2026年 3月 6日

ジンギスカン店のイメージ01

トレンド

再燃するジンギスカン人気と若者層の支持

かつて“北海道の郷土料理”というイメージが強かったジンギスカンだが、2020年代に入り、その存在感は全国的に再評価されている。背景にあるのは「ヘルシー志向」の高まりと「焼肉の多様化」である。ジンギスカンは、羊肉特有の高タンパク・低脂質という栄養バランスが、ダイエット志向の強い若年層や、筋トレ愛好家などに受け入れられている。

また、近年では“臭い”というネガティブな印象を持たれがちだったジンギスカンにおいても、臭みを抑えた国産ラムの普及や、フルーツや味噌を使ったマイルドな自家製ダレの登場により、誰でも食べやすいメニューへと進化している。こうした“ネガティブ要因の払拭”と“おいしさの再発見”が重なり、若者向けメディアやSNSを中心に「焼肉の選択肢としてのジンギスカン」が広まっている。

特に都市部では、ファッショナブルな内装やクラフトビールを取り入れた“おしゃれ焼肉”としてのジンギスカン業態も登場しており、女性のソロ客やカップル層の支持も高い。

(1)一人焼肉文化とジンギスカンの親和性

コロナ禍以降、外食の個食化が進み「一人焼肉」や「一人鍋」などの“ソロ需要”が急増した。その流れを受けて注目されているのが、“一人でも楽しめるジンギスカン”という新たなスタイルである。カウンター席に一人1台のロースターを設置した店や、コンパクトな卓上鍋で提供する業態が増加しており、従来の「みんなで囲む焼肉」から「自分のペースで焼けるソロジンギスカン」へとシフトしている。

このトレンドは、特に都市部のビジネス街や大学周辺など、昼間に一人で外食する層のニーズと合致する。ランチタイムにヘルシーなジンギスカン丼や定食を提供する店舗も増えており、既存の焼肉との差別化ポイントとして“一人でも罪悪感なく食べられるラム肉”という立ち位置を確立しつつある。

(2)技術革新による臭い・煙問題の克服と出店加速

ジンギスカン業態にとって長年の課題であったのが、“煙”と“臭い”の問題である。しかし近年は、無煙ロースターや排煙ダクトの高性能化により、こうしたネガティブ要因が劇的に解消されつつある。焼肉店と同じく、ビルイン店舗や駅近商業施設への出店も可能となり、都市型店舗の出店ハードルが下がったことは、ジンギスカン普及の大きな転機である。

また、冷凍・加熱技術の進化により、羊肉の鮮度を保ったまま広域流通が可能となり、北海道以外の地域でも高品質なラム肉を安定的に供給できる環境が整った。これに伴い、道産ブランドの「サフォーク種」など国産羊肉の需要も高まり、地産地消やご当地焼肉としての戦略も立てやすくなっている。

(3)羊肉料理の多様化と“ネオ・ジンギスカン”の誕生

近年のジンギスカン業態では、単に焼くだけの提供スタイルから進化し、“羊肉を使ったバリエーションメニュー”を積極的に開発する店舗が増えている。たとえば「ジンギスカン丼」や「ラムのスープカレー」、または「ラム串」「ラムしゃぶ」「羊肉まん」など、羊肉の食べ方を拡張するメニュー展開が活発化している。

これにより、客単価の上昇だけでなく、ランチ・ディナー・テイクアウトの複合的な販売チャネルへの対応も可能となった。フードコート型ジンギスカンや、屋台・キッチンカーでの羊肉料理も出現しており、固定観念に縛られない“ネオ・ジンギスカン”業態が注目を集めている。

(4)インバウンド需要と高級ジンギスカンの台頭

訪日外国人が戻りつつある現在、「日本的焼肉体験」のひとつとしてジンギスカンは大きな注目を集めている。特に中華圏や欧米圏では、羊肉が日常的に食べられていることもあり、牛肉よりも“珍しさがない分、安心して注文できる”という評価も高い。

このようなインバウンド層を意識し、英語・中国語対応のメニューや、「羊の部位別食べ比べコース」などを提供する店舗も登場している。中には、ドライエイジング(※1)を施した熟成ラムを提供し、ナチュラルワイン(※2)と組み合わせて一人1万円超の客単価を設定する、高級路線のジンギスカン専門店も現れ始めた。

(※1)温度、湿度などを厳密に管理して、肉を一定期間熟成させる製法。
(※2)有機栽培などで育てられたブドウを使用し、添加物を極力使わずに自然な方法でつくられたワイン。

