業種別開業ガイド

古本屋

2024年 11月 20日

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トレンド

不要になった本を買い取り、次の読み手に販売する古本屋は、循環型社会形成に寄与する業種だ。新型コロナウイルス感染症拡大により在宅時間が増え、家を片付ける人が急増した。不用品として蔵書を処分した人も多く、これまで眠っていた本が市場に出回るようになった。

民間の調査によると、SDGs(持続可能な開発目標)やサステナビリティ(持続可能性)について全ての年代で認知率5割、知名率8割を超えたという。サステナブルな購買行動は、リユース市場規模拡大に反映されている。環境省がまとめたデータによると、2009年は1兆1,274億円だったリユース市場規模は、2022年には2兆8,976億円となり、2025年には3兆2,500億円に達すると予測されている。順調に伸びる市場で、中古品の購入意向が最も多い品目は「書籍」だった。

品目別の中古品・リユース品の購入意向

古本屋は店舗ごとに特色があり、品ぞろえもさまざまだ。絶版本や希少本が出回ることもあり、宝探しのような楽しみがある。しかしコロナ禍には、古本市や古書街、実店舗に出掛ける機会が減少し、オンラインで古本を購入する人が増加した。

東京都古書籍商業協同組合が運営する古書店サイト「日本の古本屋」は、かねてより進めていたサイトの改修とコロナ禍の巣ごもり需要が追い風となり、年々成長を続けている。これまで目録にはなかった商品画像や店舗情報を掲載し、ネット広告やSEO対策に力を入れ、アクセス数が徐々に増加した。2019年は約110万、2020年は約173万、2021年は約272万までアクセス数が伸び、月間受注金額は2020年12月に3億円を超えた。

「日本の古本屋」は主に、1947年に創立された全国古書店の統合組織である全国古書籍商組合連合会傘下(2,300余店加盟)の古書店が参加している。「目利きのプロ」として、室町期やそれ以前の写本、江戸期の巻物、版本、戦前戦後の資料、海外の書物といった貴重な古書を、強みを生かして積極的に収集、商品化しサイトのデータベースに反映している。

海外の大学図書館や、日本文化を研究している学者から、和本や日本の古典の注文が入るケースも出ているという。古本屋は、希少価値のある古本や古書の廃棄を阻止し、プロだからこそ分かる価値を見出し、古本に再度命を吹き込む役割がある。

近年では、新しいサービスを展開する古本屋が登場している。古本として出回る本は、それだけ商品価値が高いと考え、古本が売れたら出版元に利益の一部を還元する仕組みを作った。二次流通の利益を還元することで、出版社にはさらに読み継がれる本を作ってほしいという理念のもとに生まれた。このような古本屋の取り組みが、持続可能な循環型社会の実現に貢献している。

近年の古本屋事情

古本屋の商品の仕入れには、一般個人からの買い取りやインターネットオークション、古書市場で入札する方法などがある。多くの古本屋は各都道府県の古書組合に加入して、組合員向けに開かれる市場(交換会)に参加している。店により得意ジャンルが異なるため、それぞれ専門外や価値が判断できない本を売りに出す。交換会では本の価値に見合った適正価格で値段が付けられ、売買が行われる。また、同業者間の貴重な情報交流の場ともなっている。

インターネットの普及によりフリマアプリが個人ユーザーに活用されるようになり、古本屋への影響が懸念されるが、実際には書籍の購入先として1割弱は実店舗を持つ新古書店や古本屋が選ばれている。特定非営利活動法人ブックストア・ソリューション・ジャパンが2023年に行った調査によると、書籍を購入する手段(場所)について、「ブックオフや古本市場などの新古書店」と「古書店」の合計で8.8%を占めていた。

「まちの本屋さんのいま」アンケート調査報告

同調査では、実店舗へ行く34.4%の人が「実際に店舗で実物を見て購入したい」と回答している。検索型のインターネット通販では味わえない本を探す楽しみや、思いがけない本と出会う喜びが実店舗にはあるだろう。

世界最大級の古書店街といわれる東京・神田神保町の公式サイトでは、実際の店舗を360度カメラで撮影した「バーチャル神保町散歩」で古本屋巡りが楽しめる。気軽に入りづらい店も、仮想空間では自由に店内に入り、店の様子や本棚に並ぶ品ぞろえを見ることができる。古本屋で感じるワクワク感を疑似体験でき、実際に店に行って本を開きたいと思わせる取り組みだ。

近年では、「シェアオーナー型」の古本屋が登場している。本棚ごとにオーナー(棚主)が異なり、棚主が自由に売る本を選んで陳列できる。単行本や雑誌、ZINE(自主制作の出版物)など、店内には個性豊かな本が並び、小さな古書店街のような空間が広がる。

個人経営店では、店主のこだわりを形にした店舗が多い。カフェやギャラリーを併設した古本屋や、全国を巡る古本の移動販売車など、新しい業態で展開する店も現れている。店内のインテリアや音楽、個性的な品ぞろえから店主の世界観が伝わり、ファン化につながっている。また消費者のニーズを捉えて、古本の買取専門店や、古本を販売する新刊書店、24時間無人営業の古本屋も出てきている。

