業種別開業ガイド
PR代行業
2025年 9月 12日

トレンド
PR代行業の「PR」とは、「Public Relations(パブリック・リレーションズ)」の頭文字を取ったもので、直訳すると「公衆との関係」になる。組織や個人が展開する活動の趣旨、社会性、将来像などを広く世間に知ってもらい、「ステークホルダーとの相互関係性の向上」を目指す概念だ。このPR業務を企業や個人事業主などから請け負うのが、PR代行業という業態である。
そもそも、PRは20世紀初頭のアメリカで生まれた概念で、日本には戦後に広く普及した。テレビの誕生やインターネットの普及、スマートフォンやアプリの登場など、メディアの進化とともに重要性が高まり、その種類も多様化している。現在主流になっている業務には以下のようなものがある。
- メディア・リレーションズ:PRや宣伝をメディアに報道してもらい、認知度やイメージの向上につなげる。
- インベスター・リレーションズ:投資家や株主を対象としたプロモーションを行い、投資先としてのメリットを認識してもらう。
- エンプロイー・リレーションズ:企業や団体の成長を促進するために、自社の従業員やパートナーに向けて社内の取り組みなどのプロモーションを行う。
- コミュニティ・リレーションズ:企業価値を高めるため、地域社会にプロモーションを行う。大企業や地域に根差した企業からのニーズが増えている。
特に近年においては、危機管理、CSR(企業の社会的責任)、ESG(環境・社会・ガバナンス)などの観点が重視されているため、PRの重要性は以前にも増して高まっている。その傾向は市場規模の拡大からも見て取ることができる。
PR業を営む企業数や、業界の市場規模を示す公的な統計は見当たらない。ひとつの参考資料として、下のグラフは公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会が、主に協会員を対象に隔年で行う調査から算出した数値である。2025年の数値を見ると、PRや広報を主たる業務とする専業社は209社で、売り上げ規模は1,391億円となっている。いずれの数値も、前回調査の2023年からはやや減少しているものの、コロナ禍より前の水準を上回っており、長期的に見ると右肩上がりの傾向にある。

