2026年 7月 24日

オリエンタルベーカリーの原田幸博社長

レストランやホテルのランチ・ディナーに供されるバゲットやロールパン、喫茶店のサンドイッチ…。大阪市浪速区に本社がある株式会社オリエンタルベーカリーは、業務用パンの製造・販売で関西圏シェアナンバーワンを誇る。戦後復興期に事業を始め、販路を拡大。コロナ禍の厳しい時期を乗り越え、2023年度に売上高100億円の大台に乗せた。業務用パン全国トップを目指し、新たな市場の開拓に取り組んでいる。

品揃えは1400アイテム超、顧客に最適な商品を提案

取引先は約1万8000。品揃えは1400アイテムを超す

「戦後まもなく、喫茶店から始まってファミリーレストランや機内食、学校や病院・福祉施設と地道に取引先を開拓していったことで、関西圏でシェアナンバーワンをとることができた。今後も挑戦を続けながら全国トップを目指したい」と社長の原田幸博氏は笑顔を見せた。

大阪府泉佐野市と京都府精華町に2つの工場を設け、北は京都、南は和歌山、西は姫路、東は滋賀まで約1万8000の取引先に業務用パンを供給している。取引先のニーズに応じて、さまざまな種類のパンを提案。食パンやロールパンのようなプレーンなパンから菓子パンや総菜パンまで品揃えは1400アイテムを超すという。

「たくさんのラインアップの中からお客様のニーズにあった商品を提案できるところが当社の強み。ただ、言われた商品を届けるのではなく、お客様の要望を吸い上げながら新たな商品も提案している。お客様の成長をサポートできるよう細やかなサービスを提供し、評価をいただいている」と胸を張った。

ローラー作戦で販路開拓 ダイアナ妃来日が成長を後押し

焼きあがったパンがベルトコンベアの上を次々と流れていく

オリエンタルベーカリーが産声を上げたのは、戦後復興期の昭和25年(1950年)。原田氏の両親が大阪・難波に開業した。原田氏の父はもともと電気技師。戦前、日本統治下の台湾にいたが、終戦後、日本に引き揚げ、大阪の光学機器メーカーに勤務していた。

一方、原田氏の母は神戸から大阪にケーキを運ぶ仕事をして家計を助けていた。運んだケーキは喫茶店でよく売れたそうだ。仕事の合間に母の手伝いをしていた父は、その様子をみて、サラリーマン生活に区切りをつけ、自らケーキ作りを始めた。それが会社の原点となった。

「父はビジネスの才覚がある人だった。ケーキをつくる技術はなかったので、職人を雇って事業を始めた。父は営業一筋。工場は母が切り盛りしていた」という。難波を拠点にミナミの喫茶店という喫茶店を一軒一軒営業に回り、取引先を広げるローラー作戦を展開。「何度も訪問してはセールスし、『それなら』と取引してくれた事業主はかなりいたと思う」と原田氏は語る。高度成長の時代に入ると、食文化も大きく変化。パンのニーズが高くなる状況を的確につかみ、製パンビジネスへと移行した。

原田氏は大学を卒業すると1年間、東京の製パン会社で修業し、1972年に家業に入った。子供のころから病弱だったそうで、「元気な大学の同期の姿をみていると、『就職しても、みんなには勝てない』と感じた。甘い考えかもしれないが、気軽な感じで父に頼んだ。『それならいいぞ』といわれたが、父は内心喜んでいたのではないか」と笑った。

衛生面に配慮した一つ一つ包装されたパン。病院や老人ホームなどで喜ばれている

1970年代は、ファミリーレストランが立ち上がってきたタイミング。この時期から企業を相手にしたビジネスが本格化するようになった。そして、成長の大きなきっかけとなった伊丹空港の機内食メーカーとの取引がスタートした。

機内食メーカーに業務用パンの納入を始めてしばらくして、1987年に英国のダイアナ妃が来日した。オリエンタルベーカリーが作ったパンも機内食として供された。それが大きな話題を呼び、会社の知名度アップにつながった。「当時、営業先でその話をすると、みんな聞いてくれた。大きな宣伝効果があった」。

90年代になると、病院や老人ホームなどの福祉施設に販路を広げた。後に、この事業展開が会社を救うことになる。持前の営業力を生かし、シェアを拡大。病院・福祉施設向けの売り上げは全体の約半分を占めるまでになった。「病院向けのパンは高い衛生基準が求められる。衛生管理を徹底し、一つ一つ包装して提供できるようにするなど、その要請に応えられたことで取引が一気に広がった」と述懐した。

グループ売り上げは入社当時の約60倍に

パンの生地のもととなる中種づくり

オリエンタルベーカリーの売上高が100億円の大台を超えたのは2023年度のことだ。その当時について、原田氏は「あまり感慨はなかった」と語る。2020年に発生した新型コロナウイルス感染拡大の影響で、厳しい経営状況に直面。「むしろ助かった、という思いのほうが強かった」という。

コロナ禍以前、順調に推移していた会社の売上高は約90億円に上り、100億円の大台はすぐ手の届くところにあった。ところが、感染拡大が深刻化。2020年4~6月の売り上げはコロナ禍前の半分にまで落ち込んでしまった。「実感として『これで潰れる』と漠然と感じた」という。従業員の解雇も頭をよぎった。

