2026年 9月 4日
浜松市に本社を置く株式会社SPLYZA(スプライザ)は、スポーツ現場で培った映像分析技術を武器に、医療や製造業へと活躍の場を広げる。同社は「『上手くなりたい』を叶える」をミッションに掲げ、アマチュアスポーツ向け映像分析ツール「SPLYZA Teams」や、AIを活用した3次元動作解析サービス「SPLYZA Motion」を開発してきた。iOS端末1台で、高度な分析ができる手軽さが最大の特徴だ。国が成長戦略の大きな柱と位置付けるフィジカルAIの担い手としても期待されている。近年はスポーツの枠を超え、医療・リハビリ分野や製造業での活用にも事業領域を拡大。米国を中心とした海外展開にも乗り出し、「人の動きを可視化する技術」で世界市場に挑もうとしている。
ウィンドサーフィン漬けの日々から「IT×スポーツ」で起業

同社の土井寛之社長は、かつてソフトウエアエンジニアとしてサラリーマン生活を送っていた。ある時ウィンドサーフィンに出会い、その魅力にはまった。会社を退職してオーストラリアでウィンドサーフィンの練習に没頭した。「アマチュアで日本一になる」という目標を立て、日夜励んでいた。そして自身が帆(セイル)を操作する姿を映像で撮影しては、ブログに掲載する日々を送っていた。一度きりの人生なら好きなことに打ち込みたいと会社を退職してまで挑んだウィンドサーフィンへの道だったが、なぜか満たされない気持ちがぬぐえなかった。だんだんと将来を考える中で、起業への思いが固まっていった。スポーツも技術革新の影響を大きく受けているが、当時あったのは、オリンピックに出場するようなトップアスリートやプロ向けの高額なものばかり。「アマチュアでも利用できる技術を提供すれば、ビジネスになるのでは」と考えた。そして、自身の経験から、映像を活用した「IT×スポーツ」のサービス開発を決意する。
帰国した土井社長は、2011年にかつて働いていた浜松のIT企業の同僚3人と株式会社SPLYZAを設立した。中小機構が静岡県、浜松市と協力して運営する「浜松イノベーションキューブ HI-Cube」に入居し、開発をスタートさせた。日本政策金融公庫の創業資金を活用して、スポーツチーム向けの動画分析・共有サービス「Spoch(スポック)」を3年かけて開発した。ところが、さっぱり売れなかった。SNSで発信したり、展示会に出展したりしても反応は薄かった。「エンジニアなので、あの機能もこの機能も入れたいと自分たちの思いだけで開発し、お客さんの要望を聞いてもいなかった」。土井社長は最初の失敗をこう振り返る。
土井社長はスポーツ関係者や学校の部活動指導者などの元へ自ら足を運び、どのような機能が必要なのかを聞いていった。その間に開発した、スポーツ映像を残像動画へ自動変換するアプリが、大手IT企業の表彰制度を受賞するなど、同社の認知度も上がっていった。そして、Spochを改良し、チームスポーツを対象にした機能を充実させた「SPLYZA Teams」を完成させた。

