2026年 10月 30日
平安時代中期に成立した「源氏物語」には、葬送を終えた後も、光源氏が生涯最も愛した女性の一人である紫の上を思い続ける姿が描かれている。千年の時を経て葬儀の形は変わっても、葬儀は別れの場であると同時に、故人とのつながりを心に刻む場でもある。そんな大切な人を思い、その記憶を残すという営みに力を注いでいるのが、オーダーメイド葬儀「花葬儀」を軸に人生の節目に関するサービスを展開している株式会社LIVENT(東京都品川区)だ。三上力央代表取締役は一時倒産の危機に瀕しながらも、「100人100通り」の葬儀を追求するという唯一無二の戦略でV字回復を達成した経営者である。葬儀業界の「ゲームチェンジャー」的な存在である同社は葬儀会社という枠を超え、「人生の最後」に生じるさまざまな課題を解決する「ライフエンディングカンパニー」として成長を続けている。
花葬儀で故人の「人生の物語」を演出

三上氏には忘れられない葬儀の光景がある。亡くなったのは、ピアニストを目指し、ジュニアオーケストラに所属していた14歳の中学生。500~600人の参列者が集まった。生前に残した本人の希望に沿って、同門の仲間たちが一人ずつピアノを演奏。さらに、中央に安置された棺を囲むようにメンバーが並び、先生の指導のもと演奏を披露した。会場に入り切れない参列者にも、Zoomでつなぎ、演奏を届けた。三上氏は「最後は好きな音楽をみんなで演奏して見送ることができました」と振り返る。故人の人生を聞き、その人だけの別れの場をつくる。まさに「100人いれば100通りのお葬式」をコンセプトとして掲げる同社の葬儀を象徴する例だ。
「大切な方の人生を聞かせてください」。同社の葬儀の打ち合わせはこの言葉から始まる。一般的な葬儀では、祭壇や花、料理などがあらかじめパッケージ化され、複数の価格帯から選ぶが、同社は故人の人生そのものを聞き取ってから、葬儀を組み立てる。「例えば、打ち合わせで故人の写真があれば、『どちらへ旅行されたのですか』と尋ねます。家族や親族から故人の思い出話を聞き取り、その情報をもとにメモリアルコンサルタントが故人との最後の時間をどう過ごすかという企画を考え、空間デザイナーは故人の人柄や人生を花で表現します。この2つの機能で、最後の大切な方だけの空間、その人らしい空間を作るんです」(三上氏)

公式サイトには実際に葬儀を行ったさまざまな事例が紹介されている。スタッフが、故人の女性が趣味にしていたステンドグラス作りに着目し、ステンドグラスの灯りで、スイートピーやチューリップなどで彩られた花祭壇を照らす演出を提案したり、愛猫が眠る自宅の庭で「虹の橋」を渡りたいという故人の希望を叶えるため、バルーンアーチを設置したガーデン葬を行ったりと、故人の趣味や好きな花、家族との思い出をくみとり、「その人らしい」別れの場づくりにつなげている。祭壇に飾る花にしても、菊一辺倒だった業界の常識を覆したのである。
同社の花葬儀は完全オリジナルで準備に手間がかかるだけに、平均価格は約155万円と高めだが、施行件数は年々伸びており、2026年は約800件と昨年の593件を大幅に上回る見通しで、顧客満足度も97.3%に達しているという。三上氏は「同業他社が当社の取り組みを見に来られて、自社での導入を検討されたこともあったようです。実現には多くの手間や人材育成が必要で、簡単には取り入れられないと判断したと聞きました」と話す。葬儀を単なる「儀式」としてではなく、「人生の物語」と捉え、専門職による協働体制を敷き、生前の終活相談から、逝去後の相続、遺品整理、不動産売買までサポートするという同社独自のビジネスモデルが「納得のいく見送り」を求める層に支持されているのだ。
野放図な事業拡大で14年間赤字、債務超過が膨らみ倒産危機

