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「渡辺パイル織物」高級服地に挑む

この記事の内容

  • タオルのふわふわ感もたらす糸の輪(パイル)を少なめに織る
  • ファッションの新素材を求めているバイヤーらに期待される
  • ファッションの新素材を求めているバイヤーらに期待される

「売上高に占める布地の比率を5年後には10%くらいにしたい」。渡辺パイル織物の渡邊利雄代表取締役社長(57歳)は、こう言って目を輝かせる。

地域産業資源ブランド化の成功事例として名高い「今治タオル」。約120社にのぼるそのメーカーの中で、中堅どころに位置する同社は今、タオルの生産技術を応用した新しい高級服地の開発に取り組んでいる。

社名の「パイル」というのは、タオルのふわふわ感をもたらす糸の小さな輪のことだ。タオルは経(たて)糸と緯(よこ)糸が3回交差するごとに経糸でパイルを作って織る。同社はこの間隔を4回とか5回に増やすことで、パイルが抜けにくく、型崩れしにくい布地を作る計画だ。すでに昨年10月、中小機構四国本部の支援を受けて、「タオルの生産に係る技術を活用した高品質服地の開発・製造・販売」という事業名で、国の地域産業資源活用事業計画認定を取得。愛媛県産業技術研究所繊維産業技術センターの協力を得て、既存の織機を改良することで、狙い通りの服地を量産化する技術の開発に着手した。

タオルは緯糸も経糸も綿糸で織るが、パイル経糸にウールなど他の原材料を用いれば、これまでにない感触、風合いを備えた布地を生み出すことも可能だ。国内や海外先進国のアパレル市場は常に目新しくて高級感のある布地を求めているだけに、同社の取り組みを知るバイヤーらからも期待されている。

「タオルは完成品にまで仕上げないとお金にならないが、布地としてならロールに巻いた瞬間に売ることができる」。渡邊社長にとって、タオル以外の用途に使う布地を商品化するのは長年の夢だ。

全国の産地のテキスタイル職人による合同個展「テキスタイル・ネットワーク・ジャパン」に1999年から毎年2回、欠かさず出品しているのをはじめ、繊維関連展示会に積極的に参加。独自開発の布地を提案したり、展示会で知り合った企業とのコラボレーションによる新商品開発に取り組んだりして、繊維関連企業の仲間の輪を全国に広げてきた。ただ、布地は企画ごとのスポット的な売り上げが中心で、まだ売上高の2%程度を占めるに過ぎない。そこで、新技術による布地生産を軌道に乗せたい考えだ。

タオル製造を生業とする家で育ち、「子供の頃からタオルが好きだった」と語る渡邊社長は、高校時代に創業者の父親と母親を相次いで亡くしたため、大学を出て家業を継ぐときに、職業訓練校に通ってパイル織機を学んだ。

「自らタオルを織れるようになって、初めてタオルメーカーを経営できる」と考えたからだ。以来、綿花の産地や糸作りも含めて、タオル加工の一つひとつにこだわった高級タオルのメーカーとして成長。海外有名ブランドにも供給するようになった。

もっとも、ずっと順風満帆だったわけではない。2007年には主要取引先だった大手問屋が倒産。年商が5分の1以下に急減し、当座預金残高が「2つの銀行を合わせて1万5000円しかない」という危機に瀕した。だが、品質にこだわってきたことが救いとなった。従来から同社の商品をギフト用に販売していた東京の百貨店などが直接、買い付けに来たのだ。これを機に問屋を介さない取引が徐々に増加。かつて100%だった問屋比率は今や5%程度に過ぎない。

渡邊社長の今の課題は「自分の仕事を他の社員に分担してもらうこと」。「仕事が趣味」と公言するだけに、早朝から深夜まで土日も含めて働き、仕事の段取りを何から何まで一人で決めている。それでは「いざという時に(会社の)みんなが困る」と自認しているのだ。もう一つの課題は「会社のブランディング」。こちらは新しい布地の商品化に合せて進めることになりそうだ。

企業データ

企業名
渡辺パイル織物
設立
1965(昭和40)年4月
資本金
1,000万円
従業員数
25人
創業
1963(昭和38)年