2026年 8月 21日

近畿経済産業局が2025年に実施した「組織越境型伴走支援研修」では、チームリーダーを含め46人の支援者が8チームに分かれて課題設定型伴走支援に取り組んだ。取り組みを通じて、支援者たちは何を得て、何を学んだのか。兵庫県よろず支援拠点サブチーフコーディネーター、津賀弘光氏がチームリーダーを務めたチームの支援事例を紹介する。

■支援事例

メンバーの個性生かし課題を設定 支援ノウハウの“化学反応”期待(支援者チーム)

組織越境型伴走支援研修

津賀氏のチームには、近畿経産局、堺市役所、北大阪商工会議所、日本政策金融公庫から4人の支援者が参加した。研修に先立って9月5日に開催されたキックオフ会で初めて顔を合わせた。「メンバーみな多士済々。それぞれ専門分野を持っている。面白いので一人ひとりの個性を生かせる支援方法をうまく導き出したい。そんな思いでチームづくりを考えた」と津賀氏は語った。

兵庫県よろず支援拠点のサブチーフコーディネーター、津賀弘光氏

津賀氏は、日本政策金融公庫や複数のベンチャーキャピタルで外部支援家として中小企業経営に携わり、2005年に経営コンサルタントとして独立。兵庫県よろず支援拠点をはじめとした公的機関の窓口経営相談では、延べ5000件以上の相談実績を持ち、経営者との対話を通した伴走支援に取り組んできた実績が評価され、チームリーダーを任された。

支援先企業は、堺市西区でダクタイル鋳鉄異形管を製造・販売する朝日鋳工株式会社。ダクタイル鋳鉄異形管は上水道の水道管やガス配管などに使用される製品で、国内トップシェアを誇っている。売上拡大を目指す成長志向企業で、従業員は約140人。今回のテーマに合致する企業で、近畿経産局からの提案に賛同し、伴走支援を受けることにした。

支援チームは、10月から1カ月ペースで4回企業を訪問。経営陣などへのヒアリングや工場見学などを実施する中で、本質的な経営課題を抽出し、チームで構造化。最後となる4回目の訪問で経営者に課題と改善策を提起する、というスケジュールだった。その中で、津賀氏はメンバーの支援者たちにひとつだけこう釘を刺した。

「4回目までアドバイスはしない」

「これは自分への戒めにもなるが、『こうしたら』と言いたくなる。だが、相手のことを十分に理解せず、思いつきで言ったアドバイスは、仮にそのとき経営者に刺さっても再現性がない。私自身、何度も飲み込んだし、みんなも守ってくれた」と津賀氏は語った。

津賀氏のチームで特徴的だったのは、初日の訪問で自己紹介に時間を割いた点だ。メンバー4人がそれぞれ自身のプロフィールを紹介。個人的な趣味などにも話が及んだ。メンバーを迎えた朝日鋳工の平山理社長も緊張が解けて「ぼくもこういう趣味があって」と自己開示。ヒアリングの場が一気になごんだ。「自己紹介の中で、『このメンバーで応援したい』という気持ちをしっかりと出して、信頼関係を築く。そうすることで、心の中にしまい込んでいた悩みも吐露してもらい、本質的な課題にたどり着ける。そういう場をつくりたかった」と津賀氏は強調していた。

支援を受けるにあたって、平山氏は自身が考えている経営課題を整理し、支援チームに提示した。カーボンニュートラルやAI・ロボットの活用、新規事業の開拓、若手人材の育成などだ。ずっと取り組まなくてはならないと思いながら、着手できずにいた課題も少なくなかった。ヒアリングで、支援チームのメンバーは「傾聴」に徹し、さらに深掘りしたい内容について質問を投げかけた。

3回目の訪問では経営幹部や社員にもヒアリングを実施。社長が考えている経営課題と経営幹部や現場が考えている経営課題とのギャップはないか。社長とは違う視点からの課題を探った。ヒアリングを終えると、メンバーが集まり、「振り返り会」を実施。最終日に提示する、支援先企業が抱える本質的課題とその改善策を探った。

