頑張れシニアベンチャー

二足のわらじでニューヨークにラーメン屋をオープン「麺処 久保屋」

寿司、日本酒、そば、焼き鳥、居酒屋、日本風カレー屋まで、本物の味が楽しめるようになった。そして、次はラーメン。ニューヨークに本格的な味を追求するラーメン店が増え始めているなか、サラリーマンオーナーのラーメン店「久保屋」がオープンした。

麺処 久保屋
店主 久保弘(くぼ・ひろし)
中学時代からロックを始め、テレビやアーティストのバックなどでドラマーとして活躍。1982年に音楽修行でニューヨークへ。結婚を機に音楽活動を休止、大手日系企業に就職しサラリーマンとして働く傍ら、趣味でラーメンを作り始め、日本のラーメン学校に通って本格的にラーメン作りを学ぶ。2010年10月、ニューヨーク、マンハッタンに「麺処 久保屋」をオープン。

必要に迫られていつしか料理好きに

──料理に興味を持つようになったのはいつ頃からですか。

小さい頃、両親が共稼ぎで帰りが遅いので、小学校の頃から自分で作るようになりました。麺類が簡単に作れて好きなので、初めのうちはうどんに卵やかまぼこを入れたりして。中学、高校になってくると中華三昧みたいな本格的なラーメンが出てきて、トッピングに野菜炒めなど、いろいろ載せるようになったんです。

ニューヨークに来てから子持ちのアメリカ人女性と結婚したので、日本食がまったく食べられなくて、また自分で作るしかなくなった。それで、カレーなどを作って子どもたちに食べさせるようになったら、みんな「おいしい、おいしい」って。毎週土日になると、子どもたちはみんな私が作るのを待ってるんです。

──特にラーメン作りにこだわり始めたのは?

商売用のラーメンを作りはじめたのは10年くらい前から。そのころはラーメン店を出すことは考えていなかったんですが、今、隣にあるラーメン店のオーナーとは長い付き合いで、その人が店を出す前から試作品をときどき食べさせてもらっていて、それに触発されました。チャイナタウンに豚骨などを買いに行っては、アパートで月に2、3回ラーメンのスープ作りをするように。その当時、冷凍庫は豚の骨だらけでしたね。それから日本のラーメン学校に通って本格的に勉強しました。

──趣味で終わらせずに、店を出そうと思ったのはなぜですか。

そのラーメン店のオーナーの影響が大きいですね。また、周りの人たちが「おまえはラーメン屋のオヤジみたいな仕事をしたほうがいい」と言うし、家でみんなにラーメン作って振る舞うと自分も楽しいし。ラーメンは高級な食べ物じゃなくて、みんなで気楽に食べてハッピーになれる食べ物だと思うんですよね。子どもが「パパおいしいね」と言って、にこにこしている様子を見ているのが好きなんです。そこが原点なような気がします。

──久保屋のラーメンの特徴は?

何風ラーメンかとよく聞かれるんですけど、私は「ニューヨークラーメンだ」って言ってるんですよ。独自に開発したので。とんこつ塩ラーメンというような味ですが、とんこつだけじゃなくて、スープにはいろいろ使っています。

ここ数年、ニューヨークに台頭してきたラーメン屋さんのラーメンはどこも濃厚なとんこつ系で、今ニューヨークではそれが流行ってるんです。だから、地元の人たちはこれがラーメンだと思っている節がある。私の推測ですけども。そうなると、ある程度時流に乗って支持してもらわなければならない部分もあるので。自分の好みの味よりは若干スープの濃度を上げています。

コンセプトは"ラーメン居酒屋"

──ほかにはどんなラーメンを出していますか。

味噌ラーメンや東京ラーメンも出しています。ニューヨークにはベジタリアンが多いので、ベジタリアンラーメンも。ただ、昆布と椎茸の出汁だけではおいしくないので、魚の出汁を使ったものも出す予定です。ラーメンは10種類くらいに増やしたいですね。

──ラーメン以外のメニューは?

ラーメンだけでは難しいので、餃子やおつまみを食べてビールを飲みながらラーメンが来るのを待って、締めにラーメンを食べるような、ラーメン居酒屋のコンセプトでやろうと思っています。居酒屋メニューを増やします。ランチタイムに日替わり定食でハンバーグなども出していますが、その反応なども見てメニューに加えていこうと思います。

──店をオープンして1カ月たちましたが、反響などはいかがですか。

10月半ばにテスト的にオープンしたときは、スープの味が安定しないなど、いろいろ問題がありましたが、ようやく味も安定して徐々にお客さんは増えています。

──宣伝はどのようにしていますか。

日系のフリーペーパーなどに広告を出しています。今後はオンラインの予約システムも利用していく考えです。

──客単価はいくらくらいをお考えですか。

15~30ドル、40ドルくらいまで。気楽に来れるような。

アメリカ人客を増やすのが課題

──客層はいかがですか。

この辺りは若者が多く住んでいるので、客層も20~40代くらいですね。学生からヤングプロフェッショナル層が多いと思います。お客さんの8割くらいは日本人。特に、週末のランチタイムは日本人の家族連れが多いですね。子どもさんを連れてきて家族でラーメンを食べる方が多いです。日本語の広告の影響だと思いますが。ほかのラーメン店とは逆なんです。でも、ここでやっていくにはやっぱりアメリカ人の支持を受けないとだめなんですよね。これからはアメリカ人の市場を開拓していかなければなりません。

──この場所(隣がラーメン店)を選んだ理由は何ですか。

たまたま隣のラーメン屋さんに「隣の店が空いた」と聞いたので。ここはもとはフレンチカフェで、以前は客としてよく来ていたんです。内装や雰囲気も気に入っていたので、今も内装などはそのままです。ラーメン屋が並んでると刺激し合っていいんじゃないですか。さらにこの通りがラーメン通りになったらいいなと。

──店の内装については何かお考えがありましたか。

女性一人でも、恋人同士でも来れるような、雰囲気がよくておしゃれなラーメン屋を作れないかと思って。それには、このフレンチカフェの内装はちょうどいいんじゃないかと思いました。

──1年後の売り上げ目標は?

まだオープンしたばかりなので、今はそれを言うのは難しいですが、この店は45席とれるので、2回転で80~90人が目標です。

──このビジネスでいちばん大変なところは?

いかに人を育ててキープするかということですね。それに尽きると思います。

──会社は辞めてないんですね。

日本企業の現地法人に勤めています。親会社は日本の会社ですが、ニューヨークの販売会社はアメリカの会社なので、サイドビジネスが認められているんです。当分は二足のわらじですね。この店を軌道に乗せるまでは。

──今後の抱負をお聞かせください。

この店はみんながびっくりするくらいの低予算で始めたんです。日本円で1000万円くらいかかっていますが、普通はこの2~3倍かかります。ニューヨークではリカーライセンスを取ったり、消防や衛生などさまざまな基準をクリアしていくのが大変で、それにいちいちお金がかかるんです。ニューヨークに長く住んでいるので、日頃からいろいろなところに声をかけていたり、人脈にも助けられてラッキーでした。まだオープンして間もないので赤字ですが、早くプラスに持っていきたいですね。今はそれだけです。

掲載日:2011年6月28日