく味」もラインアップに揃えた。

絶妙なバランスを発見

黒ごまを一つまみ口に運ぶと、ふわっと口の中に味わいが広がる

ニンニクパウダーとピリッと辛い唐辛子をベースにしょうゆやマヨネーズで味付けされているが、実は、ニンニクの味付けをした黒ごまと、しょうゆまたはマヨネーズのパウダーで味付けをした黒ごまの2種類をブレンドさせている。「一粒にいくつもの味を付けてしまうと、どちらかの味が勝ってしまい、どちらかが弱くなってしまう。個々の味をうまくブレンドすることで、調和のとれた味になる。「うめ味ゴマ」は、酸味のするごまと旨味があるごまをブレンドしているが、この時の経験が生かされている」(近藤主任)と、理由を説明する。

調合過程では、しょうゆやマヨネーズなどの調味パウダーで味付けした黒ごまとニンニク味の黒ごまの味がバランスよく出てくるまで試作を続けた。「最初は調味パウダーをつけた黒ごま約1に対してニンニクの黒ごまを約9にした。そこから、配合比率の変更を繰り返し、どの料理にも合う比率を探し出した」(同)。

試作した商品の袋を開けた。すると、中からほのかにニンニクのにおいがしてきた。次に黒ごまを一つまみ、口に運ぶと、ニンニクの味としょうゆやマヨネーズなどの味がふわっといっぱいに広がった。思い通りの新商品が出来上がった。

さまざまな料理での使用シーンを提案する

商品名は男性を意識した商品であり、料理のおかずにもなる設計のため「俺」と「おかず」の文字を入れた。パッケージは、男をイメージした黒色をベースに黒ごまで「俺」を描き斬新なデザインにした。「候補には『男』もあったが、男性に限定し過ぎるとの意見があった。『俺』とした方が、女性にも手に取ってもらえるとの考えがあった」(同)。

2012年7月、「俺がえらぶ、おかず黒ごま」シリーズは発売された。「お客様が手に取って頂ける商品設計にするのが企画の仕事だとすれば、その商品を食品スーパーなどの小売店の棚に並べてもらえるようにすることが営業の仕事」(内野営業部長)。営業部員の闘いが始まった。

勝負は始まったばかり

開発を担当した開発部 企画・開発チームの近藤貴宜主任(右)と、関東営業部の内野昇営業部長

「手に取ってもらえれば、勝てる商品。そういう自負がある」—。内野営業部長は、自信をもってこう答える。営業時には、おにぎりにつけて食べたり、和え物に使ったりするような利用シーンの提案はしていない。「誰でも思いつくような使い方を見せても、営業トークにはならない。コンビニでから揚げを買って、温かい内に『俺がえらぶ、おかず黒ごま』をまぶして小売店のバイヤーに食べてもらうと人気になった。企画チームも利用例の提案をしてくれる。何か違う利用シーンの提案ができるように心がけている」(内野営業部長)という。

昨年7月の発売以来、売り上げは「当初の計画値より伸びている」(同)。TVCMなどの媒体を使った大体的な宣伝活動は難しいが「味で勝負できる商品。お客様にお求め頂ける機会を増やすために、店頭販売などを通じて認知度を高めていきたい」(同)とする。勝負は始まったばかりだ。

企業データ

企業名
株式会社真誠
Webサイト
代表者
代表取締役社長:冨田博之
所在地
愛知県北名古屋市片場新町29

掲載日:2013年6月 5日