「SPLYZA Teams」は、開発直後から多くの反響があった。トライアル利用には全国150チームが申し込んだ。しかし、そこから有料サービスに移行したのは5チームのみ。ここでも壁に突き当たった。開発資金も底をつきかけていた。有料サービスを利用する5チームの多くは、高校サッカーの部活動チームだった。そこで土井社長は、SPLYZA Teamsを高校サッカーの部活動に最適化した機能に絞り込み、再リリースすることを決断した。さらに、指導者が使うツールではなく、生徒が自ら使える仕組みへと転換させた。指導者の大半は教員で多忙なため、良いツールだと分かっていても導入には面倒さが付きまとっていた。ところが、生徒たちに使ってもらうと、目を輝かせて興味を持ってもらえた。生徒たちは、自分たちの練習場面を動画で撮影し、それをみんなで共有し、比較表示したり、コメントを書き込んだりして自由に使っていった。「ここでこうしたら、もっとパスが通るようになる」など、生徒自身が課題を発見し、改善策を考えるようになっていった。単なる競技力向上ではなく、課題発見力やコミュニケーション能力、問題解決力を育む教育ツールとして活用できるものだということが理解されていった。
同社が本社を置く静岡県は、サッカーが盛んな地域。ある高校が導入したことが、周囲の高校に伝わると、自校でも採用しようと普及が進んでいった。教育ツールにもなることが認知されると、学校側の見方も変わった。さらに、毎年冬に開催される全国高校サッカー選手権大会に出場する高校でSPLYZA Teamsが使われていたこともあり、普及は全国規模に拡大した。その後サッカー以外の競技にもメニューを増やし、2023年には、約30種の競技で、導入チーム数が約900チームにまで拡がり、スポーツの部活動で使えるツールとしての地位を確立させた。
モバイル端末1台で実現した3D動作解析
SPLYZA Teamsでスポーツの部活動市場を開拓した同社が、次の成長を加速させる技術として期待しているのが、AIによるマーカーレス3D動作解析アプリ「SPLYZA Motion」。これは、iOS端末1台で人の動きを3次元で解析するというもの。まだ、世界でも数社しか実現できていない技術だという。3D動作解析は、すでにスポーツや医療、製造業などさまざまな分野で実用化が進んでいる一方、既存の技術では、身体に多数のセンサーやマーカーを装着し、何台ものカメラを設置した専用の設備が必要で、導入には数千万円の費用がかかっていた。SPLYZA Motionは、モバイル端末のカメラで人の動きを撮影し、AIで解析することで、頭部や肩、腰、膝など身体50カ所以上の位置情報を認識し、関節角度や速度、軌跡などを数値化できる。既存の技術と比べて大幅なコストダウンが期待できる。
開発のきっかけは大阪のある高校からの要望だった。その高校はSPLYZA Teamsを採用していたが、同社に「身体の動きをもっと分かりやすく見ることはできないのか」と要望を寄せた。そこで同社はまず2D解析に着手し、その後3D解析の本格的な研究開発を始め、約3年をかけて完成させた。実現を支えたのは、同社創業メンバーで取締役CTO(最高技術責任者)の安東清文氏が持つ高度な3次元点群処理技術だった。安東氏は前職のIT企業で長年、3次元データ処理に携わってきた人材で、世界的にも数少ない専門家の一人だった。
スポーツから医療分野へ拡大

同社は、2022年9月に「SPLYZA Motion」のβ版をリリースした。当初は大学のスポーツ関連の研究用途で使ってもらうことを考えていた。土井社長は「今まで何千万円もかかった費用が、ケタ違いに低減できる。ワークステーションしかない時代にスマホを持ち込むようなもの。これはいけるはずだ」と、期待感を高めていった。実際、最初に投入した2Dタイプの反応はぽつぽつ程度だったが、3DタイプのSPLYZA Motionを完成させると、大きな反響があった。それも同社が想定していたスポーツ関連ではなく、大学の医学部からの問い合わせが相次いだ。
特に注目されたのが、歩行分析やリハビリ評価への応用だった。例えば膝や股関節など、関節疾患を抱える患者は多い。しかし、実際に関節がどの程度動くようになったのかなど、改善の度合いを数値で知ることができなかった。SPLYZA Motionを使うことで、体重や血圧のように具体的に数値の変化を患者に伝えることができるようになる。患者に回復を実感してもらえ、機能回復に取り組むモチベーションアップにもなると考えられたのだ。臨床で使う以上、高額な機器では患者の負担になる。そういう点でも、低コストで導入できる同社の製品は高く評価されている。

