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「山口組→安部組(大分県国東市)」中小・零細にM&Aの道拓く

この記事の内容

  • 公共工事の発注額が細る中、建設土木業の山口氏は安部氏へ第三者承継を打診
  • 引き受ける方針で安部氏は銀行に相談。事業引継ぎ支援センターを知る
  • 低額手数料のM&A業者の紹介を受け、無事に事業譲渡の手続きが終了した
「体力のあるうちに」という山口氏(左)、「M&Aは売上拡大のチャンス」と語る譲受者の安部氏

大分県の北東部に位置し周防灘に丸く突き出た国東半島は、歴史を感じさせる多くの史跡と心が洗われる景観に恵まれた地域。ただ、風光明媚な地で暮らす人は年々減少の一途をたどる。

国東市の人口は10年前の約35,000人から現在は約29,000人。これに伴い市が発注するインフラ工事などは縮小傾向で、入札に参加する市内の建設業者の数も「50数社から30社程度になってしまった」と山口正廣氏(62)はいう。

山口氏は長年、市内の公共工事を請け負う山口組の代表取締役として経営に携わってきた。農業法人も設立し農業収入に力を注いでいるものの「事業の先が見えない。好転する兆しも期待できない状態だった。数年後に行き詰まってからでは遅い。体力を維持している今が、第三者承継の時期」と考えた。数年前のことだ。

その相手として選んだのは、市内の同業者である安部組の安部徹代表取締役(57)。昔から国東市建設業協会の仲間として交流があり、お互いを知る仲。「これまで人生の先輩として付き合ってきた山口さんからの話だけに、前向きに進めてもいいと思った。合併によるスケールメリットも享受できる」と安部氏は語る。

メリットとは、公共工事の入札機会を拡大できること。国土交通省は、小規模な建設業者を守るため、A~Dまで4段階の入札資格を設け、認定された資格に与えられた工事金額内でしか応札できない取り決めとなっている。山口組も安部組もともに入札資格はC級だが、合併から3年間はB級とC級の2つの資格が活用できる特例がある。

とはいえ、どのような形で山口組を引き継げばいいのか、客観的な譲受金額をどのように弾き出し、双方が満足いく形を作れるのか見当もつかない状況だった。安部氏は地元の大分銀行国東支店で毎月、事業報告をしている。その席上、支店長に事業引継ぎの話があることを伝えた。

ただ、銀行が扱うM&Aとしては規模が小さい。「支店長から大分県事業引継ぎ支援センターがあることを聞き、支援を繋いでもらった」と安部氏は当時の状況を話す。2015年11月のことだ。

大分県事業引継ぎ支援センターは、両社の決算状況の精査のほか、合併のメリット・デメリット、手順、スケジュールなどの提示、打ち合わせ、さらに県との折衝などに対応した。同支援センターでは「中小・零細事業者にとって低額の手数料でなければM&Aはできない。ここがネックだった。そこで若手士業家が連携するチームに働き掛けた」という。

この結果、低額で引き受ける民間のM&A業者を紹介することができ、こことアドバイザリー契約を締結。こうして昨年5月末、山口組から安部組へ事業譲渡する手続きが終了した。引継ぎ期間は約7カ月だった。

国東市の建設関係業者がM&Aで事業引継ぎをした例は、聞いたことがない、と関係者は口をそろえる。それを可能にした大分県事業引継ぎ支援センターの役割は大きかったといえる。

安部氏は「入札特例をチャンスとして土木・建設事業の売上増を図り、これを弾みに農業部門も積極的に攻めていく」と今後の抱負を語る。農業部門では干しシイタケの栽培で世界基準の「グローバルGAP」認証を昨年12月に取得。多様な取り組みで地域に根差した企業として、生き残りを図るという。