起業のススメ

「ドリコス株式会社」失敗から次のチャンスを見つける

SFやゲームの世界に登場するような製品を開発したのは、ドリコスの竹康宏社長だ。体調に合わせたドリンクを飲めるように自動で栄養素を配合する装置「healthServer(ヘルスサーバー)」を開発した。本体側面をタッチすると、その時の疲労度とストレス度、フィットネスレベルを計測して、ビタミンなどが入った粉末のサプリメント(サプリ)が出てくる。水やお茶を入れて飲むことで、不足した栄養素を補充できる。本体に内蔵された生体センサーで読み取り、栄養学もとにサプリの種類と量を決める仕組みだ。

スマートフォン(スマホ)の専用アプリも開発し、今までの行動と、今後の予定を入れると、その行動に適した効果の見込めるサプリを出す。事務仕事なら脳の疲労軽減に、育児なら体力回復に効果のあるサプリをワンタッチで提供してくれる。「スマホなどで、レコメンド(おすすめ)を出すものは増えてきたが、その先は“あなた次第”で、手軽に実行に移せるものはなかった。わざわざ薬局やコンビニに行かずに、あとは飲むだけ」というのが特徴だ。まずは、5月中旬から都内のスポーツ・ジムに約20台を設置してモニタリングを始める。ゆくゆくは、福利厚生の一環として企業のオフィスや、健康意識の高い一般家庭への導入も目指していく。

ヘルスサーバー

PC教室、英語広告そしてマイボトル

竹が最初にビジネスに興味を持ったのは、高校生の時だ。受講者が自分のパソコンを教室に持ち込んで、使い方を教わるサービスを始めた。教室で習った後、続きをそのまま家で操作できる点にニーズがあると考えた。「民芸サークルのチラシを作りたい」といった年配者を中心に、1回10~20人が受講した。受講料は1~2時間で約1000円と、当初から利益を目的としていなかったが、「お客さんの反応が直接見えるのが楽しかった」。

慶応義塾大学理工学部に進学し、英語学習ができるフリー・ペーパーの発行を思い立った。広告文を英語に翻訳し英文法や意味を解説することで、広告そのものを教材にしたのだ。「広告の認知率でトップになれる」と自信があった。早速、」地元の居酒屋から広告出稿が決まった。居酒屋で使えるフレーズや店の特徴を書いた英文広告と、解説文を載せた約6ページの冊子を2000部作り駅前で配布した。あるホテルから「フロントにフリー・ペーパーとして置きたい」との連絡があった。配布した場所が米海軍横須賀基地に近い場所にあり、外国人のホテル利用者向けの観光ガイドとしての役割を期待されたのだ。「新しい気付きだった。やってみないとわからない」ことだった。しかし、人件費を含めると赤字になったため、1号で終了した。

同時期にマイボトル専用自販機を設置するアイデアを思いつく。高校の時に付き合っていた彼女が「セルフのガソリンスタンドのように、注いだ量で入れられる自販機があったらいいのにね」との会話を思い出したのがきっかけだ。このアイデアで内閣府の雇用創造事業の補助を受けるなど反響は大きかった。「『あなたが世界を変える』と言われ、ワクワクした。こんなに反応が良いビジネスがあるのか」と起業を決意した。

その頃には慶応大大学院理工学研究科の修士課程に進んでおり、修士課程2年生の時に会社を設立した。会社設立と自販機開発の資金は、内閣府の雇用創業事業の補助金約200万円と、ビジネスコンテストで得た賞金200万円弱だ。実は設立前の1年間に、このアイデアであらゆるビジネスコンテストに挑戦し、グランプリを含む8件の入賞を果たしている。社名のドリコスは、「ドリンク」と「コミュニケーションズ」を掛け合わせたもの。「お祝いはみんなで飲みに行くなど、飲むこととコミュニケーションはリンクしている。飲むということにこだわっている」。

研究を辞め事業を選択した結果…

一方、竹は会社設立の2カ月後、慶応大大学院理工学研究科の博士課程に進み、半導体の3次元積層技術を研究していた。副業禁止規定がある日本学術振興会の特別研究員に採用されたため、一度会社を離れる必要があった。ドリコスは技術アドバイザーとして参加しながら、半導体のオリンピックといわれる国際学会ISSCCで発表するなど半導体分野のホープでもあった。

研究を続ける中で、「自分がしていることは、理工学の領域なら意味のあることだったが、一般のユーザーにとって意義があることなのか」と疑問を持つようになる。多くの人は、パソコンやスマホの性能は十分ではないかと感じた。「一度、半導体を忘れて、世の中の人が毎日することの中で課題を見つけて、革新的に変えることをしたい。その手段として、半導体を生かせれば」との思いを強くしていった。

自販機は自社で開発し、東京工業大学、慶応大湘南藤沢キャンパスの近く、フェリス女学院大学の3カ所に試験的に設置した。サントリーのウーロン茶やジュースを500ミリリットル注いだ場合、100円程度で飲める。だが、授業がある日は多くて1カ所あたり20杯。授業がない日は1、2杯と利用は伸びなかった。

「利用が少ないのは認知度が低いから」と考えた。宣伝のため、半額や1日無料のキャンペーンを実施すると当日は行列ができたものの、継続的な利用にはつながらなかった。その後、ある会社から事務所に設置してほしいとの要望を受けたが、「会社の資金的に製造するのがきつい時期だった。構想から2年以上、大学での成功モデル作りに拘ってしまった」。開始からの利用登録者は約600人にとどまり、2015年7月にサービスを終了した。

飲料と健康の掛け合わせで誕生

マイボトル自販機は苦い経験になったが、竹はただでは転ばなかった。自販機事業をする中で、「ここでしか飲めない飲料が欲しいという声が多かった。ここでしか飲めない飲料って何だろう?」と次のアイデアを考えた。たどり着いたのが、「飲料と健康を掛け合わせ、その人にしか出せない飲料の提供」だ。

モノづくり施設で3Dプリンターや卓上旋盤などを借りて、healthServerの試作に取り組んだ。当初は粉と水を一緒に出したが、カビの発生や水を入れる手間を考慮して、粉だけにした。サプリを紛で提供してくれるメーカーも探した。開発と並行して、昨秋から資金調達面活動を行い、2016年1月に三菱UFJキャピタルから出資を受けた。

栄養素の配合は、銀座医院の院長補佐・抗加齢センター長や常葉大学健康科学部教授を務める久保明を顧問として招へいし、開発協力を仰いだ。現在、開発を完了し、モニタリング用の準備を進めている。「製品を売るだけで終わりたくない。利用者から得られたデータから人の生活はどうなったかを分析し、次の事業展開につなげたい」と話す。

(敬称略)

起業を目指す後輩に送るメッセージ

モノづくりは、お金がかかるという時代は過ぎ始めていると思う。3Dプリンターなどの登場で、昔に比べればはるかにやりやすくなっている。試作に何百万円、何千万円かかるような時代だったら、自分も起業できなかった。ヒアリングする価値があると自負している製品があるなら、モノづくりを始めている人に会って、聞いてみては。見方も変わると思う。

また、モノづくりをする人は他のベンチャーと比べて、コミュニティーが熱い。「ここまで公開していいの?」と思うほど、お互いに情報をオープンにするところがあり、コミュニティー内で活発にやりとりがある。ぜひ、モノづくりにチャレンジしてほしい。

掲載日:2016年3月30日

企業データ

企業名
ドリコス株式会社
Webサイト
設立
2012年1月
法人番号
8021001047285
代表者
竹康宏
所在地
神奈川県横須賀市追浜南町2-28
事業内容
小型飲料サーバー開発、販売