1,391億円という売り上げ規模からすると、それほど大きな市場に思えないかもしれないが、これは専業社のみの数値である。PRや広報を事業のひとつとして行う兼業的な企業や、個人でPR業を請け負うフリーランスなどの売り上げを含めると、実際の市場規模はさらに大きいものと推測される。
近年のPR代行業事情
顧客がPR代行業者に求めることは、幅広いステークホルダーへの効果的なPRである。そのため、ターゲットを絞ることで得意分野の知識や技術を生かせる広告業とは異なり、PR代行業者には幅広い知識や技術が求められる。近年、PR代行業における顕著な傾向をまとめると、以下のようになる。
デジタル化とSNS活用の進化
近年、デジタルプラットフォームとSNSの利用が急拡大しており、それらを駆使したキャンペーンの実施やインフルエンサーとの連携が重要になっている。
ESGやSDGsへの注目
企業の社会的責任が求められる時代となり、PRにおいてもESG(環境、社会、ガバナンス(企業統治))やSDGsに関する取り組みを広報する案件が増加している。
コンテンツマーケティングの需要拡大
公式サイトの活用やオウンドメディアの運営を通して、企業自らが情報発信を行うことが一般的になっている。コンテンツ制作をサポートする業務の需要は高い。
小規模事業者向けサービスの拡大
以前は主に大企業を対象としていたPRの業務だが、現在は中小事業者にもその裾野は広がっている。コストを抑えつつ、効果的なプロモーションを実現するスキルが求められている。
危機管理広報の強化
不祥事やトラブルに対して迅速に対応する「リスクコミュニケーション」の需要が高まっている。問題の早期収拾を目指したプレスリリースや声明作成は専門性が高いため、この分野を得意とするPR代行業者に注目が集まっている。
AIやデータ分析の活用
ターゲット分析やパフォーマンス測定にAIを活用する事例が増えている。PR戦略の精度向上や効率的なアプローチ手法の確立が進みつつある。
PR代行業の仕事
PR代行業の仕事は、顧客の目標達成をサポートするために、戦略設計から運営や制作などの実務まで幅広い役割を担う。そのため、さまざまな分野における専門性と柔軟な対応力が求められる。また、PRの成否が企業や団体のブランディングに直結するため、PR代行業者にはバランス感覚や反響の予測能力も必要になる。
近年はSNSなどを介して、これまでにない勢いで情報が拡散される時代になっている。そのため、PR請負先において不祥事などが起きた際にも、早急かつ的確な対応が望まれる。ダメージを最小限に抑えないと、それまでに築き上げてきたブランド価値が大きく損なわれてしまうからだ。プレスリリースを出し、公式ウェブサイトやメディアに声明を掲載し、場合によっては記者会見を行うなど、その対応は多岐にわたる。また、そのような事態が起こらないように(新規、再発ともに)リスクマネジメントのスキルも求められている。SNS利用ルールの見直しやコンプライアンス体制の強化、定期的な研修会の開催など、顧客にとって最適な解決法を提案・実施するのもPR代行業の重要な業務になっている。
市場および競合のリサーチ
PR業務の第一歩は、ターゲット市場と競合の動向を詳細に調査して把握すること。顧客層の特性や競合企業の成功事例を分析することで、的確な広報戦略を立案する。
情報戦略の構築
顧客の目標を達成に導くための戦略を設計。ブランドのコアメッセージを明確化し、発信チャネルごとに的確なアプローチ手法を決定する。
プレスリリースの作成と配信
新商品やサービスの発表に向けたプレスリリースを作成する。希望するメディアへの掲載を実現し、効果的な情報発信を目指す。
メディアキャラバンの実施
メディア関係者との面会を通じて、企業や商品の魅力を直接アピールする。顧客の属性や行動に基づいたストーリーテリング(物語を使って情報を伝え、聞き手の理解や共感を深める手法)が、成功への鍵となる。
記者発表会や懇談会の開催
広報活動の重要なイベントとして、記者発表会の企画や運営を行う。質の高いプレゼンテーションや資料提供でメディアの注目を引きつける。
PRイベントの企画と実施
新商品やサービスのプロモーションイベントを実施し、企業のブランド価値を効果的に伝える。ターゲット層に直接訴求できる場のため、特に重要な業務。
コンテンツ制作とクリッピング
記事やブログ投稿、SNS投稿などのコンテンツを設計する。制作は外注するケースもある。自社および他社の情報、トレンド情報などのクリッピング(記事を収集し、切り抜き、記録・保管すること)も大切な業務。
危機管理広報
事故や不祥事、製品のリコール、サイバー攻撃、経営上の問題などが発生したときの早急な対応やリスクマネジメントを実施する。プレスリリースや記者会見を通じてダメージを最小限に抑え、信頼回復に努める。
タレントのキャスティング
広報活動において効果的な人物を選定し、PRイベントやキャンペーンに起用。タレントやインフルエンサーとの協力は、影響力を高めるための重要な要素になる。
参考までに、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会が公表する調査結果から、現在の業務内容と今後の見通しについて回答者率が高かった業務を掲載する。


PR代行業の人気理由と課題
PR代行業は、企業や団体の活動を世の中に伝えるという、非常にやりがいにあふれた業種だ。取り扱う情報は企業や団体のブランディングに直結し、実践する技術は多岐にわたる。市場も大きく、将来的な成長を見込める魅力的な業種であることは確かだが、同時に競争の激化や収益構造の不安定さなど、克服すべき課題も存在している。PR代行業の人気の理由と、開業前に把握すべき現実的な課題について掘り下げる。
人気理由
- 参入のしやすさ:PR代行業は比較的少ない初期投資で始められることが魅力。デスクや書棚、パソコン、ソフトウェアなどの基本的な設備だけで開業が可能。
- 幅広い市場と収益拡大の可能性:中小企業から大企業まで、幅広いクライアント層を対象にサービスを提供できる。中小企業の新規顧客が増えており、さらに市場が拡大する可能性が高い。
- サービス展開の幅広さ:プレスリリースやイベント企画、SNS運用など、業務内容が幅広いため、自らの得意分野を生かせる可能性が高い。
- デジタル化による需要の拡大:SNSやオンラインメディアを活用したPRの需要が急拡大している。これら新技術を用いる案件の需要は、今後も拡大が続くと予想されている。
- プロフェッショナルとしての達成感:企業や団体のブランド価値を高める役割を担い、成果が出るほど自身の存在価値を実感できる。
- 継続案件の多さや単価の高さ:広告業種の案件に比べ、単価や継続性が高い業務が多い。企業の存在価値向上という責務は大きいが、それに見合う報酬を受け取ることができる。
課題
- 市場競争の激化:参入障壁が低いため、新規開業者が増加している。そのため、得意分野を持ち、世間に自らのスキルを明確に認知させる必要がある。
- 継続的な学びの必要性:デジタルツールやAIを活用したPRのニーズは非常に高い。特に最先端技術は日進月歩のため、常に学び続ける姿勢が必要になる。
- 顧客とのコミュニケーション:クライアントごとに異なる背景やニーズを理解し、効果的な戦略を個別に提案するために、高いコミュニケーション能力が求められる。
- 短期スパンでの成果が見えづらい:企業や団体の存在意義は中長期で向上していくもの。一部の案件を除くと、短期間での成果は数値化しづらく、自らの存在意義をすぐに可視化することが難しい。
- 不安定な収益構造:初期段階では顧客数が少なく、契約期間が短いケースも多い。安定した収益を得られるまでの期間が長くなると、持続的な経営が難しくなる。
- 安定的な外注先の確保:近年、需要が高まっている動画作成などは専門性が高いため、外部業者に委託するケースが多い。そのため、自社や顧客の意図をしっかりくみ取ってくれるパートナーを確保する必要がある。