ちょうどそのころ、政府が雇用維持のための支援を開始。支援を活用したことで最悪の事態を避けることができた。病院・福祉施設向けの取引も大きな支えになった。「当時、喫茶店やレストラン、機内食の発注はほぼすべてストップした。だが、病院や福祉施設は止まらなかった。全部なくなってもおかしくない中で、半分くらいの売り上げは残った」。当時、コロナ禍で事業をあきらめた製パン会社は少なくなかったそうだ。原田氏は「ちょっとした差だった。本当に運がよかった」。大きな危機を乗り越えたうえでの100億円という節目だった。

原田氏が家業に入った時の会社の売上高は2億2000万円、従業員数は50人ほどだったそうだ。それから50年余り。グループでの売上高は60倍超の140億円になり、従業員数はパート・アルバイトを含めると従業員の数は1500人と30倍になった。

コロナ禍が収束し、再び成長軌道に乗せているが、原田氏はむしろ気を引き締めている。足下では、原材料価格が高騰し、これまでに4回の値上げを実施。その影響も売上高を後押ししているからだ。「コロナ禍前の状況でみてみると、今が100億円くらいの計算になる。ごっつう努力して達成したとは言えない。これも運がよかっただけ。もっと頑張らないといけない」と気を引き締めていた。

200億円達成に向けて関東に進出、ネット通販にも挑戦

京都府精華町にある京都工場

原田氏が次に据えた目標は2030年度のグループ売上高200億円達成だ。

オリエンタルベーカリーは2016年に関東に進出し、東京や横浜に営業所を設け、首都圏の巨大市場開拓に取り組んでいる。2023年には千葉県美浜区に自社工場を開設し、首都圏での生産能力を強化。取引先にできたてのパンを安定的に供給できる態勢を整えた。特に得意とする病院や福祉施設向けを中心に新たな販路の獲得に力を入れており、目標達成に向けた期待がかかっている。原田氏によると、首都圏の病院では患者の米食ニーズが強く、パン食があまり普及していないという。そこに商機があるとみており、味や品質に加え、調理の効率化によるコスト削減の効果などアピールしながら、積極的なセールスに取り組んでいる。

また、業務用だけでなく、インターネットなどを通じた消費者向けの販路開拓も本格化させている。冷凍技術の進化で焼き上げた直後のパンを急速冷凍する焼成冷凍パンが新たなビジネスとして広がりつつある。通販サイトを通じて冷凍焼成パンを販売し、宅配便で購入者のもとに送り届ける新たなスタイルのパン販売にチャレンジする。

ネット通販は、店舗で購入するよりも価格は割高だが、冷凍することで長期保存が可能になり、解凍後も焼きたての風味を楽しめる。共働き世帯や若い世代に受け入れられている。「ネット通販は今までのように営業スタッフが足で稼ぐ商売ではないので、頭を切り替えないといけない。マーケティングや広告・宣伝など、若手を中心にがんばってもらっている」としていた。

2030年度の売上高200億円という目標は、コロナ禍前に設定した。コロナ禍に続き、原料価格の高騰や人件費の上昇など足下の経済情勢は大きく変化している。原田氏は、「特に人材の確保は大きな問題。そのために賃上げを最優先に取り組む必要がある。こういう環境では、売り上げを最優先すると、利益が出ないということにもなりかねない。まずは利益重視の経営を心がけたい」と強調した。

仕事をする時は「一緒に」が人材育成のポイント

従業員の定着率を高めるため、「元気で明るく愉しい職場」づくりに取り組んでいる

「元気で明るく愉しい職場」を経営理念の一つに掲げる原田氏。従業員とのコミュニケーションや職場環境の整備には人一倍気を使った経営に取り組んできた。「パンは深夜に製造して、朝早く配送する。労働環境は決してよくない。人材の確保にはずっと苦労をしてきた」と語る。そんな原田氏は、売上高100億円という野心的な目標に挑戦する「100億宣言」企業に向けて、こんなメッセージを贈った。

「仕事をする時は、『一緒に』というのが大事なポイント」

少子高齢化を背景に、今やほとんどの業種で人手不足が深刻化し、人材の確保・育成は大きな課題となっている。その中で、オリエンタルベーカリーは、従業員の定着率を高めるため、マンツーマンでの人材育成に取り組み、大きな成果を上げている。

「営業だったら同行制。上司や先輩と一緒に回る。製造であれば、上司が一緒になって教える。問題点があった時に、上司や先輩が同じ問題点を把握できると一緒に解決できる。ぼくらの時代は、できないと責められて終わりだったが、今の若い人たちには通用しない。むしろ若い人たちは納得すると、今まで以上の力を発揮する人が多い」。原田氏によると、パンの練り方を教えるのも3人まとめて教えるよりも1対1のほうが、習熟度が高くなるのだという。教える側もそれが効率的と気付き、1対1で教えることが当たり前になったそうだ。

また、中小機構が運営する中小企業大学校を社内人材の育成に積極的に活用。社内の人材育成計画に「中小企業大学校研修への派遣」を明記し、これまでにのべ200人以上の社員を大学校の研修に派遣している。

100億宣言企業にとっても、高い成長を目指すうえで人材の確保・育成は避けて通れない重要なテーマだ。同様の悩みを抱える企業経営者は、オリエンタルベーカリーの取り組みを参考にすることで、成長への新たな活路が見いだせるかもしれない。

企業データ

企業名
株式会社オリエンタルベーカリー
設立
1957年4月(創業は1950年3月)
資本金
7000万円
従業員数
318人 パート・アルバイト1234人(2026年3月現在)
代表者
原田幸博 氏
所在地
大阪市浪速区元町1-3-2
事業内容
ホテル・機内食・レストラン・カフェ・喫茶店等の外食産業、病院・介護施設・幼稚園等の給食産業へのパンの製造販売