三上氏が起業を思い立ったのは、学生時代にさかのぼる。国学院大学を卒業後、起業を志す学生が集まる米オレゴン大学ビジネス学部アントレプレナーシップ学科に留学。当時は父親が営んでいた電気工事会社を継いで、大きくするという野望を抱いていたという。しかし、あるとき、クラスメートから「お前、父親の人生を歩むのか。俺らはこれから起業するぞ」と言われたのを機に起業を決意。「幼少の頃から、人を喜ばせて、自分の喜びにするのが好きでした。大学時代にイベントを企画したり、サプライズをしたりしていました。それだったら、一大イベントの結婚式とお葬式をやったらいいんじゃないかと思ったのが最初です」(三上氏)
帰国後は外資系コンサルティング会社に勤務し、働きながら準備を進めた。そのとき、仕事関係者の葬儀に参列したことが、「自分らしく生きて、自分らしい最期をつくる」という現在の花葬儀の原型が生まれるきっかけとなった。故人をよく知らないまま葬儀が進んでいき、「誰の葬式か分からないんじゃないか」と感じたのだという。約300人を対象に市場調査を実施し、「自分らしいお葬式を求めるのではないか」「菊の花を好まない人もいるのではないか」といった仮説を検証したところ、「ほぼ合っていました。やっぱり、自分らしい葬式を作ることに尽きるということが分かりました」(三上氏)という。
3年間務めた外資系コンサルティング会社を退職し、ウェディング事業と葬祭事業を展開するLIVENTを創業したのは2002年。社名は「Life time event(ライフタイムイベント)」を合わせた造語で、人生の節目に新たな価値と感動を届けたいとの思いを込めた。しかし、経営は順風満帆というわけにはいかなかった。三上氏は「14年間ずっと赤字でした。やったことのない事業を2つも同時に立ち上げたのは、あまりにも無知でした。とにかく銀行から借りるだけ借りるという方針で、自転車操業でした」と振り返る。
三上氏は銀行に借り入れを納得してもらうため、事業拡大に走る。2010年に東京都大田区で約4000万円を投じて葬儀場を開設しようとしたが、反対運動が起こり断念した。2013年には経営不振に陥った福岡県北九州市の結婚式場を買収し、併設されたイタリアレストランと道の駅の運営にも乗り出したものの、「1個何百円というものを売る商売。相当難しく、全然プラスにならなかった」(三上氏)という。結婚式場の拠点を東京、横浜、福岡に拡大したことで、目が行き届かなくなるという誤算もあった。ベテラン社員の横領が発覚したほか、北九州市の結婚式場の披露宴で、新郎側が新郎を含め家族や友人が誰ひとり来ないという「結婚詐欺トラブル」にも巻き込まれた。
こうした不運や野放図な事業拡大などが重なった結果、資金繰りが悪化して、債務超過が膨らみ、2017年に経営危機に直面する。社員からは「給料が振り込まれていない」と電話が入るほど追い込まれていたという。三上氏は「倒産とか自己破産とかいろいろ調べて、夜も眠れなくなりました」と振り返る。当時の売上高は10億円。そのうち8億円の売り上げがあったウェディング事業を手放すことになり、残ったのは1.8億円の債務超過と売上高2億円の葬儀事業だった。当時60人いた社員も、ウェディング事業に携わっていた45人が譲渡先に移ったため、葬儀事業の15人だけが残る形となった。
三上氏は「一番の失敗の原因は、僕の自我の強さと傲慢さなんですね」と話す。業績が伸びるにつれ、「俺ならできる」という意識が強くなっていった。営業担当者にも「契約率が30%を下回る人間はいらない」と言い放ち、社員を追い込んでいた。「社長変わったね」「お金しか見ていないね」。そう言って去っていた社員もいたという。
「花の内製化」でV字回復、組織改革に着手

葬儀事業だけで再スタートを切ることになったわけだが、これが逆に「筋肉質の会社」に生まれ変わるきっかけとなった。その原動力となったのは、2018年から始めた花の内製化だ。三上氏は「花を内製化したことで、それまで利益を圧迫していた花の原価を低減できた」と話す。その結果、2019年に売上高4.5億円、経常利益率6%を達成し、債務超過も解消するV字回復を実現したのである。
独自の葬儀をつくるのに重要な役目を果たす花はサービスの中心に位置するだけに、その調達方法にも工夫が必要だ。同社は国内最大の花卉流通拠点である大田市場から車で約10分のところに、同社の花葬儀で使用する花祭壇などを制作する作業拠点のアトリエを構えている。故人の好みに応じて、オレンジ、黄色、青色など毎回異なる花をそろえれば、在庫ロスのリスクが高まるが、同社は大田市場への近さを生かし、注文を受けてから必要な花を仕入れているため、その懸念はない。まさに「すぐそこに冷蔵庫があるようなもの」(三上氏)なのだ。
さらに、三上氏は組織改革に着手する。きっかけはウェディング事業の譲渡先の税理士から言われた言葉だった。「全く会社に仕組みがない。ノリと根性でやってきた感じだね」。組織がどう動くべきかという「共通の指針」もないばかりか、ノウハウも蓄積されておらず、「感覚」に基づいて経営や業務が行われていたのだ。