開業のステップ
PR代行業を開業するためには、まず自社が得意とする業界やサービスを把握する必要がある。そこからターゲット企業や業界について深く知り、戦略の策定を行うことで収益モデルを立案できる。以下に、開業までの主なステップをまとめた。
STEP1:ビジネスモデルの明確化
ターゲット層や業界ニーズを分析し、提供する具体的なサービス内容を決定する。特に個人で開業する場合は、最初からすべてのジャンルに対応できることは少なく、自らの競争優位性を生かした戦略が必要になる。
STEP2:サービス料金の決定
サービス内容と契約形態に応じた料金メニューを作成する。合わせて、中長期の契約につなげるためのロードマップも検討する。
STEP3:事業計画書と資金計画の作成
策定したビジネスモデルから資金計画と運転資金を計算し、事業計画書を作成する。特に収益モデルの精度はビジネスの持続性を大きく左右するため、入念に計画する。
STEP4:開業場所の決定と設備の導入
自社が得意とする業界やサービス、あるいは見込めるクライアントのオフィスなどから、開業場所を決定する。事務所の賃貸契約を結び、必要となるパソコンや机など設備の導入を行う。
STEP5:事業の設立準備
個人事業主登録や法人設立を行い、開業に向けた作業を行う。その他、事業用銀行口座の開設や事務所の契約、事務所運営に必要な各種契約を行う。
STEP6:ウェブサイトやSNSの開設
PR代行業は何よりもまず信頼が大切になるため、自らの実績や方針を示したウェブサイトを開設しておくことが望ましい。加えてSNSの運用も開始する。
STEP7:営業活動とクライアント獲得
これらの準備が整った後は、開業までに実績の発信やキャンペーンの告知を行い、初期から有力なクライアントの獲得を目指す。
STEP8:開業
開業準備が整ったら、正式にサービスの提供を開始。定期的に業務の成果を振り返り、サービス内容の調整をしながら改善を図る。
PR代行業に役立つ資格
PR代行業を開業するにあたり、必須の資格はない。これまでの実績が重視される業種ではあるものの、実績だけでは顧客の信頼を完全に勝ち取れないこともある。そのため、PR代行業の業務内容に直結する資格を自ら取得することは、信頼性を高めるための有力な施策のひとつとなる。
PRプランナー:広報や危機管理、ブランド戦略など、PR業務に必要な基礎知識と実践スキルが身に付いていることを証明できる。
広報スペシャリスト検定:3級の基礎の理解から始まり、2級の「プレスリリース作成」「メディアへのアプローチ」、1級の「PRネタの選定」「取材調整」など、段階を追うごとに広報担当者としての総合力を証明できる資格。
ウェブ解析士:データ分析やSEOの高いスキルを持つため、デジタルPR戦略の強化施策を立案し、運用できることを証明できる。
マーケティング検定:マーケティング戦略や顧客分析に関する知識が深いことを証明できる。効率的かつ効果的なPR施策の立案ができる人材の証明となる。
IRプランナー:投資家向け情報のIRに特化した資格。企業価値を正しく伝えるためには、財務データを理解し、投資家と的確なコミュニケーションを取る必要がある。そのスキルを証明できる資格。
開業資金と運転資金の例
PR代行業の開業は、一般的には賃貸事務所からスタートする。開業時の事業規模は千差万別だが、サンプルとしてPR代行業務を行う開業者が1名とアシスタントスタッフ(アルバイト契約)が1名のケース、PR代行業務を行なう者が3名とアシスタントスタッフが1名のケースの2パターンを想定した。事務所の場所は双方ともに主要地方都市の駅前賃貸オフィスと仮定している。それぞれの開業資金と運転資金の目安を示す。