また同社は、2023年に京都大学大学院医学研究科、2024年に吉備国際大学、大阪大学大学院医学系研究科整形外科との共同研究に着手、その後も東京大学医学部付属病院整形外科・脊椎外科などさまざまな大学と共同研究をスタートさせている。すでに大学や一部の医療機関など約200拠点で、SPLYZA Motionの利用が始まっている。こうした実績が評価され、「第38回中小企業優秀新技術・新製品賞」において、ソフトウエア部門の最優秀賞である中小企業基盤整備機構理事長賞を受賞した。
さらに、2026年7月29日には、一般医療機器(クラスI)として届出を完了した新製品「SPLYZA Motion Medical(スプライザ モーション メディカル)」をリリースした。今回のリリースにより、今後は健康保険の適用申請が可能となる。将来的に保険収載が実現すれば、医療機関への本格的な普及に大きな弾みがつくと期待されている。同社は今後の販路拡大を見据え、現在販売パートナー企業の選定を急ピッチで進めている。土井社長は「まずは3〜4年で1000施設への導入を実現させたい」と意気込みを語った。
国内・海外を同時展開

日本で本格的な普及を進めるのと同時に、海外展開にも乗り出した。特に力を入れているのが、米国市場だ。総務省のデジタルインフラの海外展開支援事業に採択されたこともあり、これまでに米国内の学会や専門展示会に20回以上出展し、SPLYZA Motionをアピールした。そこで出会った現地の大学や研究機関と共同研究を行うとともに、FDA(米国食品医薬品局)に対する医療機器認証取得への準備も進めている。土井社長は「正直なところ、日本よりも米国の方が反応は良い」と言う。米国では遠隔医療や在宅リハビリのニーズが高い。患者が自宅で撮影した動画を医療機関へ送信し、解析結果をもとに診療や指導を行う活用法にも関心が集まっている。高額な分析設備を導入できない地方の病院やクリニックでも使える点が評価されている。国民皆保険制度のない米国では、医療格差の解消につながる技術として期待されているようだ。
土井社長は、国内と海外展開を同時に進めることについて「一般的には、まず国内で普及を果たし、その後に海外というルートをたどることが多いが、当社は同時並行でやろうと考えている。なにより、まだ世界でわずかな企業しか実用化できない技術、しかしAI技術の進化は著しく早い。先手をとってやっていかなければ市場を獲得できない」と説明する。販路開拓についても、「私自身、最初は英語での説明が苦手だったが、1回の展示会でだいたい30人ぐらいに説明する。同じことを繰り返していれば、苦でもなくなってくる」と言う。中小企業の海外展開で一つの壁となる言語の問題も、売ることへの意欲があれば乗り越えられる好例と言える。
世界中の身体の動きに貢献する

同社の社員は現時点で30人。国籍は日本、米国、ホンジュラス、中国、バングラデシュ、フィリピンと多彩だ。日本は採用難と言われるが、世界に目を向けて求人を募ると、動画解析やAI・3Dに関心を持つ優秀なエンジニアが多数応募してくるのだという。こうしたグローバル人材が海外展開を考えるうえでも大いに役に立ってくれる。
土井社長は社員に対して「私たちがやりたいのは、スポーツのための技術をつくることではなく、人の動きを理解し、社会に貢献する技術を広げることだ」と話している。同社の日本人の社員の中には、SPLYZA Teamsを知り、それを部活動などで広めたいと言う動機で入社した社員もいる。しかし、同社の事業は、スポーツで培った映像解析技術から、医療やリハビリの現場へ広がり始めている。さらに将来的には、製造業の技能継承や作業改善、高齢者の健康管理などへの応用も視野に入れる。人の身体の動きを誰もが簡単に計測し、客観的なデータとして活用できる社会が実現すれば、その価値はスポーツの枠を大きく超えるだろう。社員にもその意義を説明し、一緒に成長してくれることを期待している。
ウィンドサーフィンに熱中した一人のエンジニアの挑戦から始まったSPLYZA。トップアスリートしか利用できなかった高度な動作解析を、誰もが使える技術へと変えようとしている。その挑戦の先に見据えるのは、世界中の人々の「より良く動く」「より良く生きる」を支える未来だ。フィジカルAI時代の到来を追い風に、世界に挑戦する姿を見守っていきたい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社SPLYZA
- Webサイト
- 設立
- 2011年5月
- 資本金
- 1億円
- 従業員数
- 30人(2026年7月現在)
- 代表者
- 土井寛之 氏
- 所在地
- 静岡県浜松市中央区相生町16-13
- 事業内容
- スポーツ教育とヘルスケア関連のアプリケーション開発








