あの人気商品はこうして開発された「飲料編」

「タフマン」あえて“おじさんドリンク”を標榜する

「あの人気商品はこうして開発された!」 「タフマン」-あえて“おじさんドリンク”を標榜する 今年で販売30周年を迎えた「タフマン」は、1981年にヤクルト本社が販売した栄養ドリンクだ。2004年にそれまでのイメージを一新する第リニューアルを敢行したものの、成果は長続きしなかった。そして本年、旧来のイメージを復活させるべく大リニューアルしたタフマンだが、その背景にあるものはなんだったのだろうか。

栄養ドリンク「タフマン」はヤクルト本社のロングセラー商品だ。商品の消長が激しい現代にあって、今年で発売30周年を迎えた。それを機に大幅なリニューアルを敢行し、原料の高麗人参エキスの容量を従来品の4倍に増量し、パッケージデザインも一新した。

今回はタフマン誕生以来2回目の大規模なリニューアルだったが、その背景はなんだったのか、そのねらいはなんだったのか?そこから探っていこう。

肉体疲労でへたっていられない時代

1981年に全国発売されたヤクルトの「タフマン」。80年代の経済高揚期のビジネスマンに合致した栄養ドリンクだった

栄養ドリンク-ちょっと不思議な飲料である。聞けば誰もがただちにイメージできる。それほど社会に浸透した存在なのに、その言葉は、「日本国語大辞典」「広辞苑」などの国語辞典はおろか現代用語の辞書類にさえ収載されていない。そのため本稿では「肉体疲労時の栄養補給を目的としたドリンク剤」と理解して話を進めていくことにする。

さて、その栄養ドリンクが日本に初めて登場したのは、高度経済成長のまっただ中の1962年。大手製薬メーカーが発売した栄養ドリンク剤がパイオニア商品だった。そして、それを皮きりにあまたの栄養ドリンクが市場を賑わせていった。

ヤクルトの「タフマン」はそれよりやや遅れ、80年11月のテスト販売を経て81年に全国発売された。日本経済は73、79年の2度にわたる石油ショックで一時的に成長が頓挫したが、80年代に入って再び活況を取り戻し、85年のプラザ合意を機にバブル経済に突入。経済社会は未曽有の高揚感につつまれていた。まさにビジネスマンにとっては肉体疲労でへたっていられないような時代だった。ゆえにタフマンはそうした経済社会状況を背景に好調に売上げを伸ばしていった。

また、売上の伸張にはバブル経済だけでなくCMも大きく寄与していた。ヤクルト本社は85年からタフマンのCMに俳優の伊東四朗を起用し、そのコミカルなキャラクターが大いにうけ、タフマン=伊東四朗と評されるほどに認知度を高めていった。

20年超のロングセラー商品に危機が…

ところが89年12月29日を頂点にバブル経済ははじける。史上最高値をつけたこの日の株価は日経平均3万8,915円だったが、それ以降の株価は続落の一途をたどり、日本経済は長期疲弊に陥った。

日本経済が“元気”を失うと同時に栄養ドリンク市場にもかげりが見え始めた。また、タフマンについてはイメージキャラクターの伊東の年齢が上がるにつれ、「おじさんの栄養ドリンク」というイメージが定着してしまう。そのためか、95年をピークにタフマンの売上は漸減傾向になり、2000年以降はそれが加速する。また、競合他社の栄養ドリンク剤が20~30代の企業戦士を対象として販売戦略を展開する中で、おじさんドリンクのタフマンはそのイメージが市場から消えかかろうとしていた。

20年以上のロングセラー商品が直面する危機を打開するため、ヤクルト本社は04年にタフマン(高麗人参、シベリア人参、田七人参などが主原料)を大きくリニューアルした。デザインを一新し、シリーズ商品として「タフマンV」(高麗人参にローヤルゼリー、ビタミンを配合)をリリースした。また、イメージキャラクターを伊東から人気アイドルグループTOKIOのメンバー、松岡昌宏に替え、おじさんイメージからはつらつビジネスマンへとイメージチェンジを図った。

2004年にリニューアルされたタフマン。デザインを一新し、おじさんドリンクからはつらつビジネスマンへとイメージの変更を図った
2004年のリニューアルで誕生した「タフマンV」

このリニューアルは一時的な効果をもたらし、タフマンは売上をもち直したものの、長続きはしなかった。そしてほどなくして再び下降を始めてしまう。しかし、せっかくのロングセラー商品をこのままにはしておけない。なんとかこの状況を巻き返さなければならない。開発部署の商品担当者の苦悩が続いた。