売上計画と損益イメージ
PR代行業の収益は、戦略設計から運営にまで携わる長期契約(定期支払い)と、イベント計画や不祥事対応などの案件契約(納品後支払い)から成り立つ。長期契約の中にイベント計画や不祥事対応も含まれるケースが多いため、案件契約はそれほど多くは発生しない。
また、サービス料金については、内容や実施期間によって単価が大きく異なる。それぞれの案件の料金は、一般的に以下のような価格帯が想定される。
- 基本的なPR戦略の設計やプレスリリース作成:(月額)10万~20万円
- コンテンツマーケティングやオウンドメディアの設計とコンテンツ作成:(月額)30万~50万円
- SNS運用代行やデジタルキャンペーンの企画:(月額)10万~50万円
- 危機管理広報や包括的なPRプランニング:(月額)50万円以上
ここでは、月額10万~30万円未満を小型案件、30万〜50万円未満を中型案件、月額50万円以上を大型案件(単価70万円と想定)と定義し、長期契約も案件契約も月払いに換算して試算する。

月間の収入から支出(上記運転資金例)を差し引いた損益は下記のようになる。

短期的な目線で売上を高めるためには、コンテンツ制作などもすべて請け負うべきだが、その対応が正しいかを判断する必要がある。場合によっては、顧客側で内製化していくためのプランニングが必要になるケースもある。安定的な収益を獲得し続けるためには、真に顧客を応援し、未来を見通す力が必要になる。
補助金・助成金
PR代行業は高い信頼が必要な事業のため、開業に際しては他の業種よりもしっかりとした事業基盤を築く必要がある。たとえば、事務所は交通の便が良い場所に構え、スマートな印象の内装が一般的だ。また、ウェブサイトやパンフレットなどの事業紹介ツールも、質が低いものは好ましくない。そのため、開業準備には思ったよりも資金が必要になる。
安全な経営を目指すならば、開業資金に加えて、事業の収益が安定するまでの目安として6か月程度の運転資金を確保することが望ましい。前出のケースでいえば、賃貸オフィス(2名)の場合は約855万円、賃貸オフィス(4名)の場合は約1,730万円となる。もちろん、これだけの金額を準備することは困難なため、デジタル機器の導入を支援する「IT導入補助金」や、幅広い適用項目で創業時に活用できる「小規模事業者持続化補助金<創業型>」のような補助金や助成金を活用することを推奨する。
創業者向けの補助金や給付金:都道府県や市区町村単位で展開されていることが多い。一括で大きな金額を支援してくれるものは少なくなっているが、設立時の諸費用や経費に関する助成金が存在するため、開業地の行政のホームページは確認した方が良い。

PRや広報の業務は100年以上の歴史がある。PRに携わる者たちは、常に時流を読みながら経営者たちと接し、その実現のために最先端のツールを使いこなしてきた。しかも、顧客によって行う業務は千差万別である。そのような環境から、凝り固まった業界慣習などはほとんどなく、新規開業者も参入しやすい環境だ。難しいのは、自らの得意分野や性格と相性が良い企業と出会えるかということ。膨大な数の企業が見込み顧客とも言えるが、同時にその見込み顧客から自身を見つけてもらうことは困難を伴う。そこで必要になるのが自らのPRである。まずは十分な準備をしっかり行うことが、独立開業のスタート地点となる。
PR代行業における成功は数値を用いて表されることもあるが、真の成功は顧客との強い信頼関係の構築にある。長期的な視野でPR代行業の事業を運営していくことで、他の職種では得られない達成感や充実感を得られるだろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)