当時を振り返りながら藤川さんは商品開発の2つのコンセプトを語る。
「そのころ、食品をめぐる不祥事や事件などの影響で消費者の目がたいへん厳しくなっていました。そうした中、私たちには、大量生産される商品であっても、つくり手の顔が見える商品をつくりたい、キリンビバレッジの自家製ですという商品をつくりたいという思いがありました。それが『世界のKitchenから』の1つめのコンセプトです」
もう1つのコンセプトとは?
「女性という切り口です。市場にはたくさんの清涼飲料がありますが、男性をターゲットにした商品のほうが多く、実際に飲用者と飲用される量も男性のほうが多いのです。しかし、女性がおいしいと思え、もっと手にとれる商品があってもいい。女性の消費者心理から発想する。2つめのコンセプトです」
そのころ、トクホ(特定保健用食品)に対する消費者の認知が進み、健康のためなら価格が少々高くてもいとわないという空気が生まれていた。また、「プレミアム」ブームもあった。商品名にプレミアムを冠することで、安心・安全ばかりでなく、さらに味わいや特別感、高級感を訴求する。そんな消費トレンドを藤川さんたちもとらえていたが、それのみにとどまらなかった。さらにその先を見据えながら、2つのコンセプトを落とし込む商品形態を考えた結果、思い浮かんできたのが「お母さん」というキーワードだった。
「家庭のお母さんは、単においしい料理をつくるだけじゃありません。おいしいうえに、家族の健康、笑顔、しあわせな毎日を願う気持ちを料理にこめています」
これは日本だけではなく、世界共通のお母さんの思い。ひと手間かけて、素材の滋味を引き出す料理をつくる。それは家族の健康、しあわせのため。そんなお母さんの思いを活現した商品を開発しよう。藤川さんはそう考えた。
「海外旅行」「お母さん」「家庭料理」「笑顔」「おいしさ」...。藤川さんの心には、学生時代にショートステイしたドイツの家庭の温かな雰囲気が記憶されていた。当時のレストランで食べた食事より、家庭料理のほうが鮮明によみがえる。世に旅行好きの女性は多く、そんなトラベラーたちはちょっとした食事の香りも憶えているほど旅の思い出を大事にしている。
「世界のお母さんに負けない味をつくろう」。家庭料理にこめる世界のお母さんの思いをキリンビバレッジも手づくりで表現する。最終的な商品コンセプトが完成し、そこから発想して生まれたのがちょっと風変わりなブランドネーム「世界のKitchenから」と地球儀を模したロゴだった。