2026年 8月 14日

組織越境型伴走支援研修に取り組んだ近畿経済産業局の浜田係長(左)と作野課長補佐

「売上高100億円企業」を目指す成長志向の中小企業をいかに増やしていくか。日本経済・地域経済成長の大きなカギを握っている。近畿経済産業局は、成長志向の企業に対する公的支援の道筋を探ろうと、2025年に「組織越境型伴走支援研修」というユニークな研修を実施した。自治体、商工会議所、中小機構、金融機関、よろず支援拠点など管内にあるさまざまな支援機関の支援人材を集め、支援チームを組成し、組織の枠を越えて事業者を伴走支援する。支援者たちは実践的な研修を通じて、普段の活動では得られない“暗黙知”として、支援スキルやノウハウを学んだ。

近畿管内の支援者46人が参加、8社を支援

「支援者にヒアリングをすると、人手不足や相談件数の増加などで余白が小さくなったためか、先輩支援者のノウハウを実際に見て覚えるなど、支援現場で暗黙知を学ぶ機会が少ないことが分かってきた。とはいえ、一機関ではリソース不足で支援者に対する学びの場を用意することが難しい場合もある。そこで、地域全体の支援力の底上げに向けて、支援者が組織を越境し、ともに伴走支援を実践する実証実験に取り組んでみることにした」。近畿経済産業局中小企業政策調査課係長の浜田裕輔氏は、今回の組織越境型の研修を実施した理由をこう語った。

取組のイメージ

研修が行われたのは2025年9月から2月までのおよそ半年間。経験豊富な企業支援者をリーダーに据え、異なる支援機関の担当者5人程度でチームを編成して企業の伴走支援に当たる。企業を訪問し、経営者や経営幹部、従業員へのヒアリングや職場視察などを実施。企業が抱えている本質的な課題をあぶり出し、経営者に提示する。経営者との「対話と傾聴」の中から本質的な課題への「気づき」を促し、課題を見極めてもらうという、課題設定型の伴走支援に実地で取り組み、そのノウハウを習得することを目指した。

研修には、近畿経産局の声掛けに賛同した22の支援機関から39人の若手を中心とした支援者が集まった。参加した機関は、地方銀行や信用金庫、信用組合などの金融機関、大阪府と兵庫県にある商工会議所、京都市や堺市などの自治体など。近畿経産局や日本政策金融公庫の職員も加わった。

今回の研修で支援先の対象としたのは、売上高が10億円を超え、従業員100~300人規模の成長志向の高い中小企業だ。近畿経産局では、管内の有力企業に協力を依頼。製造業を中心に8社が支援を受け入れた。管内のよろず支援拠点や中小機構などに所属し、支援実績が豊富なベテラン支援者7人をチームリーダーに据え、39人の若手支援者を8チームに振り分けて、それぞれのチームが企業の支援に当たった。

成長企業の2社に1社「課題があいまい」

組織越境型伴走支援研修の目的を説明する浜田係長

型破りともいえる研修に取り組むきっかけとなったのは、近畿経済産業局が2024年に実施した調査だった。中小企業庁は2025年2月から売上高100億円を目指す成長意欲の高い中小企業を支援する「100億宣言」プロジェクトを展開しているが、現場に近い近畿経産局ではこうした企業へ向けた支援のあり方に関する議論を2024年から行っていた。

売上高100億円規模の企業の多くは、地域に新たな需要を獲得し、地域の経済に寄与している。賃上げ余力も高く、雇用創出にも貢献している。100億企業の創出を後押しすることは、日本経済全体の底上げにつながることが期待できる。100億企業の創出が大きな政策テーマとなる中、近畿経産局は、成長志向の企業がどんな支援を求めているかを紐解こうと、中小企業と支援機関双方にアンケートやヒアリングを実施した。すると、中小企業側の調査から意外な調査結果が浮き彫りになった。

「従業員100~300人規模の事業者にアンケートを取ったところ、販路開拓や新商品・サービスの開発をはじめ、15分野の経営課題に関して『自社の中での課題の定義がはっきりせず、ぼんやりとしている』と回答した会社が2社に1社の割合で存在していた。経営者と現場の距離が遠くなって実態が見えづらくなってしまったり、忙しさも相まって課題に向き合うことを先延ばししてしまったり。そういったところが問題点として浮かび上がってきた」と浜田氏は説明する。特徴的だったのは、海外展開や脱炭素といった専門性の高いテーマだけでなく、新商品・サービスの開発、ブランディングといった経営課題についても、課題の定義がぼんやりとしていると回答する企業が少なくなかった。

