休館日の売上減をサービス向上でまかなう
「休日を年間90日から105日に増やします。でも、売り上げも給与も下げません。だから、皆さん、知恵を絞って汗をかいてください」。
大分・別府で旅館「べっぷの宿 ホテル白菊」を運営するつるみ観光株式会社(大分県別府市)の社長、西田陽一氏は、2018年1月の年頭挨拶で、従業員にこう呼びかけた。
大幅に休日を増やせるのは休館日を設けたことが大きい。正月明け、夏休み明け、6月末~7月頭と、3つのオフシーズンに10日間ずつ旅館の営業をやめたのだ。休館による売上減の影響は1,500万円ほど。通常の営業日で賄おうとすると、1日当たり5万円ほどの売上増が必要になる。旅館の平均客単価は1万8,000円だから、1日に1~2組の宿泊客数アップを目標とした。
「2016年4月の熊本地震で、大分県別府市の観光客も大きく減った。このときの危機感が社員の間で『組織として助け合おう』となり、働き方改革の原動力になった」とつるみ観光社長の西田陽一氏は、休日増加に向けた一連の取り組みを振り返る(写真:山本 巌)
そこで、西田氏は、朝食と接客を充実させることで、宿泊客の満足度を高めようと考えた。ホテル白菊の朝食は、和洋バイキング形式だ。従来は、220席作れる10階の宴会場を開放していた。ところが、10階には厨房がない。料理や皿などは、地下の和食店と12階の洋食店から運んでいた。「これではシズル感のある料理を提供できない」(西田氏)と、12階の洋食店に朝食会場を変更した。120席しかないが、「食後の皿をこまめに片付けるようにしたところ、回転率が高まり、問題なく対応できた」と西田氏は説明する。
続いて、料理の提供方法を一新した。大分の名物料理「とり天」を例に取ると、以前は100人分をまとめて調理し、朝食会場では保温器に入れて提供していた。今は、オープンキッチンで調理人が宿泊客の目の前で、「もう少しですから、お待ちくださいね」と声をかけながら、フライヤーでこまめに揚げていく。このように、まとめて作り置きするスタイルから、こまめに出来たてを提供するスタイルとした。クロワッサンやバゲットなどパン類もこれまでは大型のコンベクションオーブンで調理人が大量に焼き上げていた。それを2台の小型コンベクションオーブンに切り替え、減り具合を確認しながらパンを焼き上げて出すようにした。担当はホールスタッフで、調理人は料理に専念できるようにしている。
和食は、地下の厨房で和食店の調理人がある程度まで仕込んでおき、盛り付けなどの最終工程は洋食店の料理人が受け持つ体制にした。和包丁の扱い方や和食特有の衛生管理などは和食店の料理長が指導している。白飯も、以前は大釜で炊いていたが、洋食店の厨房に15台の炊飯器を設置。順番に炊き上げることで、常に炊き立ての白飯を宿泊客が食べられるようにした。
「和食の調理人に“割り切り”をお願いすることもあった」と西田氏は振り返る。それまでの味噌汁は、調理人が朝早く出社して作っただしを用いていた。味に対する職人ならではのこだわりだ。しかし、会場で長時間、置いておかれているために風味が飛んでしまっていた。そこで、だしは既製品に独自の方法でオリジナルの味付けをし、朝食会場では小鍋で味噌汁を温めて提供する形にした。
朝食バイキング会場となる洋食店は、オープンキッチン形式に改装。お客の目の前でできたての料理を出すことにこだわった(写真:山本 巌)
もう1つのテーマであった接客については、着物が制服の女性の客室案内係は、ロビーで宿泊客を出迎えることができるように、予約担当や施設管理の従業員がサポートするようにした。
ホテル白菊では、月に2回、30代を中心とする各部門の従業員が集まり、業務改善について1~2時間のミーティングを開いている。その議論で、宴会場の準備はお客様対応ということで客室案内担当の着物の女性が行っていたが、施設管理などの男性は時間が空いているので代わりにできると分かった。その分、客室案内担当は接客時間を延ばすことができると同時に、勤務時間も短くなった。「別府でも着物の女性が接客する旅館は減っている。だからこそ、ホテル白菊の強みになる」と西田氏は話し、改善案が若手から出てくることを喜ぶ。
この結果、宿泊のクチコミサイトの評価が、1年の間に4.0~4.1から4.4~4.5へとアップ。稼働日数は減ったにもかかわらず、わずかながらも売上増を達成したのだ。
温泉地で知られる別府は、ホテルや旅館の激戦区だ。国内外の大手が進出しており、2021年までに部屋数は3割も増える。宿泊客と働き手の奪い合いが激化していくのは間違いない。「年休105日間を就業規則に明記して、県内高校で採用活動をしたところ、今年は9人が来てくれた。サービスレベルを高めつつ、働きやすい環境を作って定着率を高めていきたい」。こう西田氏は意気込む。