あの人気商品はこうして開発された「食品編」
「マンナンヒカリ」カロリーカットで食物繊維の豊富な主食を追求する
肥満防止に対する意識がますます高まる中で、主食の米に挑んで2ケタ成長を続けている商品がある。大塚食品が開発した「マンナンヒカリ」だ。カロリーカットと食物繊維の摂取が同時にできるというすぐれもの。素材はなんとこんにゃく精粉。それを白米そっくりに加工した商品だ。
妊婦用のご飯を改善してほしい
大塚食品がこんにゃく加工食品「マンナンヒカリ」の開発に乗り出したのは1992年頃、ある産婦人科の医師から妊婦用のご飯の改善について相談されたことに始まる。
よく知られるように妊婦はとかく太りがちになるが、太りすぎると出産に好ましくない。また、通じが悪くなるという悩みを訴える妊婦も少なくない。この2つの問題を解決するため、カロリーが低く食物繊維が多い主食をつくれないか、というのが産婦人科医の要請だった。
それを受けて同社の琵琶湖研究所でさっそく研究が始まり、前述の2条件を満たす素材としてこんにゃくに着目した。そこで市販の糸こんにゃくを買い込み、それを米粒大に切ってご飯と一緒に炊いて食べてみる。確かに2条件を満たす効果がほぼ達成されるものの、いかんせんおいしくなかった。なんとかこのこんにゃく粒の味を米粒に近づけることはできないか。それが研究グループの最大の課題となった。
同研究所で長年にわたり開発をリードしてきた江本三男さん(現在はマーケティング部食品製品部マンナンヒカリ担当部長)は振り返る。
「こんにゃく粒がおいしくない主な要因はなんといってもそのにおいです。においの成分として、1つは魚の腐敗臭と同じトリメチルアミン、もう1つはこんにゃくを固めるときに使うアルカリ成分が挙げられます。これらのにおいが原因で、こんにゃくが嫌いという人もいます。しかし、原因さえわかればにおいのもとは断てます。そこで特別に精製したこんにゃく粉を使うことによって無味・無臭にしました」
においのつぎに取り組んだのが「色」だった。炊きあがったご飯の色は、特有の潤いを帯びた白さに特徴があり、その色こそ食欲をそそる1つの絶対条件になる。が、こんにゃくは不透明な灰白色をしている。それはヒジキなどの海藻を混ぜているからだ。そこで、同社はヒジキを除いて代わりに食物繊維を混ぜることで白い色調に整えた。
においと色の課題はこれで解決できた。しかし、食感が白米と大きく異なる。こんにゃくにはプリプリした弾力感がありすぎるため、白米と一緒に炊き込むとどうしてもご飯のおいしさを損なわせてしまう。そこで、でんぷんを混ぜることでこんにゃくのプリプリ感を和らげ、同時にご飯特有の粘りもつくり出した。
ちなみに、こんにゃくを冷凍庫に入れたことがあるだろうか。入れた経験がある人はかなり残念な思いをしたことだろう。なぜなら、こんにゃくは冷凍保存がきかない。解凍するときに離水してボソボソになり食べられなくなってしまうからだ。なお、これを逆手に取って発明されたのが凍みこんにゃくだ。茨城県の伝統食材であり、こんにゃくの離水現象を利用してつくられた名産品である。
さて、そのこんにゃくの離水現象に対してでんぷんにはそれを防ぐ働きがある。従来のこんにゃく加工食品では、混ぜて炊いたご飯をいったん冷凍し、再び電子レンジで解凍するとこんにゃく加工食品がボソボソになってしまった。が、でんぷんを加えたことによってそれも解決できた。
商品名のマンナンヒカリは、こんにゃくの主成分である「グルコマンナン」と、おいしいコメの代表格である「コシヒカリ」からなる合成語として命名された。
常温流通できる商品をめざす
