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「フォトシンス」世界初NFC対応の後付け型スマートロック開発で急成長

この記事の内容

  • 20代のサラリーマングループが自力開発
  • 工事不要、月額レンタルの安価で急成長
  • 個人情報保護法のセキュリティ強化も追い風
フォトシンス河瀬社長
製品を手にする河瀬社長(同社オフィスで)

新しい価値を創造して成果を上げている企業の事例を紹介する。後付け型のスマートロック端末「Akerun Pro」を活用したクラウド型「Akerun 入退室管理システム」で第13回ニッポン新事業創出大賞の経済産業大臣賞を受賞したフォトシンスだ。

2014年春。IT関連企業のサラリーマンだった河瀬航大(当時25)は友人数人と酒を飲んでいた。故郷・鹿児島の幼馴染や筑波大時代の友人でみな同世代。「鍵って不便だよね」という話になり、「かばんの中から探し出すのが大変」「友達や彼女に鍵を渡すのも面倒くさい」と盛り上がった。

河瀬ら若い世代は身の回りからアナログ製品がどんどん減っている。ノートやペンがPCに、時計はスマートウオッチに取って代わり、本も電子書籍だ。鍵だけが旧来依然の金属で「すごく違和感があった」と振り返る。

それなら、自分たちでスマートロックをつくろうと、秋葉原へ行って部品を買い集め、週末を利用して開発を始めた。知り合いの日本経済新聞の記者が「面白いことをしている若手趣味集団がある」記事を書いた。

すると問い合わせが殺到。「買いたい」「出資したい」「事業提携を」と1日で100件を超える反響があった。そこまでニーズがあるのなら、量産してみたいと会社を辞め、同年9月に仲間6人と起業した。社名のフォトシンスは英語の「光合成」。二酸化炭素と水から有機物をつくる光合成にあやかり、有機的な価値を生み出したいと河瀬が付けた。

好循環のスパイラル

15年3月、最初にリリースしたのは家庭向けの「Akerun Smart Lock Robot」だ。その後、16年7月に世界初となるNFC(近距離無線通信)対応の後付け型スマートロック「Akerun Pro」を活用したオフィス向けの「Akerun 入退室管理システム」を発売した。

ドアの内側に取り付けられているサムターンと呼ばれる施錠・解錠用つまみ。このつまみが右回しなのか、左回しなのかを確認し、端末機器を初期設定する。次に機器をペタッと貼り付ければ、IoT(モノのインターネット)を活用したクラウドサービスで、スマートフォンをかざすと自動的に鍵が開く。スマホの代わりに事前に登録した交通系ICカードにも対応する。鍵がインターネットにつながることで「第三者に時間限定の鍵を発行する」「入退室履歴をウェブ上から確認する」ことができる。

既存のカードや顔認証による入退室管理システムは、壁に穴をあけて配線し、制御するための制御盤を設け、どのIDが来たら鍵を開けるかというサーバーも必要で、全部で100万円以上のコストがかかる。工事不要で月額レンタルの安価でセキュリティを強化できるAkerun(アケルン)入退室管理システム」は手軽さがセールスポイントだ。

河瀬は「世界初の後付けスマートロックを出してシェアを取りたいと出荷を急ぎました。結果、新しいテクノロジーに関心を示すイノベーター(投資家)から注目が集まり、資金も集まった。いいスパイラルに入ったと思います」と分析。24時間対応できるよう365日体制のコールセンターを設置して万全のサポート体制も組んだ。

追い風で顧客急増

思わぬ追い風も吹いた。17年に個人情報保護法が改正され「個人情報を扱う全ての事業者」で入退出記録を取ることが同法のガイドラインに明記されたのだ。従来のタイムカード方式では毎回打刻しなくてはならず、手間がかかるうえ正確かどうかもわからない。

「Akerun 入退室管理システム」なら部屋を出入りするだけで効率よく勤怠管理がきてしまう。弁護士や会計士、IT系、教育系など個人情報を扱う事業所から引き合いが殺到し、顧客は2500社に増えた。ほとんどの顧客が中小企業だが「大企業の支店や営業所でも使ってほしい」と話す。

非公表だが売り上げは右肩上がり。利益はこれからだが、東京・田町の新ビルに本社を構え、75人の従業員を抱える。「お客さまの要望を聞きながら商品を改善し、テレビCMなどで認知度を上げ、早い段階でユーザー1万社突破をめざす」と前を向く。将来は海外進出や上場も考えている。目下の夢は企業の評価額10億ドル以上の「ユニコーン企業」に成長することだ。(敬称略)

企業データ

企業名
フォトシンス
Webサイト
設立
2014年9月
従業員数
75人
代表者
河瀬航大氏
所在地
東京都港区芝5-29-11 BASE田町15階
Tel
03-5436-3433