100億企業創出が政策テーマになる中で、成長志向の企業に地域の支援機関ができることはないのか。2024年度に有識者による検討会で議論された。

企業支援の範囲が広がり、支援現場の負担が増える一方で、支援者の学びの機会は限られる。しかも、企業の現状把握や課題設定など企業の困りごとを的確にとらえる作業はどうしても時間がかかり、こうした支援の担い手は限定的ではないか。こうしたなかで企業支援の底上げに向き合っていくため、検討会から「複数の支援機関がともに企業支援に携わる取り組みを実際にやってみたらどうか」という案が出され、今回のチャレンジにつながった。

支援者同士が切磋琢磨 新たな支援ノウハウを吸収

大阪産業創造館で行われたキックオフミーティング。メンバーが初めて顔を合わせた

研修は2025年9月のキックオフミーティングからスタートした。

キックオフミーティングでは、ベテラン支援者から心構えなどを学ぶ講演が行われたほか、今回の研修の狙いなどの説明を受けた。一つのチームには、金融機関に所属する支援者がいれば、商工会議所に所属する支援者もいる。補助金などの制度づくりに携わる自治体の職員もいる。初顔合わせの支援者同士で意見を交換し、親睦を深める時間が設けられた。

企業への訪問は月1回ペースで4回行われた。それぞれのチームによって進め方は異なるが、初回に経営者のヒアリングが行われ、2回目は製造現場の見学や現場担当者のヒアリング、3回目に詰めのヒアリングや課題のすり合わせなどを行い、4回目の会合で分析結果の報告とともに課題と改善策が提案された。チームは企業を訪問すると、その日のうちに振り返りのミーティングを実施。ヒアリングした内容の確認や課題の抽出などを行い、次の訪問に備えた。

チーム活動の具体的な流れ

振り返り会は1時間ほどの設定だったが、議論が熱くなり、夜遅くになるチームもあったという。支援にあたった会社はいずれも成長力のある会社ばかり。浜田氏によると、社長の話を聞いた支援者たちから「本当にいい会社」「課題を探すのは難しい」という意見がメンバーの多くから上がったチームがあったそうだ。そんなチームの雰囲気にチームリーダーが「ぼくは懐疑的にみている。課題のない会社なんてない」と語りかけると、ミーティングの雰囲気がガラリと変わり、メンバーからさまざまな問いが生まれ、議論が活性化した。研修は本業との掛け持ち。業務の合間を縫ってオンラインで打ち合わせをして、意見をすり合わせ、資料を作成して情報を整理した。

支援者はそれぞれ得意分野を持っている。金融機関であれば、財務面に強かったり、商工会議所であれば、経営相談の経験が豊富だったりする。振り返り会や打ち合わせの中で、チームを組んだ支援者の異なる視点や考え方に触れ、新たな知見を吸収した。さまざまな意見をかけ合わせながら、支援先企業の本質的な課題をあぶり出した。

これまで経営者があいまいに認識し、重要視していなかったり、先送りしていたりしていた課題を4回目の訪問で提示した。「支援を受け入れてくれた経営者からは、ぼんやりと課題を感じていたことを第三者から指摘され、『やはりそうだ』と確信につながったといった評価や、社内でずっと続けていると気付かなかったような視点が得られたといったコメントをいただいた。支援者が真摯に熱意をもって支援してくれたので、大きな後押しになったという経営者もいた」と近畿経産局中小企業政策調査課課長補佐の作野綾香氏は話していた。

支援者の“アトツギ”を増やす社会を目指す

全体振り返り会で行われたグループディスカッション。他のチームの支援手法を吸収する機会になった

2026年2月には参加メンバー全員を集め全体振り返り会を大阪市内で開催。各チームによる活動報告が行われたほか、チームメンバーをシャッフルしてグループディスカッションも行われた。他のチームの取り組みに触れ、所属したチームだけでは得られなかった企業支援の視点や手法を学んだ。

近畿経産局では今回の取り組みについて、「3つの重要な示唆があった」と分析している。一つは、「100億企業」のような成長志向の企業に対しても課題設定型支援が有効であること、もう一つは、支援者のスキル向上を図るうえで支援者同士が対話をし合う場が重要であること、そして、伴走支援の「正解は複数ある」という前提で、多様な暗黙知を可視化できたこと、の3点だ。

経済産業局の浜田氏は、「成長を目指す企業経営者に頼られる支援者が地域に一人でも増えてほしい。人手不足やAIの台頭など経営環境が大きく変化するなかで、中小企業だけでなく、支援者もアップデートを続けていく必要がある。そんな状況下でも支援者の“アトツギ”が1人でも多く増え、1社でも多くの企業の悩みを和らげるような社会を目指すことが必要」と訴えていた。

続きは、「組織・地域の枠越え成長企業の支援ノウハウを学ぶ “越境型”研修を展開「近畿経済産業局」(下)」へ