そして、社長が示した複数の課題の中で、チームが取り組むべき課題として選んだのは「若手人材の育成」だった。人材不足や人材の育成はある意味、多くの企業が抱えている課題である。また、経営者にとって解決策を見出しにくいテーマでもあった。社長との対話の中で、人材育成に対する悩みの大きさを感じ取るところが多かったそうだ。チームは、その改善に向けた具体策をメンバーそれぞれから出してもらい、4回目の訪問で平山氏に提示した。

北大阪商工会議所経営指導員の阪田勇也氏

今回の伴走支援で、津賀氏のチームに加わった北大阪商工会議所の経営指導員の阪田勇也氏にとっても支援ノウハウを学ぶ貴重な機会となった。

阪田氏が所属する北大阪商工会議所は、大阪府の枚方市、寝屋川市、交野市の3市を網羅する全国的にも珍しい商工会議所だ。3市を合わせた人口規模は、政令指定都市である堺市と同等の70万人。事業者数は2万4000者にも上る。経営指導員だけでも約20人が所属する大所帯で、ITやWEB活用支援に特化した部署を持つ。エンジニアを含めると50人以上の支援スタッフを抱え、事業者支援を展開している。

阪田氏は民間企業を経て2022年に入所。経営指導員としての経験は4年ほど。上司から声をかけられ、伴走支援事業への参加を決めた。「課題設定型伴走支援がこれからの支援に必要になっていることはよく知っていた。一方で、ふだんの商工会議所の業務は窓口相談が多く、受け身の対応になりがちだったので、課題設定型の伴走支援を自分にどう落とし込めるか興味があった」という。

伴走支援の実践は支援者たちにとって貴重な学びの場となった

課題設定型伴走支援を実体験する中で、ふだんの窓口相談では経験できなかった課題の導き出し方を習得した。「工場を見学したり、従業員の話を聞いたりする中で、社長の思いと会社の現状とのギャップを探し、そのギャップの中に『気づき』があった。それが今回の支援を通じてわかった」。また、異なる組織の支援者たちのさまざまな視点に触れたことも大きな刺激となった。

阪田氏は研修での経験を職場に持ち帰り、報告会で同僚の経営指導員たちと共有。ふだんの窓口相談でも話しやすい雰囲気をつくるようになった。また、新人職員が先輩職員の支援ノウハウを学ぶOJT型の指導方法も取り入れた。「今回の伴走支援では持ち帰るものが多かった。個人としてもそうだが、組織としても支援能力のベースアップにつながる。同じ取り組みがあったら、ぜひ参加を勧めたい」と阪田氏は話していた。

津賀氏は「学ぶ場所があれば、支援ノウハウの継承はそれほど難しいことではない。異なる支援者たちが支援ノウハウを共有することでイノベーティブに結合し、新たな化学反応を起こすことも期待できる。今回の事業が、その一石を投じた意味は大きかったと思う」と話していた。

■支援事例

漠然とした「課題」が明確に 支援を受けて人事制度の改革に着手 朝日鋳工株式会社・平山理社長

朝日鋳工の平山理社長

「とにかく話をよく聞いていただいた。うまく話せなくて時間が長くなっても聞いていただいた。次のヒアリングでは、いろいろなことを質問され、考えながら答えていくと、自分の方も何か整理ができてきた。非常に気持ちよく支援を受けることができた」。朝日鋳工株式会社社長の平山理氏は今回の伴走支援をこう振り返った。

溶解した原料を砂型に流し込む

朝日鋳工は戦前の1939年(昭和14年)に平山氏の祖父が創業した。当初は農業機械の部品の鋳造を手掛けていたという。戦後まもなく株式会社に移行。1970年から水道管の製造を始めた。「農機の受注が減った分を補おうと紹介してもらったのが始まりだったが、経営が父に代わったころから増やしていき、今では水道管が100%になった」と平山氏は語る。

