あの人気商品はこうして開発された「食品編」
「じゃがりこ」既成概念を取っ払え!
ポテトスナック菓子「じゃがりこ」を開発したのは、カルビーの若手社員5人だった。一番年上でも当時31歳。そのほかのメンバーは大学を卒業して間もない入社2年目程度の社員だったという。顔ぶれの中に役職者はいなかった。会社からプロジェクトチームに課された命題は「屋外消費型のスナック菓子」の開発。間口の広いテーマを与えられたことに加え若手だけのチームだったため、既成概念にとらわれない自由な発想が飛びかった。1995年10月、約2年半かけて若手5人がたどり着いた結論が、カップに入ったスティック型ポテトスナック菓子「じゃがりこ」だった。
若手社員の常識に縛られない発想に期待
カルビーは1992年に中期経営計画を立てていた。同計画の柱の一つに新商品開発があった。「90年代に入ると、スナック菓子市場は横ばいの状況が続いていた。市場を活性化させるには新しいタイプの商品が必要だった」(マーケティング本部じゃがりこ事業部の小泉貴紀部長)と、当時の背景を語る。
新商品開発プロジェクトを任されたのは若手社員5人。従来の商品にはない新しい価値を創造するのに、先入観や業界の常識は邪魔になる。会社は若手社員の自由なインスピレーションに期待した。
90年代初頭のスナック菓子市場は袋タイプが大半で、メーンターゲットは30-40代主婦、利用シーンは家で食べることがほとんどだったという。屋外で食べられる設計にすれば利用場面が広がり市場を拡大できるのではないかと考え、基本コンセプトは「外で食べられるスナック菓子」に決まった。
次に取りかかかったのがターゲットの設定だ。プロジェクトメンバーは女子高校生をメーンターゲットに据えた。総務省統計局の「日本の人口2013」によると、1990年の15-19歳(女性)の人口構成比率は約3.9%に過ぎない。その中でも「女子高校生は全人口の数%。だが、彼女たちの情報発信力に期待した。この層を押さえることができれば、全世代に広がる」(同)と、女子高校生をターゲットにした経緯を説明する。
女子高校生が鞄(かばん)の中に入れて外で食べられるようにするには、従来のポテトチップスのような、じゃがいもを薄くスライスした形状では食べにくい。また、味付けのパウダーを上からかけた仕様では手が汚れてしまう。これらの問題点を解決するため、形状はスティック型に、味付けは素材を生地に練り込む設計になった。
キーワードは「楽しく食べる」
素材を生地に練り込んだスティック形状のポテトスナック菓子という基本スタイルはできあがった。だが、まだプロジェクトメンバーの前にはある壁が立ちはだかったままだった。
屋外でも食べられるスナック菓子の利用シーンを考えると、メンバーの間に「みんなで楽しく食べる」というキーワードが浮かんだ。楽しさをスナック菓子でどう表現したらいいか—。この問いにメンバーが出した答えが「食感」だった。だた、この“楽しい=心地よい食感”が壁となっていた。
求める食感を開発するために独自の製造技術を開発、試作をしては消費者調査を繰り返す日々が続いた。「開発期間のほとんどを、食感の研究に費やした」(小泉貴紀部長)ほどだった。
試作を山のように重ねようやく「はじめにカリッとあとからサクサクの食感」(同)に行きついた。「もともと経営層から『固い食感ものは売れない』と言われていた。それでもめげずにメンバーは開発を続けた。今でこそ固い食感のスナック菓子が多くなってきているが、当時は口どけのよい商品がほとんど。既成概念にとらわれない若手だからこそできた着想」(同)と目を細める。
1994年、独特な食感が特徴のスティック型ポテトスナックは発売された。しかしこの時の商品名は「じゃがりこ」ではなく「じゃがスティック」だった。
「じゃがスティック」の改良に着手
じゃがスティックの長さは現在のじゃがりこ(約70ミリメートル)の約2倍で、スティックの形状は円柱ではなく四角柱。パッケージは長方形の箱だった。
1994年に発売すると消費者から「長くてボロボロこぼれる」や「つまみにくい」などの声が寄せられたという。
消費者の要望を受け止め、プロジェクトメンバーはじゃがスティックの改良に着手。スティックの四角い形状を丸型に変え、長さも一口サイズの大きさにした。
また、パッケージも従来の箱型からカップ型に変更した。「箱型だと外箱を開けた後、内袋を開けるため2回の手間が必要になる。その点カップ型だと、ふたを開けるだけでよく利便性を高められる。もともと屋外で食べてもらいたいと思って開発した商品。自動車のドリンクホルダーにも入る容器の方が利用シーンは広がる」(小泉貴紀部長)と変更の理由を語った。
