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「お茶の富澤(熊本県益城町)」経営の〝見える化〟推進へ

この記事の内容

  • 創業88年、お茶の製造販売の老舗。4代目承継に際し、経営基盤強化などに悩む
  • よろず支援拠点を訪問し、経営の見える化のアドバイス受ける
  • 熊本地震が発生し店舗は全壊。だが、新商品開発、海外も視野に積極経営に挑む
「経営基盤を強化して、事業拡大に挑む」と話す富澤氏と妻の知春さん

肥後茶の生産から販売までを手掛けるお茶の富澤は、今年で創業88年。土にこだわり、高品質の茶葉を育て、自前の工場で蒸し、葉打ち、揉み、乾燥など一連の作業を行う。こうして自慢のかぶせ茶(蒸し製玉緑茶)を中心にしたお茶を製造し直営店舗で販売する。地元では有名な老舗の〝お茶屋さん〟だ。

その4代目となるのが富澤堅仁氏(35)。茶所で有名な静岡県、福岡県八女市で合計4年間のお茶作り修業を経験。その後、益城町に戻り事業を切り盛りする。創業100年目は富澤氏が経営者として迎えることになる。

「体調を崩した父の後を受け、昨年に事業承継する手はずだったが、それどころではなくなってしまった。手続きは後回し」と富澤氏は語る。

昨年4月の熊本地震で益城町は大きな被害を受けた。お茶の富澤も町の中心部にあった店舗が全壊し、今は更地。工場は「奇跡的に一部損壊で済み、何とか復旧した。だが、手直しは必要」な状態となった。

震災後のお茶の販売は、益城復興市場・屋台村の仮設店舗とインターネット通販など。困難な状況ではあるが富澤氏は、今後の新商品開発や新店舗、工場の拡張など事業拡大に向け情熱を燃やす。

「近年、緑茶離れが進んでいるので、若い人向けに消費拡大を図りたい。その想いからお茶以外の食品業界の人との出会いを大切にし、コラボで新商品開発に力を入れている」という。

手始めとなったのが、「くまもとのお茶 まるごとドレッシング」の開発だ。粉末状にした茶葉と菜種油を絶妙の配合で作り上げた他では見かけない商品。熊本県が実施した2012年度「魅力ある熊本の茶づくり支援事業」の補助金を活用し、県内の味噌・醤油メーカーと共同開発した。道の駅で1000本販売できたらいい、と考えた商品だが、わずか2週間で売り切る。すぐに追加生産し3000本を売った。現在でも通販などで売れ続けている。

その後、粉末タイプの茶葉と果物を混ぜパウダー状にした「Chamitu」の名称で苺、柿、米麹の3タイプを発売。「心を満たしてくれる〝濃密〟なお茶。健康茶としての利用拡大を図る」と爽やかな雰囲気のパッケージで屋台村での一押し商品として販売している。

この開発でコラボしたオーガニック商品を扱う会社社長から、よろず支援拠点の存在を聞き15年1月に訪問した。売上拡大など経営全般の強化と事業承継が相談内容だった。

「経営面では法人化に向けて、客観的に判断できるよう、事業内容を〝見える化〟することを提案された。相談に行き、帰りには必ず次回までにやるべき宿題を与えられる。忙しくて完成度は3割。それでも親身になって対応してくれる。今は週、月、年間のスケジュールを立て進捗状況を管理する基本が身に付いた」とよろず支援拠点でのアドバイスで着実に経営者になる自覚と実力が備わってきたと話す。

今後も月1回、よろず支援拠点に通いながら山積する課題クリアに取り組む。同時に工場規模の拡大、店舗の新設、新商品開発にも注力する考えという。海外展開を視野に入れ
商談会にも積極的に参加していきたいと、意欲を示す。

「熊本地震は経営的には大きな打撃だったが、現実を受け入れ、辛くても逃げないことを学んだ。よろず支援拠点で得た多くの事項が役立っていると思う。今後は、自分だけでなく地域の農業を盛り上げていける存在になりたい」と力強く語る。

熊本県よろず支援拠点 栗田博成コーディネーターの話

求められた相談内容に沿い課題クリアに全力で挑み、結果を出す。これで支援が終わりとは考えていません。経営にゴールなど存在しないからです。その後の状況変化にも柔軟に対応できるよう支援することを基本としています。必然的に長期間にわたることが多くなります。

皆さん経営の悩みを抱え、大変な状況の中で相談に来られています。相手の立場になることは当然ですが、私自身が経営者になりきり、厳しい状態であっても活路を見いだすよう心がけています。

お茶の富澤さんの場合は、販路拡大への展開をどのように行うべきか焦点を絞れない状態でした。業務用の顧客開拓を目指し、商品サンプルを作る計画を進めていましたが、地震でストップ。店舗も倒壊したこともあり短期的には催事での販売に力を入れ、同時に新商品開発などに取り組んでいます。個人事業者から法人化への準備なども加わり、経営強化とともに支援内容が増えています。

企業データ

企業名
お茶の富澤
設立
1929(昭和4)年
代表者
富澤一行氏
所在地
熊本県上益城郡益城町小谷102
Tel
096・286・2231
事業内容
茶の生産・販売(玉緑茶、かぶせ茶、抹茶)と茶器全般の販売