ダクタイル鋳鉄は球状の黒鉛の粒が交ざった鋳鉄で、耐久性に優れ、衝撃や腐食に強い特性を持つ。砂で固めた鋳型に溶融した原料を流し込み、水道管やガス管を製造する。管の中でも曲がった形や丁字型など特殊な形状をした異形管の製造では10年以上にわたって業界1位を堅持している。「他社が苦手としている大型サイズの製品を量産する技術を確立した。自社ブランドを持たず、OEMに特化することでコスト競争力を高めているところが当社の強みとなっている」と平山氏は胸を張った。

学校を出るとすぐ家業に入った平山氏は、品質管理部門を長く担当。常務として父をサポートし、2018年に父から経営を引き継いだ。経営を引き継いだのは、父に病気が見つかったためだったが、その1年足らず後に、父は亡くなってしまった。「それまで経営の最終判断はすべて父がトップダウンでやっていた。社長としてすべき仕事を引き継げなかったのは残念だった。最初の数年間は考える余裕もなかったが、ここ数年、やっと落ち着いて経営を考えられるようになった」と語る。

ダクタイル鋳鉄異形管の製造ではシェアトップを誇っている

近畿経済産業局とはカーボンニュートラルの取り組みなどで以前から意見を交換。その縁がきっかけで伴走支援の提案を受けた。「経営についていろいろ悩みもあり、うまくいかないところもあった。われわれ以外の外部の方からの意見を聞けるいい機会でもあり、お願いすることにした」という。

コンサルティングを含めて、こうした支援を受けるのは今回が初めて。「どんな難しい話をするのか」と身構えていたそうだ。だが、「対話と傾聴」に徹したチームの対応に緊張せずに話をすることができたという。「われわれも水道鋳鉄異形管だけではなく、次の事業の柱になるものを展開できないかと何年か前から取り組んでいたが、なかなかうまくいかないところもあった。若手の雇用が悪化し、特に管理職になる人材が不足していることが喫緊の課題だった」と平山氏は話す。

支援チームが課題を人材育成に絞り込む中で、人材育成に対する質問項目をシートにまとめ、平山氏に回答を依頼した。平山氏は質問シートを埋める作業をする中で、「これもない」「こういうこともうちにはない」と自社の課題が分かってきた。最終日にチームから課題とその解決策の提示を受け、大きな気づきを得ることができた。

支援チームの伴走支援を受け、大きな気づきを得た平山理社長(中央)

平山氏によると、チームからの提示で、特に刺さったのは「若手とのコミュニケーションの取り方」についてのアドバイスだったという。「経営幹部とは頻繁に話をするし、現場に足を運んで世間話をすることもある。ただ、私の考えを直接伝えるということはあまりなかった」と平山氏。若手社員が直接、自分とコミュニケーションをとるための機会をつくる必要を強く感じたという。

支援を終えて平山氏は、さっそく評価の在り方の見直しに着手。職場のリーダーとなるような若手社員がモチベーションを持って働けるような仕組みづくりに取り組んだ。「今まではどちらかというと、肉体的にしんどかったり、みんなが嫌がったりするような仕事には手当をつけていたが、プログラミングやロボットのティーチングなど、体力的な問題だけでなく、技量や能力によっても手当をつける仕組みをつくった」と平山氏。働きやすい職場づくりに向けて人事制度そのものの見直しを検討している。

平山氏によると、電気自動車の普及などの技術革新で鋳物業界を取り巻く環境が大きく変化しつつあるという。水道用の鋳造異形管の分野でトップシェアを維持しているが、将来的には異種材質品との競合、人口減少に合わせた市場の縮小なども予想され、競争を勝ち抜くための一歩先の対応が求められている。働き手に選ばれる会社になれるかどうかは、新規事業展開とともに将来の成長のカギを握る。伴走支援を通じて得た「気づき」が、朝日鋳工の成長にどんな効果をもたらすのか注目される。