「これも失敗の原因か」。それに気づいた三上氏が取り組んだのが経営理念の浸透だった。三上氏は「『想いをつむぎ、人生を花やかに彩る』という理念は以前からありましたが、形ばかりだった。資金繰りに追われ、お金ばかり気にしていました」と振り返る。三上氏は2018年に経営理念や価値観、事業指針などを体系化した「CORPORATE STANDARD」を制作した。80ページに及ぶこの本は、経営理念をはじめ、社員に関する考え方、中期ビジョン、クレームへの対応、パート・アルバイトに関する指針、報告・連絡・相談、朝礼など会社運営に必要な判断基準をまとめたもので、社員で共有している。
なかでも社員同士が感想を共有する場となっている朝礼は組織改革の柱だ。利用者を目の前に想定した挨拶の練習、個人個人の想いのシェア、企業理念の唱和などを行う。三上氏は「この人はこういう考え方をしているんだ、こういう発想なんだな、と人となりが分かる場」と話す。この取り組みは、コロナ禍を乗り切るのに絶大な効果を発揮したという。全社員を集め、「コロナで売り上げが50%下がった。このまま続くと、4カ月で会社が継続できなくなる。僕は銀行に行って借り入れの交渉をやる。みんなはアイデアを出してほしい」と説明したところ、社員から出てきたアイデアは約100個に上った。「それを一つ一つ潰して、コロナ禍を乗り越えたんです」(三上氏)

DX導入や業務プロセスの改革にも取り組んだ。DXが遅れている葬儀業界にあって、同社は顧客CRM(顧客関係管理)システムをいち早く導入し、顧客情報や対応履歴を一元化することで業務の属人化を解消。一人の担当者が最初から最後まで受け持つ「一気通貫型」から、初期の電話対応、メモリアルコンサルタント、空間デザイナーなど複数のスタッフが連携して対応する「リレー方式」に転換した。こうした業務効率化により、担当者の負担が軽減されたこともあって、2017年に30%を超えていた離職率も低下し、現在は10%前後で推移している。そこには、数字ばかりを追い求め、社員を追い込んでいたかつての三上氏の姿はない。
一連の改革が功を奏し、同社の売上高は2025年に10.4億円に達し、2026年は13.7億円程度まで伸びる見通しだ。債務超過が解消し、V字回復を実現した2019年の売上高4.5億円の約3倍である。三上氏は「みんな頑張っていますよね。既存の事業も新規の事業も。個人の成長がチームの力になって、会社の数字になっているのです」と強調する。
デジタルで高齢者が直面する課題解決へ

同社が現在、力を入れているのが、高齢者が直面する課題をデジタル技術で解決するサービスだ。個人情報を安全に保管するアプリや生成AIを活用したサービスなどの開発を進めている。また、葬儀事業で培った「人生の終盤を支える」という知見を生かし、50歳以上の世代をターゲットとして、新しいマッチングサービスの開発も進めている。目標は、単なる出会いの場ではなく、共通の関心ごとを通じて「人生後半の孤独」を解消する社会インフラの構築である。
同社は自社の成長のみならず、業界全体の価値向上を目指す「教育事業」も模索中だ。花葬儀の手法を伝えることができる教育機関を作ることが理想だという。そこには業界全体が「安かろう、悪かろう」という価格競争から脱却し、価値あるお葬式を提供する環境を整えたいとの思いがある。
三上氏は今後さらにサービスの領域を拡大しようと考えている。現在は東京・神奈川・千葉・埼玉の一都三県で事業を展開しているが、将来的には他地域への進出も視野に入れているほか、終活をサポートするライフタイムサポート事業やメモリアルジュエリー事業、相続不動産事業、デジタルサービスなどの事業を育成し、それぞれ独立させて、グループ会社としての事業成長を描いている。「人生の後半は、さまざまな困りごとが発生しますが、ひとつとして同じ事例はありません。だからこそ、一人ひとりに寄り添いながら、100人100通りの人生の後半をサポートしていきたいと考えています」(三上氏)。同社は「葬儀」という言葉が持つ冷徹な響きを、「人生の物語」という温かな響きへと変えた。人生の幕引きを「故人や家族の想いをつなぐお別れ」へと変える同社の挑戦は、今後も葬儀業界の常識を塗り替え続けていくに違いない。
企業データ
- 企業名
- 株式会社LIVENT(リベント)
- Webサイト
- 設立
- 2002年11月
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 78人(2026年9月30日現在)
- 代表者
- 三上力央 氏
- 所在地
- 東京都品川区南大井3-28-10 オリエントビル3階
- 事業内容
- 冠婚葬祭の企画運営、相続不動産、遺言・家族信託・仏壇・お墓、生前遺品整理のシニアケアコンシェルジュ、胡蝶蘭・アレンジメント・観葉植物などのお祝いのお花の販売、システム開発およびプラットフォーム運営








