事例で見る課題解決の勘所

ネット通販で消費者と直接つながる

成功のポイント

  • 特徴ある商品や品ぞろえを武器に展開する
  • 梱包や発送などバックヤードの体制を整える
  • 即日発送など、顧客の期待に応える

本や洋服、食材、チケット……、あらゆる商品がインターネットで買えるようになった。「自社の商品をネット通販して、新たな顧客を開拓し、売り上げを増やしたい」。こう考える中小企業も多いだろう。特に、こだわりの商品を少量生産しているような場合に、ネット通販は適している。

オンラインショップを立ち上げることは簡単だ。しかし、その裏では商品管理や梱包、発送など、さまざまな業務が発生する。この対応をおろそかにすると、購入客からのクレームとなり、客離れにつながりかねない。

圧倒的なアイテム数で差をつける

DIY(日曜大工)に使う電動工具や塗料、ネジなど、取り扱いアイテム数が120万点を超える日本最大級の工具通販サイト「DIY FACTORY(ディーアイワイ・ファクトリー)」を運営するのが、株式会社大都(大阪市)だ。もともとは工具をホームセンターなどに卸していたが、三代目となる山田岳人氏が業態を転換。取引条件が厳しく赤字が続いていた卸業に見切りをつけて、ネット通販事業を推進した。

工具の通販サイト「DIY ファクトリー」
工具の通販サイト「DIY FACTORY」。消費者の声を基におしぼりで拭き取る感覚で塗装できる「ペーパーステイン」をメーカーと開発するなど、新たな試みも始めている

 ネット通販の開始は2002年8月で、ショッピングモール「楽天市場」に出店した。きっかけは2001年末の中学校の同窓会で同級生に「これからはネット通販の時代が来る」と教えられたこと。その翌日、山田氏はパソコンを買ってネット通販の勉強を始めた。「ホームセンターに卸している価格で小売できれば儲かる。しかし、実店舗を持つほどの投資余力はなかった」(山田氏)。

出店したところ、いきなり福島県の人から約3万円もする商品の注文が入った。DIYに詳しい消費者は欲しい工具があっても、近所に商品が置いていないことが多い。ネットで探して購入する人は後を絶たなかった。山田氏は、昼間は卸業としてトラックで商品をホームセンターに納入し、夜はネット通販業として商品を梱包して送り状を書くという毎日を続けた。卸業の社員は自分の仕事を終えると、帰ってしまう。夜から始めるネット通販業は、山田氏1人で業務をこなしていた。

ネット通販開始から1年半ほどがたった2004年初めには、月商が100万円を超えるまでになった。このタイミングで、山田氏はネット専任者を1人、採用した。すると、終日、顧客対応できるようになったことで、売り上げが一気に伸びた。

この頃は、自転車や加湿器といったDIYに関係のない商品を扱っていた。それでも売れていた。サイト名は「卸問屋都築家本舗」。卸問屋の小売店は安いというイメージを消費者が抱くだろうという狙いからだ。

かし、次第にネット通販が普及してくると、競争は激しさを増した。山田氏は「何を売っているのかが分からない店では、いずれ顧客に見放される」と考え、DIYに特化する決断を下した。選択と集中だ。

その後、ネット通販は順調に売り上げを伸ばしていった。2007年には、山田氏は卸の廃業を決めた。「商品を卸しているホームセンターなどの得意先に配慮しながら、ネット通販を続けるのはもはや無理だと思った」(山田氏)。実際、ネット通販を始めた大都に対して、ホームセンターなどが反発し、製品を大都に扱わせないようにする動きも出ていたのである。一方で、大都のネット通販に協力するメーカーも少なからずあった。そうしたメーカーは、売り場が限られるリアル店舗よりも、いくらでも製品を並べられるネット通販にビジネスチャンスの可能性を感じていたのだ。

ネット通販への集中により順調に業績を伸ばしていたが、2009年2月に変調を来した。対前年同月比が初めて下回ったのだ。気がつけば、同じ工具をもっと安い価格で売り出すサイトが続々と登場していた。

「突き抜けないと勝てない」。こう考えた山田氏は、当時、1万8,000点ほどだった取り扱いアイテム数を、5倍の10万点に増やすことを決めた。例えばドリル1つ取っても、直径0.1mmの単位で製品が用意されている。これをすべて掲載すれば、他社にない品ぞろえをアピールできると考えたのだ。

構想を実現するため、人件費が安い中国で日本語学科の女性5人を採用し、製品の登録作業を一気に進めた。2009年12月25日のクリスマスに10万点を達成。この量に追随する会社は現れず、翌年からは対前年同月比200%という勢いが2年間ほど続いた。

しばらくたつと、別の問題が発生した。現場の負担増による疲弊だ。朝、出社して受注画面を見ると「あ~あ」と社員がため息を漏らす。「今日も遅くまで帰れない」という思いがよぎるためだ。梱包・発送の担当者だけでは作業が終わらず、夕方になると山田氏をはじめ、ウェブサイトのデザイナーなど、全社員が集まって梱包・発送を手伝っていた。

