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「光英科学研究所」国の補助金を活用し、乳酸菌生産物質で飛躍を期す

この記事の内容

  • 「健康に効くのは乳酸菌ではなく乳酸菌生産物質」を信条に
  • 自社製乳酸菌生産物質を解析し有用性の高い物質を多数同定
  • 和光理研インキュベーションプラザ卒業、和光市に本社・工場
村田公英社長と小野寺洋子専務

「いいタイミングで、いい場所に来られた」光英科学研究所の村田公英代表取締役(75)は、真新しい会議室で安堵の表情を見せる。中小機構が運営するインキュベーション施設「和光理研インキュベーションプラザ」に約5年間入居していた同社は、和光市(埼玉県)が「新産業ゾーン」として整備した場所に本社兼工場を新設・移転し、この1月に開業したばかりだ。

同社は1969(昭和44)年創立と歴史は長いが、研究開発型企業の歩みそのものだ。乳酸菌が代謝過程で作り出す「乳酸菌生産物質」を開発・生産し、健康食品などの原料として、大手食品メーカーなどに供給してきた。だが、ヨーグルトや乳酸菌飲料のメーカーに比べると乳酸菌ブームの陰に隠れていた。それが、乳酸菌生産物質の有用性を世間に知ってもらいたいと願う村田社長の地道な努力でようやく日の目が当たりつつある。

生きた乳酸菌そのものよりも、乳酸菌生産物質を摂取したほうが健康に役立つ。なぜなら、乳酸菌を人間の腸内で増殖・定着させるのは難しいが、乳酸菌生産物質ならダイレクトに体内に吸収されるからだ—。日本の乳酸菌研究の草分けの一人で、村田社長が「先代」と呼ぶ創業者の正垣一義氏(故人)の発想だ。同社はこの知見に基づいて、16種35株の乳酸菌・ビフィズス菌を用いた「共棲培養技術」を開発し、国産無農薬大豆から作成した豆乳を培地とすることで同社特有の乳酸菌生産物質を製造してきた。村田社長は94(平成6)年に後を継ぐとともに会社を法人化。先代の考えを忠実に守る一方で、乳酸菌生産物の有用性についてのエビデンス(証拠)獲得に取り組んできた。

その一環として、2011年に慶大発ベンチャーで東証マザーズ上場のヒューマン・メタボローム・テクノロジーズに同社製の乳酸菌生産物質のメタボローム解析を委託。人間の健康に有用な34のペプチドを含む352種類の発酵代謝物資の同定に初めて成功した。

その中には、抗ストレス機能を持つ糖脂質「ステリルグルコシド(SG)」も確認された。SGの抗ストレス機能の発見者である室伏きみ子・お茶の水女子大学学長に解析結果を見てもらうと、大豆に含まれるSG近似成分が乳酸菌発酵によって増倍されたものと推定。同成分を効率よく発酵生成する技術を開発し、機能性食品素材として普及させることを目的に共同研究することになった。

研究開発資金の一部は国の14年度サポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)の採択を受けて調達した。小野寺洋子専務取締役は「1回目の応募で落選したので、2回目は早くから経済産業省の説明会に出席し、中小機構にも3、4回通ってアドバイスを受けた」と明かす。4月から3カ年計画の最終年度に入るが、「順調に進んでいる」という。同社はこれに先立ち、国の2012年度ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金事業にも採択されるなど、公的支援を上手に活用している。

乳酸菌生産物質の解析により、抗炎症物質も同定されるなど、今後、さまざまな商品への発展が期待される。「大豆を培地に選んで正解だった。エビデンスを取って理論武装に取り組んできて良かった」と村田社長は振り返る。新設した本社・工場の生産能力は従来の5倍。広い敷地を確保しており、さらなる設備増強も可能だ。村田社長に夢を問うと、「自分が儲けようなどとは考えない。乳酸菌生産物質を世の中に広めることが第一だ」と先代の教えを強調した。

企業データ

企業名
光英科学研究所
設立
1994年(創業=1969年)
資本金
1,000万円
従業員数
16人
事業内容
乳酸菌生産物質の製造・販売、乳酸菌の培養