マンナンヒカリの上市は94年。ある量販店の米飯専門店向けに業務用途として発売した。また、同量販店とのコラボ商品として冷凍食品(焼おにぎり、えびドリアなど)とレトルト食品(白がゆ、こんにゃく雑炊カレー風など)を一般向けにも発売したが、業務用途、一般用途ともにほどなく終売してしまった。それは当時のマンナンヒカリが水分を含んだウエットタイプの商品だったため、日持ちしないという難点があったからだ。
技術的には、日持ちさせるためにアルカリ成分を十分に入れて雑菌の増殖を防げばよいのだが、そうしてしまうとせっかくの味が損なわれてしまう。そうではなく、味を損なわずに常温で流通できる商品にしなければならない。研究グループが日夜頭をひねる日々が続いた。
99年、ようやく課題を克服したドライタイプのマンナンヒカリを開発した。ウエットタイプの製造では、改良した挽き肉製造機を用いたが、ドライタイプの製造では新たに改良した専用の成形機を開発した。
ドライタイプのマンナンヒカリの製造では、この専用機から押し出されるひも状のこんにゃくを連続的にカットして米粒状にする独自技術を開発し、特許も取得した。こうしてできた米粒状のこんにゃくを乾燥させたのがドライタイプのマンナンヒカリだ。
市場規模のポテンシャルは1000億円
あたかもこの技術が確立された99年当時、市場の環境が変化し始めていた。当時の厚生省が特定健診制度(メタボリックシンドローム検診)を開始し、カロリー、血糖値、コレステロールの関連商品がにわかに注目を浴びるようになり、2000年、マンナンヒカリは特別用途食品(病者用食品・低カロリー食品)に該当する商品として糖尿病、肥満症対策を具体的にうたえるようになった。
さらに08年の法改正により低カロリー食品は特別用途食品から外されたものの、開発直後のドライタイプが特別用途食品の対象になった効果は大きく、病院向け卸組合と取引を始め、食材向けの販売量を大きく拡大した。あるいは同健診制度に基づいて企業にメタボ対策が義務づけられ、会社の給食向け販売でも数字を伸ばした。
さらにコンビニの弁当やおにぎりなどでも採用が広がり、現在、ほとんどの大手コンビニエンスストアで採用されている。
一般食品へ変更されたマンナンヒカリは08年に発売され、現在は全国の量販店やドラッグストアで販売されている。一般食品のマンナンヒカリは分包(スティック状)されおり、マンナンヒカリ<ステイックタイプ>はわざわざ使用量を量ることなく米に混ぜるだけで炊ける便利な商品形態だ。しかも、米だけを炊いたときのご飯と味はまったく同じ。それでいてカロリーがカットでき、食物繊維も摂取できる。
マンナンヒカリは年率2ケタ成長を持続しているが、江本さんは「今後は用途開発による売上の拡大を図る」とし、さらに言葉をつぐ。
「発売当初は米価に比べてマンナンヒカリの価格は約2倍。しかし、マンナンヒカリは米の2倍くらいに膨れるので、食べるときのごはんの状態で比較するとほとんど価格は同等だったのです。ところがその後、米価はジリジリ下がり、いまではマンナンヒカリにやや割高感があります。そのぶん健康を買ってくださいというアピールもできるのですが、やはりメーカーとしては量的拡大を図り、品質面とともに価格面においても消費者にもっと気軽に食べていただけるよう、挑戦していかなければなりません」
09年9月にはマンナンヒカリを活用した冷凍食品「マンナンごはんの こにぎり」を開発・発売するなど、マンナンヒカリの販路拡大に余念がない。また、国内だけでなく海外にも目を向ける。マンナンヒカリのポテンシャルを追求すべく、今後は健康志向の高まる海外も視野に入れたグローバルな販売戦略が展開されていくのだろう。
企業データ
- 企業名
- 大塚食品株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 代表取締役社長 中井吉人
- 所在地
- 大阪市中央区大手通3-2-27
掲載日:2012年2月15日