今後も、従来の“庶民派焼肉”としての位置づけと、“羊肉ガストロノミー”としての新ジャンルが並行して発展していく可能性が高い。このように、ジンギスカンは“地方名物”から“都市型トレンド業態”へと大きく変貌を遂げている。今後も食肉供給・設備技術・消費者ニーズの変化に応じて、さらなる進化を遂げるだろう。

ジンギスカン店のイメージ02

近年のジンギスカン店事情

ジンギスカン業態は、かつて北海道を中心とした郷土料理として一部の地域で親しまれていたが、ここ数年で専門店の出店が都市部でも増加しており、業界内では「差別化が可能な焼肉業態」として注目されている。経営者にとっての大きなメリットは、提供商品が「羊肉」というニッチな領域にあることだ。食肉の選択肢が多様化する中で、牛・豚・鶏と競合せずに独自のポジションを確立できる点は、集客面でも戦略的な武器になる。

一方で、仕入れと設備の面では独特の課題を抱える。まず食材面では、国内でのラム肉生産はまだ限られており、ほとんどの店舗がニュージーランドやオーストラリアからの冷凍輸入肉に依存している。仕入価格の変動や輸送リードタイムの影響を受けやすいため、安定的な供給体制の構築が不可欠だ。また、羊肉には独特の臭みが付き物だったが、近年は「臭みの少ない輸入ラム」などと打ち出すことで、品質面の不安を払拭する店舗も増えている。

こうした仕入れ面の課題があるものの、市場全体では、出店や業態拡大に伴う需要の高まりに応える形で、生産量や輸入量、さらには羊の飼養頭数も緩やかに増えている。

羊肉と国内生産量と輸入量の推移

設備面では、無煙ロースターや排気システムが必須となるため、通常の飲食店よりも初期投資がかさむ傾向がある。特に小規模物件での出店を検討する場合には、ダクト設置や消防法との兼ね合いをクリアするための工事が必要となり、資金計画の段階から慎重な設計が求められる。また、店舗設計においては「煙を抑える」「臭いを外に漏らさない」「効率的なオペレーション動線をつくる」といった点が重要な検討項目になる。

販売面では、ここ数年で「家庭向け・通販向け」の需要を開拓する動きが広がっている。飲食店が食品メーカーや精肉業者と連携し、自社オリジナルのたれ漬け羊肉や冷凍ジンギスカンセットを開発し、店舗ブランドをECに展開するケースも目立つようになった。これにより、単に店舗での集客だけでなく、リピーター獲得やブランド育成にもつながる動きが広がっている。

このように、ジンギスカン店を経営する上では、食材の仕入安定性、設備への投資負担、さらには販売チャネルの多角化といった、独自の業界構造への理解が不可欠となる。消費者ニーズに応えるだけでなく、サプライチェーンと設備の両輪をどう設計するかが、事業の成否を左右するといえる。

開業のステップ

STEP 1:ジンギスカン店のコンセプトを決める
STEP 2:ターゲット層(若年層、観光客、健康志向など)を明確にする
STEP 3:出店エリア(都市部、観光地、繁華街)を選定
STEP 4:物件を探し、賃貸契約を行う
STEP 5:無煙ロースターや排煙設備を含めた厨房設計を実施
STEP 6:羊肉の仕入れルート(国産・輸入)を確保
STEP 7:たれや副菜などのメニューを考案する
STEP 8:保健所・消防などの申請・届出を行う
STEP 9:開業前研修・スタッフ教育を実施
STEP 10:オープン告知(SNS・地元メディア)を行い開業

なお、フランチャイズでの開業の場合は、最初に資料請求や説明会への参加が必要になるものの、その後のプロセスの半分以上は本部主導で進められるケースが多い。

必要なスキル

まず基本となるのが、「羊肉の取り扱いに関する知識」である。ジンギスカンに使われる羊肉は、部位ごとに味や食感が異なるため、それぞれの特性を理解し、適切なカットや火入れを行う技術が必要となる。特に“臭みを出さずに柔らかく焼き上げる”には、肉の厚み、たれ漬けの時間、焼き方の指導など、現場での繊細な調整が求められる。調理師免許は必須ではないが、羊肉の扱いに関する基礎講座や専門セミナーの受講は、有益なスキル習得手段である。

