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「京都マテリアルズ(京都市)」「さびで錆を制す」を事業化

この記事の内容

  • 極端に錆びやすい鉄構造材の表面を腐食しにくくする化合物を開発
  • 水や酸素と反応し防食性の高い「パティーナ」が腐食の進行抑える
  • 一部の公共事業で実用化。ライセンス生産で量産へ

「強度が求められる構造物にはコストが安い鉄鋼材料が多用されるが、鉄は極端に錆びやすい性質を持つ。長年、鉄錆を研究してきて、錆を制御する技術を開発できた」。大学発ベンチャー、京都マテリアルズの山下正人代表取締役(52歳)はこう話す。 山下氏によると、金属の中でも銅や亜鉛などは錆が腐食を抑制する性質を持ち、ある程度錆びると安定する。これに対し、鉄錆は素材がボロボロになるまで進行し、とくに塩分が多い環境下では錆びるスピードが上がる。鉄鉱石はもともと錆の状態だから、「錆びるのは自然の状態に戻ること」という。

鉄鋼大手の研究開発部門で錆の研究を始めた山下氏は、耐食性の高い鋼材を開発するなどの成果を挙げた。これらの特性を持つ錆をコントロールしたいと思い大学に移籍。ちょうどその頃、兵庫県で稼働を始めた大型放射光施設「SPring-8」なども利用し、鉄錆にさまざまな物質を混合する実験を進めたところ、鉄の表面を腐食しにくくする化合物の開発に成功した。その化合物を塗料に添加すると、環境中の水や酸素と反応して表面に防食性の高い錆「パティーナ」を形成し、腐食の進行を抑える効果を持つ。いわば「さびで錆を制する」わけで、その効果は半永久的に持続するという。鋼材表面を本来、自然界に存在する「鉄鉱石に還す」(同)というわけだ。

山下氏は民間企業出身ということもあって、「実用化し世の中に出してこそ技術」と考え、大学研究者らとともに、精密金型事業と合わせて2012年に起業。京都大学や大阪大学などとの産学連携もあって、同年に反応性塗料「パティーナロック」を商品化した。この技術は地元・京都市のベンチャー企業目利き員会でAランク認定、りそな中小企業財団の中小企業優秀新技術・新製品賞優秀賞、そして今月には第6回ものづくり日本大賞特別賞を受賞するなど、高い評価を得ている。

鉄鋼材料の防食については、塗装、メッキなどの方法もあるが、それでも「長くて50年程度しかもたない」(同)。錆を研磨剤で除去して再塗装するブラストを施しても、「限界はある」。これに対し、パティーナロックは簡単な塗布作業で済むため、コスト面でも優れている。しかも、「新設の鉄筋に使用すれば長寿命化を図れる」と用途は広い。

京都市では、すでに道路照明鉄塔や小中学校の補修などに試験施工した。なかでも照明鉄塔などでは適用から1年を経て、京都市建設局などが優れた効果を確認したと発表。今後も経過調査を行うとともに、道路付属物など公共施設に積極的に活用していくとしている。公共施設での“お墨付き”を得られたことで、今後は社会問題化している橋や鉄塔などインフラ施設の老朽化対策、つまり公共事業向けの膨大な市場取り込みも夢ではない。

パティーナロックの増産に向けては、ベンチャーキャピタルによる出資提案もあるが、自社で量産するには設備や人材の面で「時間がかかる」(同)ことから、現在は化学商社大手の長瀬産業と、ライセンス契約方式で委託生産する交渉を進めており、年内には結論を出す予定だ。交渉の過程では、「需要先が自動車部品やプラント機器などにも応用可能で、思ったよりマーケットが広いことが分かった」と、さらに展望は開けた。

同社は創業した年の7月、「研究開発設備もあり、さまざまなサポートを得られる」と考え京大桂ベンチャープラザに入居。実際、インキュベーションマネージャー(IM)らから基金や補助金活用などについてさまざまな情報をもらい、「大変助かっている」と述懐する。

現在は、既存の錆層向けや、亜鉛メッキ鋼材にも対応する4種類を商品化しているが、「水中、海中、高温下などさまざまな環境条件でも使える製品や、鉄以外の素材でも使える製品を開発し、横展開を図りたい」と、山下氏はさらなる研究開発の加速を見据えている。

長い間、さびを研究してきた山下氏の成果が、鉄鋼材料の常識を変えるかもしれない。

企業データ

企業名
京都マテリアルズ
設立
2012(平成24)年2月
資本金
900万円
事業内容
防食技術開発・反応性塗料、耐摩耗性・耐疲労性材料および精密超硬金型の研究開発・製造