「じゃがスティックでは一般名称のように響いてしまいブランドとして成立しないという声があった」(同)ため、商品名の刷新も図った。
「当時の開発者の友人にリカコさんという人がいた。その人に試作品を食べてもらっている時に『じゃがいも』と『リカコ』を足して『じゃがりこ』を思いついたと聞いている。担当者のインスピレーションで決まった」(同)と、にこやかに笑う。1995年10月、カップに入ったスティック型ポテトスナック菓子「じゃがりこ」は発売された。
発売に合わせてTVCMを放映。サクサクした食感をダイレクトに伝えられるように、「じゃがりこ」とういう商品名を連呼して商品を食べるたけのシンプルな内容にした。同CMの効果はてき面にあらわれ「CMを見て商品を知った人が約7割にのぼった」(同)。また、食品スーパー(SM)などの店頭面では「カップ型スナック菓子は当時珍しかったことから、持ち運べる携帯性を訴求して商品陳列を確保していく取り組みを行った」(同)。マスメディアを使った戦略と店頭を回る地道な活動が功を奏し、売り上げは「右肩上がりに伸びていった」(同)という。
転機となった「たらこバター」と「Lサイズ」
順調に売り上げを伸ばしていったじゃがりこだったが、2005年ころからブランド売上高が200億円前後で成熟状況になっていた。
05年からブランドを担当する小泉貴紀部長は、07年に従前の4品体制から4品目を期間限定商品に変え、「サラダ」「チーズ」「じゃがバター」の定番3品を活性化させる戦略に切り替えた。期間限定品の投入で定番品が活性化され、ブランド売上高は250億円前後に成長。だが、次第に成長の波はまたも穏やかになっていった。
転機となったのが、11年に期間限定商品として発売された「たらこバター」だった。「一般的にロングセラー商品ではフレーバー追加しても、効果は期待できないと思っていたが、たらこバターは違った。大ヒットだった。通常の期間限定品の2倍程度の売れ行き」(小泉貴紀部長)と語り、驚きを隠さない。12年6月からはコンビニ限定での定番品に“格上げ”された。
また12年10月からは、スティックの長さが約85ミリメートルの「じゃがりこLサイズ」をコンビニ限定で投入。定番サイズでは物足りないという消費者ニーズを取り込んだ。 たらこバターとLサイズの投入効果がブランド全体に波及し、13年3月期のじゃがりこブランドの売上高は285億7700万円、売上高構成比は15.9%となり同社のポテトチップスブランドに次ぐ地位を占めるようになった。
消費者の声に耳を傾けカップ高さ変更
これらの施策と並行してカルビーが行ってきたことがある。カップの高さの変更だ。1995年発売時のカップの高さは110ミリメートルだった。それに対して、スティックの長さは約70ミリメートル。「商品を開けると中が、すき間だらけのように感じた」との声が消費者から寄せられたという。流通段階の配送によってスティックが下方に沈んでしまっていた。
これを受けて、カルビーはスティックが整列して充てんできるように技術改良を行い、04年にカップの高さを96ミリメートルにし、見た目にもボリュームが感じられるように工夫した。さらに09年には88ミリメートルに変更。よりコンパクトサイズにすることで携帯性を高めるとともに「アルミや紙の使用量を減らし、環境配慮型のカップにした。1個あたり、紙とアルミの使用量が8%削減された」(小泉貴紀部長)という。
若手社員5人のプロジェクトメンバーが既存の常識にとらわれない自由な発想で商品設計したじゃがりこは、こだわりの食感とカップ型の携帯性が消費者の心をとらえ、売り上げを伸ばしていった。
当初のメーンターゲットは女子高校生だったが、今では「おじいちゃん、おばあちゃんがお孫さんと一緒に食べたという手紙をいただくこともある。着実にすそ野が広がっている」(同)と手ごたえを感じている。ロングセラー商品に成長できたのは、若手社員だからこその着想と、その後の消費者の声に耳を傾けブラッシュアップを続けてきた相乗効果にある。
企業データ
- 企業名
- 会社名:カルビー株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 代表取締役社長:伊藤秀二
- 所在地
- 東京都千代田区丸の内1-8-3丸の内トラストタワー本館22階
掲載日:2013年9月18日