次に重要なのが、「衛生管理と設備対応スキル」である。ジンギスカンは焼き物業態であり、煙・油・臭いが多く発生するため、無煙ロースターや排煙ダクトの取り扱い、安全管理、メンテナンスに関する知識が求められる。これは設備業者任せにせず、店舗スタッフが基本的な構造やトラブル対応を理解しておくことで、日々の運営に支障を来さずに済む。特に狭小物件やビルイン物件で出店する場合は、消防法や建築基準法を遵守しながら計画を立てる必要がある。

さらに「接客力と提案力」も重要な要素である。ジンギスカンは一般的な焼肉に比べてまだなじみのない客も多く、部位の説明や焼き方の案内、たれの使い分け、野菜の焼き順など、丁寧なサービスが満足度に直結する。また、インバウンド対応を視野に入れる場合は、英語や中国語などの外国語表記メニューの準備、接客フレーズの習得も有効である。

店舗の立ち上げや日常運営を支える上では、「仕入れ先との交渉力・目利き力」も重要になる。特に羊肉は取扱量が少なく、同じ品種・産地でも品質にばらつきがあるため、信頼できる卸業者との関係性構築が成功の鍵となる。また、国産羊肉を扱う場合は、生産者との連携を通じて、生産背景や飼育方法、生産者の思いといった付加価値を含めて食材を伝えることが、差別化につながる。

ジンギスカン店のイメージ03

必要な資格

ジンギスカン店を開業するにあたっては、まず「食品衛生責任者」の資格を取得する必要がある。これはすべての飲食店営業において店舗ごとに1名の配置が義務付けられており、各都道府県の保健所が実施する1日の講習を受講することで取得可能である。

また、営業開始前には保健所に「飲食店営業許可」の申請を行い、厨房設備や衛生基準が適合していることを確認しなければならない。ジンギスカン業態においては、店内で炭火やロースターを用いて調理を行うケースが多く、火気設備の設置に際しては消防法に基づく「防火管理者の選任」や、地域によっては「火気使用設備等の届出」が必要となることもある。

さらに、羊肉をメインに扱うことから、仕入れや保管、調理において特有の衛生管理が求められる。これに対応するため、食肉処理やHACCP(※3)に関連する民間の衛生講習やセミナーを受講し、より高度な衛生知識と管理体制を構築しておくことが望ましい。

(※3)ハサップ。食品製造や調理の工程で、食中毒菌汚染などの「危害要因(ハザード)」を分析し、除去または低減させるために特に重要な工程を管理する衛生管理手法。

開業資金と運転資金の例

ジンギスカン店は無煙ロースターや排気設備に費用がかかるため、開業資金は他の焼肉業態よりもやや高めとなる。以下の前提で開業する場合の開業資金と運転資金の一例を示す。

(前提条件)
東京都23区内、主要駅より徒歩8分/13坪・24席のジンギスカン専門店/家賃月額330,000円(税別)/月間営業日数30日

開業資金と運転資金の例

なお、フランチャイズでの出店の場合は、本部との契約料や研修費用などが加算され、2,000万円以上の費用が必要となる場合もある。また内装やレイアウトに関しても、本部の指示を仰ぎ指定通りの施工をすることになる。

売上計画と損益イメージ

ジンギスカン店は羊の肉という特化した食材を使うことにより、客単価も高く設定しやすい。また、ほとんどの商品をセルフで調理してもらう状態であることから、人件費比率も高くはなく、損益分岐点を上回れば利益率を高くキープすることが可能な業態でもある。なお、フランチャイズでの出店の場合は、月々のロイヤリティをはじめ食材や備品などのマージンの上乗せがあり、それぞれの経費が割高になることを覚えておきたい。

以下に、前項の前提条件に基づいた売上計画と損益イメージの一例を示す。営業日数は月30日として概算している。

売上計画と収益イメージ

補助金・助成金

ジンギスカン店の開業には、複数の公的支援制度を活用することができる。最も使いやすいのが「小規模事業者持続化補助金」で、チラシ・ホームページ・看板設置などの販促費に対し補助される。次に「デジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金)」では、POSレジや予約管理システム、キャッシュレス決済端末などの導入費用が支援対象となる。

さらに各都道府県や市区町村では、創業者向けの補助金・助成金制度を設けているケースが多く、空き店舗の活用や創業準備費用を補助する独自の支援策が用意されている場合もある。これらの制度は申請期間や要件が年ごとに見直されるため、開業準備と並行して商工会議所や自治体の創業支援窓口を活用し、最新情報を確認することが重要である。

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)