あの人気商品はこうして開発された「食品編」
「サッポロ一番」札幌・ラーメン横丁の味を家庭に届けたい
サンヨー食品は非上場企業ということからか、巷で聞いてもすぐに企業イメージを思い浮かべられる人は少ない。しかし、「サッポロ一番」と聞いただけで、全国津々浦々のだれもが商品をすぐにイメージできる。
その「サッポロ一番」は今年(2011年)で発売45周年のロングセラー商品であり、社名にまさる認知度をもつ典型的なブランド商品なのである。
やはり王道のしょう油で勝負
サンヨー食品は1953年11月、井田文夫社長(当時)が富士製麺の社名で群馬県前橋市に創業。61年7月にサンヨー食品に社名変更し、その5年後の66年1月に同社の屋台骨となる「サッポロ一番」を世に送り出す。
日本の即席麺史は、53年に村田製麺所の村田良雄社長(当時)が屈曲麺製法を発明して幕を開けた。奇しくもサンヨー食品の創業と同じ年だ。その後、58年に「チキンラーメン」(日清食品)が発売されてインスタントラーメン市場が誕生し、そこに競合メーカーが相次いで参入して覇を競い合った。
一時は100社以上が乱立したインスタントラーメン市場。そうした中でサンヨー食品はいわゆる後発組であり、63年に初めて「ピヨピヨラーメン」という商品を世に送り出した。しかし、先発組との開きは大きい。そこで64年、業界初の塩系フレーバーの「長崎タンメン」を投入。しょう油味が主流のインスタントラーメン市場にあって塩味の商品は支持され、世間にはタンメンブームが起こり同社は全国区のメーカーへと成長していく。
が、しょう油味が主流の市場にあって、塩系だけでは業績を大きく伸ばすのはむずかしい。「やはり王道のしょう油で攻めないと、ビジネスとしての成長はおぼつかない」(福井尚基広報宣伝部課長)と判断し、「サッポロ一番」の開発が始まった。
開発の指揮をとったのは、当時専務だった前社長の井田毅氏。全国各地のラーメンを食べ歩く中、やがて札幌のラーメンに巡り会う。
札幌のラーメン横丁で一杯のラーメンを食べていたとき、「この味だ!」と井田氏はひらめいた。これをベースに新しいインスタントラーメン商品をつくる。開発の方向性が定まった。
ネーミングの秘密とは
新商品はスープの風味を活かしたラーメンにする。その商品コンセプトの決め手となるのが別添スープだ。そこでさまざまな素材を厳選し、鶏がらスープをベースにジンジャー、ガーリック、オニオンなどの香味野菜をブレンドしたスープをつくり上げた。
スープの開発では、ラードを使ってこってりとした味わいに仕上げたこともポイントだった。そのためにラードの粉末化では幾度もスープメーカーと協同で試作を重ねた。また、粉末スープの中に乾燥ネギを入れるという斬新的な試みにも取り組んだ。
「サッポロ一番」のネーミングについても、多少の曲折があった。最初に候補に挙がったのは「札幌ラーメン」というごく常識的な名称だった。が、これにはいささかの疑念とためらいがあった。というのも、「長崎タンメン」を開発した際、一般名詞のために商標登録できなかたことがあった。そのため競合メーカーから続々と同一名称の商品を発売されるという苦い経験を味わっていた。「札幌ラーメン」のネーミングではその二の舞となりかねない。そんな懸念が「札幌ラーメン」をして新商品名の決定を躊躇させた。
では、新商品のネーミングはなににするか。当時、札幌駅前にクラシカルな建物の「五番館」という有名百貨店があった。それにちなんで「札幌五番館ラーメン」はどうか-。しかし、商品名としては長すぎて消費者の記憶脳に浸みこみにくい。
ならば思い切って「札幌五番」に縮めてはどうか-。どうもしっくりこない。ええい、いっそのこと「一番おいしい札幌ラーメン」の思いをこめて、「サッポロ一番」でどうだ-。ゴロ合わせ、音調、ともにいい。ブランドネームが決まった。
商品パッケージづくりでは業界に先駆けてカラー印刷を導入した。当時、インスタントラーメンは袋の一部分を透明にして中身を見せるのが一般的だったが、「サッポロ一番」は透明部分を排してすべてをカラー印刷とし、パッケージにはどんぶりに入ったラーメンの写真を印刷することでシズル感を演出し、店頭で手にする消費者の食欲を刺激した。
食品のヒット商品化は、味、ブランドネーム、そしてパッケージの3要素が決定づける。その3要素が整った「サッポロ一番」は、たちまち消費者をとらえてヒット商品と化していった。
