100人の社員が採用活動に携わる
採用活動に100人以上の社員が関与し、内定を出すまでに学生と社員が30時間以上も面談する——。トヨタ自動車系の販売会社、ネッツトヨタ南国株式会社(高知市)の取り組みだ。人材を大事する同社は、中小企業経営の第一人者といえる坂本光司氏(人を大切にする経営学会会長、元法政大学法政大学大学院政策創造研究科教授)による著書『日本で一番大切にしたい会社2』(あさ出版)にも取り上げられた。
採用活動では、会社訪問に来た学生は、1日に5人ほどの社員と順番にそれぞれ1時間ほど面談する。手が空いている現場の社員が学生と話す形だ。応募してきた学生は1人4~5回訪問してもらうので、20人以上の社員が面談することになる。さらに、採用担当者や幹部社員とも、それぞれ2~3時間の面談がある。面談では、会社の実情を包み隠さず、話すようにしている。いい面ばかりでなく、会社で働くうえでの厳しい面も学生に伝える。
2020年度入社の学生を対象とした採用活動では、会社体験会として「アドベンチャー脱出ゲーム」を開催した。これは、学生3人と社員2人がチームとなり、さまざまな課題をクリアしていくという1日がかりのイベントで、33人の学生が参加して、社員とゲームで親睦を深めた。最後に社員が手作りした料理を振る舞う食事の場を用意。ここで、社員が学生に仕事内容を説明したり、学生からの質問に答えたりした。ある社員は「ここには自分の会社が好きな人が集まっていて、こんなイベントを開催できた。売り上げや利益も大事かもしれないが、私は自社を好きな社員が多い会社がいい会社だと思う」と、学生に熱く語りかけた。
こうした採用活動の企画は、希望するスタッフは誰でも参画できる人財化委員会で決めている。「社員は財産である」という考えから、あえて「人財」という言葉を用いている。会社を学生に説明するイベントについては、「毎年、内容を変えるのが不文律」とネッツトヨタ南国の創業者で、現在は取締役相談役を務める横田英毅氏は笑う。
ネッツトヨタ南国の業務や社員を学生に知ってもらう会社体験会はイベント仕立て。社員が衣装を身にまとって演じるシーンもあった
こうした採用活動を続ける狙いについて、横田氏は「採用のミスマッチをゼロにしたい。入社した人が辞めてしまう理由は、自分が思っていた会社と違うから。そんなことが起きないように、会社の隅から隅まで、とことん見せている」と説明する。
採用に当たって、4回も5回も会社訪問させるとなると、学生が次第に足を運ばなくなりそうだ。横田氏はそれで構わないと割り切っている。「会社が落とすのではなく、学生の意思でネッツトヨタ南国に入ったという形にしたい」。
同時に、横田氏は「学生が自分にとってよりよい就職をできるお手伝いをするという考えが根底にある」と話す。ネッツトヨタ南国の採用活動を経験した学生が、採用担当者からしか話が聞けなかったり、待遇や働きやすさばかりを強調したりする会社をどう感じるか……。
採用に時間と手間をかけることで、結果的に、ネッツトヨタ南国が求めている、自分で判断できる力を持った人材が残るというわけだ。
用活動は、社員にとっても、自分の会社や仕事を改めて見直す機会になる。学生に説明するうえで、会社のビジョンや自分のミッションなどを確認したり、日常の業務を整理したりしておく必要があるからだ。「学生にうまく説明できなかったと反省する社員もいるだろう。でも、その経験が社員の成長につながると期待している」(横田氏)。
大学生のインターンシップについて、「ネッツトヨタ南国では、採用のためでなく、社会に出ることに対する心構えや社会人としての生き方についてのヒントを学んでいただくというアプローチで接している」と、ネッツトヨタ南国取締役相談役の横田英毅氏は話す(写真:守口王仁)
この採用方法だと、最後に何人残るかが分からない。一般に、企業は採用計画を立てて、目標とする採用人数を決める。しかし、ネッツトヨタ南国は、採用人数にこだわらない。会社訪問に訪れた学生数は毎年150~160人で安定しており、2018年は3人、2019年は2人を採用した。横田氏は「社員一人ひとりの人間的成長が会社の成長であり、売り上げが増えたり規模が大きくなったりすることは目標であり、成長とは位置付けていない」と言い切る。社員が成長する環境を整えれば、業績は伴ってついてくると考えている。