あえて「おじさんドリンク」を標榜する

2010年、ヤクルト本社は再びタフマンのリニューアルに着手した。そのバックボーンがブランド力の再認識だった。業務部企画調査課主事の小室伸之さんは語る。

「2010年3月に発酵乳『ミルミル』をリバイバル発売したのですが、これが予想以上の反響でした。そこにミルミルのブランド力の強さを改めて認識しました」

かつてミルミルは売上げの低迷から終売されていたが、その後も消費者からミルミルへの問合せが途絶えず、そのたびにブランド力の強さ、認知度の高さを実感させられていた。そんな矢先にブランド復活が決まり、実際にミルミルを市場に送り出すると好調な売上を示していった。まさにブランド力を再認識した瞬間だった。

「このブランド力への再認識がタフマンリニューアルの背景にありました。ミルミルのように、資産を活かしたリニューアルをタフマンでもしてみよう。タフマンを復活させようと考えたわけです」

「ブランド力という資産を活かしてタフマンをリニューアルした」と語る業務部企画調査課主事の小室伸之さん

30~60代の男性を中心に市場調査したところ、タフマンのイメージとしてCMキャラクターの伊東四朗とラベルの「タフマンマーク」(左右に丸くふくらんだイメージのデザイン)が圧倒的に評価されていた。小室さんは続ける。

「栄養ドリンク=若い企業戦士みたいに思われがちですが、実態はそうではありません。中高年の多くが飲用していることが見て取れました。それはそうですね。バブルの頃に20代後半から30代だった企業戦士たちもすでに40代後半から50代になっています。しかも、現在の飲用率で30代は落ちているものの、40~50代は上がっているという傾向でした」

中高年をターゲットにした栄養ドリンク。そのようにリニューアルの方向が決まると一気に開発が進んだ。若者よりも40代以上をターゲットにした商品コンセプトを掲げ、あえて「おじさんドリンク」を標榜したのだ。

2011年にリニューアルされたタフマン。ラベルのマークが復活した。
タフマンVは、原料のビタミン類が変更された
タフマンG1000のラベルも変更

そこでタフマンは、滋養強壮・強心効果で知られる高麗人参エキスの配合量を従来品の4倍(25mgから100mg)に増量した。そこまで高麗人参エキスの配合量を増やしながらも、すっきりとした風味に仕上げて飲みやすくした。

また、タフマンVは、配合しているビタミン類を葉酸(ビタミンM)からビタミンEに替えて抗酸化効果力を上げた。さらにはノンカフェインにすることでカロリーをタフマンに比べて約17%カットした。

タフマン、タフマンVおよび「タフマンG1000」(高麗人参エキスを1000mg配合、06年発売)のパッケージデザインは大幅に変更した。ラベルにはタフマンマークを復活させ、昔ながらの愛飲者への訴求力を高めている。

タフマンマークとはどんな意味なのか?植物の発芽?ボクシングのグローブ?いや、そうではない。「エネルギーが噴水のごとく湧き上がるイメージ」という。

CMキャラクターへの復帰をオファーした伊東四朗からは「私でいいのですか?」と遠慮の声がもれた。が、中高年に対する伊東の訴求力の強さを確信し、ためらいなくリバイバル路線を押し通した。

イメージキャラクターとして俳優の伊東四朗も復活した

2011年5月、リニューアルなったタフマンが発売された。プロ野球チームのヤクルト・スワローズは、6月4日の対日本ハム戦(セパ交流戦)を「タフマンデー」とし、伊東が始球式に立つとスタンドから拍手喝采を浴びた。ミスタータフマン復活の見事な演出だった。また、ヤクルトの選手はタフマンマークの付いたヘルメットをかぶって打席に立つ。そのマークがテレビ画面に映し出される効果も大きい。

販売チャネルは全国に約4万2000人を擁するヤクルトレディによる販売のほか、コンビニや量販店での店販・自販機だ。その売り上げ比率はほぼ半々。ヤクルトレディは家庭の主婦向けにヤクルト飲料を訪問販売しているが、その折、タフマンをご主人向けにと推奨販売している。タフマンをカートンで買う顧客には、ブランドメーカーとコラボした特製バッグをプレゼントした。

こうした販促の効果から出荷の出足は絶好調で、5月は前年同月比231%、6月も同187%増の売上げを記録している。

タフマンは夏場商品のため平年なら秋以降スローダウンしていくが、秋にもう1つの山をつくる。その山の仕掛けがヤクルト・スワローズの感謝セールであり、今季のリーグ優勝の期待が高まるだけに、タフマンの売上伸張にも熱がこもる。

企業データ

企業名
株式会社ヤクルト本社
Webサイト
代表者
代表取締役社長 根岸孝成
所在地
東京都港区東新橋1-1-19
Tel
03-3574-8960

掲載日:2011年9月 2日

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