フレーバーごとに麺の製法も異なる
「サッポロ一番」は66年のしょうゆ味を皮切りに、68年に「サッポロ一番 みそラーメン」、71年に「サッポロ一番 塩らーめん」とシリーズ商品を発売する。この3品を揃えた「サッポロ一番」は業界ナンバーワンの座を奪い、同時にロングセラーブランドの基礎も固めた。
ちなみに「サッポロ一番 みそラーメン」もやはり札幌の味がヒントになっている。当時はまだみそ味のラーメンが全国的には知られていなかった。が、札幌ではラーメン店「味の三平」のそれが評判になっていた。サンヨー食品はその味をベースに商品化にこぎつけた。
71年の「サッポロ一番 塩らーめん」は、前述の「長崎タンメン」を淵源とする。「サッポロ一番」のヒットで「長崎タンメン」はすでに終売にしていたが、「オリジナリティあるあの味をもう一度世に出したい、と、『長崎タンメン』をアレンジして復活させたのが『サッポロ一番 塩らーめん』です」(末光登マーケティング部第一課長代理)
シリーズ3種の麺の形状はそれぞれ異なる。「しょうゆ味」は四角形、「みそラーメン」は楕円形、「塩らーめん」は円形の麺。そして形状だけでなく、麺の製法も異なる。「しょうゆ味」は麺にしょう油を練り込んで油で揚げている。そのため麺自体に味と香りがついていて、調理段階から台所に香ばしさが充満する。もちろん別添スープとの相性もいい。
「塩らーめん」の麺にはヤマイモが練り込まれているので麺自体にモチモチ感がある。また、色も白っぽく、塩味のスープにうまくかなっている。
「そのような執拗なまでのこだわりがないと、ロングセラー商品にはなり得ないのです」と末光さん。
絶え間なく新メニューを追求する
「サッポロ一番」のシリーズ化は、さらにその後も進む。「サッポロ一番 塩らーめん」の翌72年には「サッポロ一番 ごま味ラーメン」を発売。西日本ではごま油が好まれることから、ごま味風味のしょう油味として中・四国、九州向けに売り出した。「サッポロ一番 ごま味ラーメン」発売後、この地域では「しょうゆ味」はほとんど販売していない。それほどにごま風味が愛されている。
それ以降しばらく間を置くが、2000年に「サッポロ一番 とんこつラーメン」、07年に韓国テイストの「サッポロ一番 ピリ辛みそラーメンチゲ風」、2010年に「サッポロ一番 担々麺」を出し、そして11年9月の「サッポロ一番 ちゃんぽん」へとシリーズの幅が広がった。
世代を超えて消費者のニーズをとらえ続けるロングセラーブランド。消費者の安心感、信頼感がそれを支えるが、その強みに安住したままでいるとやがて活性を失い、市場に停滞感がただようようになる。
食品スーパーの即席麺売り場に立って一瞥するとすぐ気づくように、袋麺は「サッポロ一番」のみならずほとんどがおなじみのロングセラーブランド。「おなじみ」というと聞こえがよいが、あえて辛辣に言えば「変わり映えがしない」ということにもなる。案の定その停滞感から、袋麺の年間生産量は2005年に20万食を割り込んで以降漸減を続け、10年にはついに16万8000食まで下がってしまった。
即席麺のメーカー各社はその立て直しに懸命になっており、サンヨー食品も最強ブランド「サッポロ一番」のシリーズを拡充することで打って出ている。その効果は発現し、最近は急速に売上げを伸ばしている。
「これまでとは違うやり方で市場が掘り起こされた。食生活の変化に向けて新しい提案をしてきたことが消費者マインドに火をつけたと認識しています」(末光さん)
「サッポロ一番」シリーズで売れ筋のトップ3は「みそラーメン」「塩らーめん」「しょうゆ味」が不動だが、それに迫る勢いで「ちゃんぽん」が4位に入り、「担々麺」「とんこつラーメン」「ピリ辛みそラーメンチゲ風」と続いている。
近年のうちめしブームの影響もあり、袋入りインスタントラーメンに対する消費需要に好転の兆しがある。各社ともこれまではカップのインスタントラーメンに注力していたきらいがあったが、ここにきて潮目が少し変わり始めているようだ。「サッポロ一番」シリーズも、そんな将来需要を推測しながら新しいメニュー開発に余念がない。
企業データ
- 企業名
- サンヨー食品株式会社
- 代表者
- 代表取締役社長 井田 純一郎
- 所在地
- 東京都港区赤坂3-5-2
掲載日:2011年12月20日