中小企業の海外展開入門

「イー・バード」自ら進出し、タイ進出の情報提供にも積極的に取り組む

株式会社イー・バード(以下、イー・バード)はWeb制作会社として国内で展開するかたわら、タイに現地法人を立ち上げ活動を始めている。

イー・バードは現社長の香月聡氏が立ち上げた会社だ。Webサイトの制作から企業のプロモーション企画やツールの作成まで幅広く対応している。今回は、香月社長にタイ進出について話を聞いた。

海外企業のWebサイト制作からスタートした海外進出

「イー・バードは2003年の2月に設立して会社で、もうすぐ丸10年になる会社です。事業内容としてはWebサイトの制作が主軸になりますが、クライアント企業と話をしていると、それ以外に悩みや課題を伺うことも多いのです。Webサイトを制作したい企業は売上を上げたいとか積極的に情報発信をしたいと思っている企業ですから、そのあたりで思うように行かない、と悩んでいることが多いのです。ですので、弊社ではWebサイトの制作だけではなく、セールスプロモーションの企画立案やツール制作まで幅広く展開しています」

海外進出については以前から考えていたと言う。

「まず最初のステップとしては、日本人向けに情報発信をしたい海外企業のニーズを捉えて、日本語Webサイト制作の提案から活動をスタートしました。実績としては、グアム、サイパン、台湾などの現地企業から受注しています」

例えば、グアムでスカイダイビング体験を観光客向けに展開している会社は、日本人をターゲットにしていた。より多くの日本人観光客にアピールするためには日本語Webサイトが必要ですが、その企業はまだ持っていなかった。

「そこで日本語Webサイトの立ち上げを提案したのです。海外の観光業は日本人の心にとまるようなWebサイトがまだ少なく、日本語Webサイトの提案から中国語などの多言語対応Webサイト制作の話になることもあります」

このように、イー・バードは日本に居ながらにして海外のWebサイト制作を受注してきた。特に注力していたのは、上記の通り観光関連の業種だ。その狙いを香月社長はこう語る。

「観光業というのは、Webサイトを制作するとダイレクトに成果が見えやすいのです。Webサイトのオープン後にどれくらい予約が入ったのか、どれくらい売れたのか、といったことが目に見えて効果が現れます。費用対効果もイメージしていただきたやすいのです。1社から受託してそこで成果が上がると、他の企業からも相談が来るようになりました」

タイに現地法人を設立

このようにイー・バードの海外展開は、まずは海外企業のWebサイト制作受託から始まった。そして、昨年の7月にイー・バード・タイランドを設立。海外進出第1号の地にタイを選んだのにはいくつか理由があった。

「まず、既存のクライアントに製造業が多く、それらの企業がタイに進出していた、もしくは進出計画を立てていたことです。また、アジアの中ではデザインにおいてタイには面白いものが多いと感じていました。それから、社員旅行でタイに10年間で3回行っており、タイに親近感を持っていたという理由もあります」

タイで現地法人を立ち上げてからは、クライアントの日系企業から様々な注文を受託している。

「日系企業の親会社とは日本国内で既に取引がありますから、タイの現地法人としては、弊社は話がしやすく仕事が進めやすいとメリットを感じてもらっています」

現在のところ、タイにはWeb制作部門は置いていない。折衝や調整などタイ人の現地メンバーが行い、制作作業は日本国内で行なっている。イー・バード・タイランドが今後さらに成長した時には制作部門を置きたいと考えている。

「そのためには、日系企業との取引だけではなく、タイの現地企業との取引も積極的に取り組むべきだと思っています」

タイに進出している企業の情報発信を支援

「THAI GOOD COMPANY 100」のトップページ

イー・バードは自社のタイ進出だけではなく、タイに進出している企業同士、業種の垣根を超えたつながりを作ろうと模索している。具体的には今年9月1日から「THAI GOOD COMPANY 100」というWebサイトを立ち上げ、タイに進出して活躍している企業の情報発信を始めた。

同時に、香月社長はもう1つの動きにも着目している。それは「営業拠点としてのタイ」というポジションだ。昨年の洪水被害の時にクローズアップされたように「製造拠点としてのタイ」という見方が一般的だ。しかし、そうではない形の動きも出てきていると香月社長は言う。

「例えば、日本の本社を介さずに台湾のメーカーの機械を購入しインドネシアの日系企業に納めるということをタイでやっているのです。つまり、タイが間に入ってアジア各国とのビジネスを広げていく『営業拠点としてのタイ』という動きです」

香月社長としてはこういった動きを見逃さず、製造業だけではなくて各種サービス業を展開している企業もTHAI GOOD COMPANY 100で紹介していきたいと考えている。

海外進出では人材が成功の要

香月社長に海外進出の苦労を聞くと、笑いながら「正直に言うと、苦労と感じたことは全くありません。自分としてはむしろ面白い」と答えた。ただスタッフ全員が初めからそうだったかと言うと「そうでないところがあったとは思います」と語る。スタッフの理解促進は、香月社長自らが積極的に取り組んだ。社員旅行でタイに行ったことも大きなプラスになったと言う。

業容の拡大に合わせて中途採用活動にも力を入れているが、求人広告には海外進出のことを大きく謳っている。そうすると「海外進出に興味を持っていて、自らも日本を飛び出して活躍したいと考えている人が申し込んでくる」のだそうだ。

タイの現地法人にはタイ人1名が常駐しているが、その人材の採用をどのように行ったのだろうか。

「これはTHAI GOOD COMPANY 100にも掲載いただいている日系の人材派遣会社を利用しました。採用したメンバーはタイのシラパコーン大学卒業生です。シラパコーン大学というのは美術系ではタイでトップの国立大学として有名です。採用したメンバーは日本に1年間留学をしていました。ですから日本語は話せますし、日本に対する理解もあります。一緒に働いていくにあたって、日本に対する理解があった方が良いと思います。日本への留学経験がある現地の人を採用するのは、海外拠点の立ち上げにあたって重要だと思いますね」

日本にとって、タイをはじめとしたASEANの重要性は今後ますます高まるだろう。中長期的な視点を持って海外進出に取り組んでいるイー・バード香月社長の話を聞きながら、中堅中小企業がASEANという大きなマーケットにどのようにアプローチするのか考えることは極めて重要だ、と感じた。

企業データ

企業名
株式会社イー・バード
Webサイト
代表者
香月 聡
所在地
東京都渋谷区桜丘町29-17 さくらマンション501
事業内容
インターネットサービス業