あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「丹念仕込み本場さぬきうどん」うどん職人の手づくり感を徹底再現

「あの人気商品はこうして開発された」 「丹念仕込み 本場さぬきうどん」—うどん職人の手づくり感を徹底再現  1974年に家庭用冷凍さぬきうどんを発売したテーブルマーク。冷凍うどんの老舗メーカーが満を持して9月に発売したのが「丹念仕込み 本場さぬきうどん」だ。とことんこだわったのは、うどん職人の工程を機械で再現すること。そのために独自工程の追加にも踏み切った。開発を成功に導いたのは、蓄積してきた技術とノウハウだった。
目指したのは、本場のさぬきうどん店よりも「おいしいね」と言われる商品—。テーブルマークが9月に発売した「丹念仕込み 本場さぬきうどん」の開発は、“本物”を追い抜くという強い意気込みでスタートした。同社は冷凍うどん市場でトップシェアを誇る。開発の裏には、リーディングカンパニーだからこそ、近年頭打ち感が出始めてきた同市場を盛り上げる責務があるとの思いがあった。また、1974年から冷凍さぬきうどんを製造してきた老舗メーカーとしての意地もあった。

市場を活性化させる商品をつくろう

日本冷凍食品協会の統計資料を基に作成。近年冷凍うどん市場は盛り返すも成長率は鈍化している

テーブルマークは冷凍さぬきうどんで、定番商品の「さぬきうどん」のほか、上位商品の「熟練の味 さぬきうどん」など、多数のラインアップを揃えている。充実した商品数は消費者に選択の幅を与え販売増加に役立つ側面がある。

だが近年状況が変わってきた。原材料の質や機械設備の高度化により、商品間で差別化することが難しくなってきたのだ。「お客さまや流通関係者からも『商品の差が分かりにくい』という声をもらうようになってきた」と、商品開発本部商品開発部の近添敏和チームリーダーは打ち明ける。他社製商品の質も上がってきたため、価格競争が起こり「4、5年前から実売価格が下がってきた。このままだと価格が下がる一方」(近添チームリーダー)との危惧感があった。

日本冷凍食品協会によると、冷凍うどん市場は2011年が226億4700万円、12年は前年比1.2%増の229億3300万円と横ばいの傾向にある。「06年以前は数量ベースで10%程度伸びていた」(同)ため、同時期に比べると成長は鈍化している。 テーブルマークの冷凍うどんの年間生産量は、家庭用と業務用を合わせ約5億食でトップシェアをもつ。閉そく感の漂う冷凍うどん市場を活性化させるため、業界のけん引役として「差別化できる商品が必要」(同)と判断した。

徹底的に再現したうどん職人の工程

うどん職人のように生地を折り返しながら縦横に伸ばす独自工程を加えた

従来の商品との差を明確にするために、テーブルマークはうどん職人の手づくり感を徹底的に追求した。

冷凍うどんの製造工程は通常、小麦粉と加工でんぷんに水を加えミキシングした後、所定の厚さまで生地を伸ばし、最後にスリッターと呼ばれる切り刃でカットされ冷凍される。

これに対して「丹念仕込み 本場さぬきうどん」では、一つひとつの原料から見直した。手づくりのさぬきうどんが放つ「黄色が強く透明感のある」(近添チームリーダー)発色に近づけるために、専用の小麦粉を使った。また、小麦粉と加工でんぷんに加えて、新しく小麦タンパク(グルテン)を添加するなどしてオリジナルの配合にした。ミキシングの工程では、通常よりもやや多めに水分を加えた生地をしっかりと練り込むことで、手でこねたようなコシと粘りを作り出した。

さらに、よりモチモチとした食感と強いコシのある麺を再現するために、独自工程の追加にも踏み切った。通常、生地は一直線に伸ばされ麺帯という生地に加工しカットされる。だが「丹念仕込み 本場さぬきうどん」には、麺帯を折り返しながら伸ばし、しかも縦方向だけでなく横にも伸ばす新しい工程がある。「うどん職人が生地を何度も折り返して練り込み、方向を変えて伸ばす工程と同じ。うどん職人の作り方を機械で再現した。このような工程を追加したのはテーブルマークで初めて」(同)と胸を張る。

わざと不揃いな太さの麺に

生地は包丁を使った乱切りでカット。つゆと絡みやすくした。

テーブルマークがこだわったのは、麺帯の製造だけではない。切り方にも妥協をしなかった。通常の麺はスリッターで一定の間隔で切り分け、太さを一定にするが「丹念仕込み 本場さぬきうどん」では、包丁を使いわざと不規則な乱切りを行っている。その理由について、近添チームリーダーは「うどん職人が切ると、真っすぐで同じ太さの麺はないから」と即答し、手づくり感を追求した姿勢を示した。

乱切りにはつゆが麺にからみやすいというメリットもあるが、最終的に麺の量を計測するとバラつきが多くなり、廃棄ロス率も高くなってしまう。だが「効率性はお客さまには関係がない。メーカー側の論理をお客さまに押し付けるわけにはいかない」(近添チームリーダー)と力を込める。

原料の見直しや独自工程の追加、包丁を使った乱切りなどの一連の工程は、生地を綾織りのように縦横に練り込むことと、専用ラインを新設した製造工場が香川県綾上町にあることから「綾・熟成法」と命名された。

完成した試作品をうどんの本場、関西地域の流通関係者に食べてもらうと「モチモチ感が強く、つるっとしたのど越しも楽しめる。これなら価値がある」や「『本場』というネーミングに勝るとも劣らない」と高評価を得たという。

冷凍うどんの老舗だからこそ

スピーディーな開発を可能は蓄積してきた技術のノウハウがあればこそ

うどん職人の手づくり感を追求するために原料の選定や配合、独自工程の追加などさまざまな改良を加えたにもかかわらず、本格的な開発の開始から発売までに費やした時間は約1年半。試作の回数は30回程度だったという。スピーディーな開発を可能にしたのは、これらの改良はすべて一からの開発ではなかったからだ。

1956年に創業した加ト吉水産(現テーブルマーク)の本社は、さぬきうどんの本場、香川県にあった。同県の名物「さぬきうどん」を日本全国に広げようと、1974年に家庭用冷凍さぬきうどんを発売した。以来、テーブルマークは、さまざまな種類の冷凍うどんを製造販売するとともに研究開発も進めてきた。

冷凍うどん一筋25年の近添敏和チームリーダー。これからも“理想の冷凍うどん”を追い求める

「常に品質の改良を行ってきた。また、小麦粉の種類に応じた加工デンプンの量や加水量など長年、培ってきたノウハウがある。後は引き出しから取り出してくるだけ」と、入社以来25年間冷凍うどんを担当する近添チームリーダーは淡々と答える。新設された生産ラインも「従来からあるラインの良い点を結集させた」(近添チームリーダー)という。

さぬきうどん店よりも「おいしい」と思われる商品の開発という高いハードルだったが、スピード感のある開発を可能にしたのは、これまで蓄積してきた技術とノウハウがあったからだ。

「今が完ぺきな『丹念仕込み 本場さぬきうどん』だとは思っていない。理想の冷凍うどんが必ずどこかにあると信じている。まだたどり着けていないが、これからも追い続けていきたい」と語る近添チームリーダーの言葉には、冷凍うどん一筋25年の重みが込められている。

企業データ

企業名
テーブルマーク株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役社長:日野三代春
所在地
東京都中央区築地6-4-10

掲載日:2013年11月27日