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「西京の森どうぶつ病院(山口市)」全国でも珍しい「通勤前の預け入れ」

この記事の内容

  • 将来を見つめ大学の工学部を自主退学。農学部に入り直して獣医師に
  • 動物病院開業を控えて、ホームページ開設に不安を覚える
  • コーディネーターの助力で課題解消。朝7時診療で地域の要望に応える
脇本院長と看板犬のボルト君

「私たち夫婦は共働き。子供を安心して預けられる保育園があるから働ける。なら出勤前にペットを預けられ、仕事帰りに検査結果や治療方針を聞ける体制を整えた共働き世帯や単身世帯が利用しやすい動物病院を創ろう」

全国でも珍しく朝7時に診療を始める「西京の森どうぶつ病院」は、2015年11月に山口市に開業した。院長は、山口県周南市育ちの脇本雄樹氏(40)。高校卒業後、大手製薬メーカーに勤務していた父を追うように山口大学工学部応用化学学科に入学したものの、在学中に2カ月をかけてアメリカを横断した旅で様々な人種や文化に触れ、自身の将来を真剣に見つめ直した。

幼少期から多くの動物を飼育し、生物の生死に接していたことや、家の近くにある徳山動物園に2人の兄とよく行って動物を身近に感じていたことから獣医師になることを決意。工学部を自主退学して同大農学部獣医学科を受験し直して見事合格。カリキュラムのほか牧場実習、水族館実習、動物園実習も経験した。卒業後は山口県庁に獣医師として入庁、その後も下関市の動物病院で小動物臨床経験を積んで独立に踏み切った。

しかし、脇本氏は創業準備の過程で大きな将来不安に駆られる。「事業資金は返済できるだろうか。スタッフの生活は守っていけるだろうか…」

一番の心配事はPRツールとして最重要視していたホームページの立ち上げだった。脇本氏は、開業資金を調達した山口銀行防府支店の担当者と山口県よろず支援拠点を訪れた。掲載すべきコンテンツのイメージは持っていたが、IT技術に明るくないため自力で立ち上げることはできなかった。

よろず支援拠点で脇本氏を担当したのは、これまでに多くの創業支援経験を持つ2人のベテランコーディネーター。開業を3カ月後に控えた準備作業の状況をつかむとホームページの土台作りに早速取り掛かった。

普段からペットはもちろん、どんな人にも優しく接する脇本氏には、強い味方が現れる。大学の同級生で副院長を務めることが決まっている獣医師の浦野充夫氏は、IT技術にも精通していた。脇本氏がコーディネーターと仕上げた枠組みに浦野氏がコンテンツを効果的に盛り込むと、ホームページは次第にイメージ通りの姿になっていった。 

コーディネーターのSEO対策(特定のキーワードで検索した場合に上位に表示されるための工夫)の助言が奏功して、市内の動物病院では1位に表示。2年目にはバージョンアップして、動画コンテンツを「ユーチューブ」にも掲載している。

病院のシンボルマークやロゴは、山口県立大学の文化創造学科の学生がデザインしてくれた。7時診療開始の動物病院であることから、朝陽の輝きと7時を指す時計の針をダブらせた太陽を中心に据えている。

犬と猫の特異性を考慮して、出入口から入院室、ホテル室、伝染病対策の隔離室まで犬エリアと猫エリアを完全に分離。660平方メートルのドッグランも併設し、運動不足を解消するよう配慮している。

「これからはメディカルトリミングを強化していく」と脇本氏。一般的なトリミングと異なり、心臓や皮膚に疾患を抱えるペットを対象に短時間にストレスの少ない技術で処置する。トリマーは院長が厳選している。「トリマーはペットと接している時間が獣医師より長い。獣医師が気付かない病気や異変に気付いてくれることがある」と効果を語る半面、「現在は月1日だけ。7頭の処置が限界で予約の希望に応えきれていない」と自戒する。

2年目に入った時点で単月の収支は黒字に転換したが、7時診療は思わぬ役割ももたらした。深夜から早朝にかけて事故に遭ったペットが地元だけでなく遠隔地からも搬送されてくるようになったのだ。「通勤前の受け入れと緊急処置が重なることもある」という。

森ふくろうのフクジロウが見守る院内は清潔感で溢れている。スタッフは誰一人として辞めていない。「僕が至らないからみんなが助けてくれる」と語る院長の言葉には、その人柄に集まったチームの一体感がにじみ出る。

山口県よろず支援拠点 藤井良幸チーフコーディネーターと野村耕大コーディネーターの話

脇本院長は、PRツールとして拠り所にしていたホームぺージやインターネット基盤の構築に助言を求めてよろず支援拠点を訪ねてきましたが、不安心理に反してビジネスコンセプトは明確化していました。旧友である副院長の尽力で院長が抱えていた不安はほどなく解消できました。私たちは今でもホームページの変化を見ており、気付いた点は修正を助言しています。

院長は、自力で不安心理を払しょくするかのように地元の新聞向けに開業のプレスリリースを書き、開業を地域にお披露目するダンスイベントも企画するなどビジネスプランを次々に行動に移していました。院長のプランは、山口銀行の投資型クラウドファンディング「開花」の1号案件にも選ばれています。ですから、このケースは獣医師としての技術だけでなく、院長の人徳と商才に尽きると思っています。

院長の優しさは、誰にも伝わる最強のPR戦略であることの好例でしょう。西京の森どうぶつ病院は、院長の心に惹かれるリピーターで溢れるに違いない。私たちは、こう信じて支援を続けていきます。

企業データ

企業名
西京の森どうぶつ病院
Webサイト
設立
2015年11月
資本金
7500万円
従業員数
5人と看板犬のボルト、森ふくろうのフクジロウ
代表者
脇本雄樹氏
所在地
山口県山口市大内御堀2891-2
事業内容
犬と猫はじめペットの総合ケア