一方、大手フランチャイズ店は品ぞろえの豊富さが強みだ。書籍やコミックのほかに、ゲームソフトやトレーディングカードなどカテゴリーを広げている。実店舗と連動したオンラインショップや会員ポイント制を導入し、買取金額アップキャンペーンやカードゲーム大会といったイベントを開催してリピート率向上を図っている。

古本屋の仕事

古本屋の仕事は、主に「仕入れ」「販売、発送」「店舗管理」「集客」に分けられる。それぞれの具体的な仕事は以下の通り。

  • 仕入れ:主に3つのルートによる仕入れ
    • 一般個人から買い取り:店頭買い取り、宅配買い取り、出張買い取り
    • 古書市場(交換会)で入札:都道府県ごとの古書組合に加入して参加
    • せどり:古本屋やインターネットオークションで購入
  • 販売、発送:実店舗やインターネット上での販売、発送
  • 店舗管理:在庫管理、売上管理、シフト管理、商品陳列、清掃など
  • 集客:イベントの企画・運営、SNS配信、サイト更新など
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古本屋の人気理由と課題

人気理由

  1. 業態を工夫して初期投資を抑えながら開業できる
  2. 自身の得意分野の知識を生かせる
  3. 実店舗を持たなくても開業できる

課題

  1. 新規参入者が多いため、他店にはない強みが求められる
  2. 専門書を扱う場合は、本に関する深い知識が必要である
  3. 価格の変化を見極め、自分なりの相場観を持つ必要がある

開業のステップ

ここでは、「個人事業型」と「フランチャイズ型」の例を紹介する。それぞれの開業ステップは、以下の通り。

開業のステップ

古本屋に役立つ資格や許可

古本屋を開業するためには、以下の許可が必要になる。

古物商(必須)

古本を販売する場合、古物商の許可は必須となる。店舗所在地を管轄する警察署で手続きを行う。古物商許可申請書に必要書類を添えて、申請手数料19,000円とともに提出する。さらに、インターネットで古本を販売する場合には、店のURLを届け出る必要がある(URLの使用権限を疎明する資料も必要)。詳しくは、警視庁のサイトを確認すると良い。申請してから許可交付まで1カ月以上かかることがあるため、スケジュールには注意したい。

また、カフェを併設する場合には、古物商の許可とあわせて以下の資格や許可が必要となる。

食品衛生責任者(カフェ併設の場合必須)

飲食を提供する場合、食品衛生責任者を各店舗に1名以上配置することが義務付けられている。資格の取得には、保健所が行っている食品衛生責任者養成講習を受講する必要がある。講習会では、衛生法規や公衆衛生学などの講習を6時間ほど受けるほか、受講料として1万円前後が必要になる。栄養士や調理師の資格を取得していれば講習受講は免除される。

飲食店営業許可(カフェ併設の場合必須)、菓子製造許可(場合によっては必須)

飲食スペースを設ける場合は、店舗所在地を管轄する保健所へ営業許可申請を行い、審査に通らなければならない。また、パンや菓子などを製造し販売するときは、菓子製造許可の取得が必要である。営業する店舗の規模や形態により必要な手続きや書類が異なるため、事前に保健所に相談しておくと良い。

開業資金と運転資金の例

古本屋は、小規模な個人事業型と、より規模の大きいフランチャイズ型に分けられる。古本屋の開業にあたっては、次のような資金が必要である。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 内外装工事費:内装工事・看板設置など
  • 設備・備品費:本棚、パソコン、インターネット回線開設費用など
  • 広告宣伝費(求人費含む):ホームページ制作費、SNS広告、チラシ印刷など
  • 仕入れ:古書組合加入費、商品買取代金など

※フランチャイズの場合には、別途加盟金や保証金、研修費がかかる
※業態により、初期費用や運営費は大きく異なる

以下、開業資金と運転資金の例をまとめた(参考)。

開業資金例
運転資金例

日本政策金融公庫では、新規創業やスタートアップを支援する「新規開業資金」の貸付制度を用意している。新たに事業を始める人に通常より有利な貸付条件になっているため、確認してみると良い。また、小規模事業者を対象とした商工会議所の「小規模事業者持続化補助金」なども利用可能である。

売上計画と損益イメージ

古本屋を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

<個人事業型の例>
インテリアにもなるようなおしゃれな冊子や文房具、雑貨を販売
営業時間:11:00~20:00
月間営業日数:26日
平均客単価:約1,000円
1日の客数:40人
1日の売上:約40,000円

<フランチャイズ型の例>
書籍、コミック、ゲームソフト、トレーディングカードを販売
営業時間:11:00~20:00
月間営業日数:30日
平均客単価:約1,000円
1日の客数:135人
1日の売上:約135,000円

売上計画

年間の収入から支出を引いた損益は下記のようになる。

損益イメージ

フランチャイズ型での開業は、店舗デザインや価格相場情報の提供など、さまざまな支援を受けられるメリットがある。古本屋経営のノウハウを享受しながら店舗運営できる。さらに、ブランドの集客力は経営上の大きな強みになるだろう。

一方、個人事業型は、自身の得意分野に関する知識やセンスを店舗運営に反映できる点が大きな特徴だ。独自の店づくりは、コアなファンの獲得につながる。

いずれの場合も、仕入れの手腕が鍵を握る。古本の価値を見出せる審美眼を磨き続け、自身の理想の店づくりを実現していきたい。

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※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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