山田氏は自社の業務を受注と顧客対応に絞り、それ以外は外注することにした。大阪・南港に倉庫を持つ物流会社に梱包・発送作業を任せることにした。また、メーカーとFAXで受発注情報をやり取りしていたが、自社開発したウェブの受発注システムに切り替えた。当時はパソコンをまだ使っていないメーカーも多かったが、根気強く交渉を続け、パソコンの使い方などを出向いて説明することまでも行った。今では取引先の99%がウェブで受発注できる体制となり、社員の負担の大幅軽減に成功している。

その後、リアル店舗を東京・二子玉川などに出したことで、メディアの取材が増えた。「芸能人がDIYを楽しむ番組ロケなどもあって、ネット通販の売り上げを後押ししてくれた」と山田氏は話す。

大都社長の山田岳人氏
大都社長の山田岳人氏は「店舗で購入している人もまだまだ多い。リアルとの接点を持たないと、文化を作ることはできない」と話す(写真:松田 弘)

大都のビジョンは「らしさがあふれる、世界を。」。課題は、DIY人口をどうやって増やしていくか。山田氏は、かつてライバルと思えたホームセンターとも手を組んでDIYのすそ野を広げようと取り組んでいる。

クチコミだけで顧客が増える

強い商品が1つあれば、中小企業でも販路を開拓できる。酢の醸造所として100年以上の歴史を持ちつつ、通販事業で業績を拡大した株式会社トキワ(兵庫県香美町)は、その好例といえる。

トキワが転機を迎えたのは、1990年に小売を開始した「べんりで酢」からである。
もともとは地元の名産だった蟹寿司用の合わせ酢として開発したもので、地元の水産加工業者などに卸していた。得意先の女性従業員の間で「便利で、使いやすい」と評判になり、彼女たちが自宅に持ち帰り始めたのだ。その後、「もっと使いたいから一般販売してくれ」という要望を受け、小売用に「べんりで酢」を商品化したところ、地元を中心に愛用者を多数抱えるようになっていった。

「べんりで酢」は、利用者の料理の手間を省きつつ、味もいい、というのが強み。蟹寿司用の合わせ酢は一般的には酢に砂糖や塩など、複数の調味料を加えて味付けする。それを「べんりで酢」1本で済ませられることで、家事に追われる女性などを中心に支持を得た。

その後、地元の利用者から贈られたり、クチコミを聞いたりした人からの問い合わせが全国から来るようになった。1997年には、全国に商品を届けられる通信販売を公式に開始した。

当初は知っている人のみに売っており、広告宣伝活動は一切していなかった。顧客管理ソフトを導入したものの、当初の顧客は300人ほどにすぎなかったという。

その後、「べんりで酢」の認知度と売り上げが高まり、2010年には顧客数が約7万500人となり、年間の売上高は4億5,000万円を超えた。当時のカタログにはトキワで扱っている全商品を掲載していたが、売り上げの9割近くは「べんりで酢」が占めるという人気ぶり。強い単品を武器に、市場を開拓してきたというわけだ。

好調な通販事業を踏まえ、社長の柴崎明郎氏は、2011年から新規顧客を積極的に獲得する方針を打ち出す(当時、柴崎氏は専務)。新聞やウェブに広告を出す一方で、通販の基幹システムに投資して規模拡大に耐えられる仕組みを作った。さらに、「べんりで酢」単品商売からの脱却を図り、万能たれ「なんでもごたれ」や万能だし「え~だし」など、調理を手軽にする新商品を次々と開発している。

2019年3月には、オンラインショップ「トキワさん家のオンラインショップ」をリニューアル。デザインを見やすくし、商品を案内するナビゲーションも改善した。ネット通販を核に、地方発の総合調味料メーカーとしての地位を確立しようとしている。

トキワの通販サイト「トキワさん家のオンラインショップ」
トキワの通販サイト「トキワさん家のオンラインショップ」では、商品を使ったレシピ集を掲載し、購入者に使い道を提案している

参入障壁が低く、競争は激しい

ネット通販を始めること自体は、そんなに難しくない。オンラインショップの立ち上げをサポートするサービスがいくらでもある。課題は、どのように自社サイトを消費者に知ってもらい、購入につなげるかだ。ほかにはない特徴を持つ商品であることや、こだわりの商品であることを、消費者に訴求するための仕掛けが欠かせない。販促メールを配信したり、メディアに取り上げられるように企画を練ったり。どこにでもある商品を安く売るというのでは、通販サイト「アマゾン」をはじめとする資本力のある大手との価格競争に巻き込まれてしまう。

一方で、翌日到着や返品対応などネット通販に対する、消費者の利便性への要求は高まっている。注文を受けてから商品の在庫を確認して、なければメーカーから取り寄せて、梱包して顧客に発送する——。消費者の手元に届くまでに1週間もかかってしまうような体制では、ほかの店に顧客は流れてしまう。ネット通販の参入に当たっては、バックヤードの整備が欠かせない。

企業データ

企業名
株式会社大都
Webサイト
従業員数
59人
代表者
山田岳人
所在地
大阪府大阪市生野区生野東2-5-3 大都ビル1F
創業年
1937年

企業データ

企業名
株式会社トキワ
Webサイト
従業員数
83人
代表者
柴崎明郎
所在地
兵庫県美方郡香美町香住区三谷735
創業年
1912年