中小企業の海外展開入門

「グルメストーリー」ハラール食品で中東に挑む

日本語で表現すると「おいしさの物語」。そんなユニークな社名「グルメストーリー」を創業したのが鈴木信輝社長だ。2009年設立のグルメストーリーは液状調味料メーカーであり、国内では調理用ソースやドレッシングなどのOEMを主事業としてきた。が、鈴木社長には創業時から世界に通じる自社製品を開発したいとの夢があり、それを実現するため海外販売への挑戦を決意した。

「ハラール認証」を知る

そこでまず、人伝にサウジアラビア大使館に知己を得て、大使館主催のビジネスツアーに自費で参加した。その際、自社でつくった製品を現地に持ち込み、試供してみると好評だった。さらに鈴木社長がサウジアラビアの市場を観察してみると、中東地域でも肥満体質の人が多く、かつヘルシー嗜好が高まり、さらに日本食への認知が広がっていたことから、現地での液状調味料販売の可能性を確信した。

一方、イスラム圏では食品を販売するうえでハラール認証を得る必要があることも現地のツアー関係者から教えられた。ハラール認証とは、イスラム教の教義に則り、アルコールや豚肉を含まない食品にのみ与えられる認証だ。

そこで鈴木社長は急遽、ハラール認証を取得する。液状調味料の原料となる酢やみりんの成分表示にアルコールが明記されていなくても、それらの製造工程でアルコールが添加されていないか、また、ほかの原料でもゼラチンなど豚由来ものが入ってないかなど、液状調味料の製造で使用するすべての原材料の製造工程もチェックした。

それにより2013年春、グルメストーリーは日本イスラム文化センターからハラール認証を取得した。またこの間、鈴木社長はビジネスツアーで築いた人脈からサウジアラビアの王族系企業を紹介され、現地で日本食レストランをプロデュースする話が進み、その開店時にグルメストーリーの商品を納入することも約していた。

しかし、中東諸国で起きた民主化運動「アラブの春」および国内の東日本大震災の影響から、サウジアラビアでの日本食レストラン計画は休止に追い込まれてしまった。

ハラール食品で海外開拓に挑むグルメストーリー(中央は鈴木信輝社長)

1本10万円の超高級ドレッシングが売れに売れた

そこで鈴木社長は、ビジネスのベクトルを中東湾岸諸国のうちアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに再調整した。

アラブ諸国は良いモノ・技術・ノウハウの導入に積極的であり、日本に対する親近感も強い。さらにドバイは、フリーゾーン(税の優遇制度などがある特区)を設けるなど外国企業への門戸が広く、物流や外国人投資の面からもメリットは大きい。

さらに、市場としても圧倒的富裕層が多く、欧州、豪州、アフリカなどのビジネス・ハブ(中継点)になっていることから年間6000万人ものビジネス来訪者があり、それらバイヤーに対して商品ショールームとしてのチャンスともなる。

2014年、鈴木社長はドバイへ市場参入するため、7万人の来場がある中東最大の食品見本「Gulfood2014」(開催地:ドバイ)に単独で出展した。そして、そこで驚くべき行動に出る。なんと1本10万円の超高級バーベキューソース、ドレッシングを展示したのだ。

このバーベキューソースには真珠のパウダーを添加し、また、ドレッシングの素材も瀬戸内海産の天然ゆず、小豆島産最高級エキストラヴァージンオリーブオイルを使うなど厳選した高級素材にこだわった。さらに、容器には有田焼のボトルを用い、そこに24金やプラチナの装飾を施し、それを杉の木箱に納めるという十分すぎる高級感を演出した。

この超高級液状調味料は、展示会で競合会社との差別化を図り、かつPR的製品として試作したものだったが、なんと開催4日間で30本も売れた。

富裕層の多い市場であることも確かだが、そればかりではなく、こだわりのある商品であれば高価でも売れる。鈴木社長は展示販売でそう確信できた。

中東最大の食品見本「Gulfood2014」で展示販売した1本10万円の超高級液状調味料。杉の箱に納めて高級感を醸し出す

ドバイ市場の占有率を高めていく戦略

これを機に同年、グルメストーリーはドバイに支店を開設して高級バーベキューソース、ドレッシングの輸出を始めた。

現地ではサラダを食べる時、塩かオリーブオイルをかけるのが通常で、高級ホテルでさえもサラダドレッシングを供する習慣はまだ少ない。そんな液状調味料の未開拓市場に対してグルメストーリーは富裕層向けの高級液状調味料を輸出した。

グルメストーリーがドバイで販売する高級ドレッシング(左の黒色キャップの商品)。右の超高級品「JAPONE PREMIUM」はバーベキューソースとドレッシングを揃える

さらに今年の「Gulfood2015」では、中間層向けに中価格帯(5-6米ドル)の商品を展示した。

「2014年からドバイへ輸出を開始し、現地で15米ドルの高級品を販売してきましたが、高級品一辺倒ではどうしても限界があります」(鈴木社長)

そのため商品バリエーションを増やし、市場の占有率も高めていこうと中価格帯の液状調味料を今年から輸出する。

「とはいえ、独占的な商品を展開しなければ中東でビジネスするうまみはありません」(鈴木社長)

単に消費者を増やすためだけに中価格帯商品を投入するのではなく、原材料やフレーバー、パッケージにこだわりを持つ商品を現地の消費者に訴求していく。その信念が同社の思い描く独占的商品となっていくようだ。現在は売上の5%が海外輸出だが、近いうちに30%まで引き上げていくと鈴木社長の意気込みは強い。

企業データ

企業名
株式会社グルメストーリー
Webサイト
代表者
鈴木 信輝
所在地
愛知県清須市阿原池之表80番地
事業内容
液状調味料の製造・卸、ハラール食品の取扱い、ほか