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「岸保産業(愛知県稲沢市)」和食ブームの流れ掴む

この記事の内容

  • 人口減少で国内マーケット縮小。厨房用品の需要増見込める海外に着目
  • 2年前、中小機構の支援受けシンガポールへ業界初の海外拠点を設置
  • 売上高の5%を海外で、中期的には20%まで拡大させる計画
本社倉庫で商材のテニスラケットのような大型しゃもじを手にする岸社長

業務用調理道具を卸販売する岸保産業は2年前、シンガポールに初の海外拠点を開設した。和食ブームで世界に広がる和食店などに対し、各店が求める調理道具を素早く提供するのが狙い。シンガポールをハブとして、アジア各国へ事業展開する中期ビジョンも描いている。 

岸剛史代表取締役社長は「国内は人口が減り、胃袋の数も減るのでマーケットは小さくなる。その点、海外需要は大きな伸びが見込め、和食つながりで国内と同じ商材を扱える」と、海外市場の開拓に意欲をみなぎらせている。

同社は厨房用備品を幅広く手掛け、取り扱い点数は3万点に達する。食器、調理道具、調理機械などの店が集積する東京・浅草の合羽橋道具街の小売店向けなどに商品を卸している。

「不況になると居抜きの物件が出回り大衆店が開店する。好景気になると高級店が増える」。岸社長は、好不況にかかわらずエンドユーザー=飲食店の需要は底堅いと説明する。

そうしたことから、これまで業界では海外展開には消極的で、2年前の岸保産業のシンガポール拠点開設が業界初の海外本格進出になるという。

海外展開に踏み切った理由の和食ブームは持続的に各国・地域に拡散しており、さらに「焼肉やフレンチの店でも和の用品を使う傾向が出てきている」(高木昌平取締役管理部長)といったことから、ビジネスチャンスは十分にあるはずと見極めた。さらに、少量ながらも継続的に日本からアジア地域への輸出実績を積んできたこともあり、海外進出を決めた。

進出先としては、迷わず「成長するアジア」に決定したが、アジアのどこにするかは、タイ・バンコクなどいくつかの候補の中から最終的にシンガポールに落ち着いた。岸社長は「シンガポール単独では、少ない人口などから限界は明らか。しかし、アジアを見据え、ショールーム的な価値を考えるとシンガポールがうってつけ」と解説する。

現地では店舗を構え、和食店などが欲する道具を素早く調達できるようにした。「日本では今日の明日で、何でもすぐにそろうが、現地では和包丁1つ手に入れるのも大変なので、その改善を図った」(岸社長)。

オープンして2年。今春までの業績は損益分岐点に遠く及ばない水準だったが、今年7月に地元百貨店、シンガポール伊勢丹内にトンカツ、うどん、寿司、ラーメンなどの飲食店が軒を連ねるジャパンフードタウンが開店して以降は「分岐点近くまできている」(同)状況だ。

同社はシンガポール進出に際し、中小機構の海外市場F/S(実現可能性調査)も活用した。岸社長をはじめ3人が、中小機構のスタッフとともに1週間の日程で、日系商社、物流業者、店舗内装業者、料理学校、eコマース事業者、外食ビジネス支援業者から、金融機関、シンガポール日本人会、在シンガポール日本大使館まで訪問して回った。

このF/Sを通して、一定の需要、市場規模があることを確認でき、またシンガポールで在庫を持つべきアイテムも決定できたという。「中小機構のスタッフが間に入ってくれたことで、初見の挨拶で終わりがちなところが、いきなり中身の濃い話をすることができ、今後に生かせる多くの情報が得られた」(同)としている。

同社では当面、全売り上げに占める海外売上高の比率を5%にすることを目指している。さらに中期的には、アジア展開などを見越して20%程度にまで引き上げる計画だ。

創業が終戦の年(昭和20年)の同社は、現社長が3代目。初代が名古屋地域で事業基盤を確立し、2代目が全国展開を図った。そして3代目はアジアをはじめとする世界各国へ雄飛する。

企業データ

企業名
岸保産業
Webサイト
従業員数
45人
代表者
岸剛史氏
所在地
愛知県稲沢市平和町嫁振北1-2
事業内容
業務用調理道具などの卸販売
創業
1945(昭和20)年