業種別開業ガイド
SNS運用代行業
2025年 7月 9日

トレンド
企業のマーケティングにおいて、SNSが欠かせないものになり始めたのは2010年代のこと。それまでにもSNSは存在したが、主にパソコンのブラウザで閲覧するものだった。しかし、スマートフォンが登場し、通信回線の高速化が実現すると状況は一変した。画像や動画を手軽に楽しめるさまざまなインターネットサービスやアプリが誕生し、人々の日常生活に浸透していった。企業も商品のPRの場を、それまでのメディアから徐々にインターネットへとシフトし、コロナ禍でその動きがさらに加速。行動制限によりインターネットの利活用が進み、ついには最も広告費が流入するメディアに成長した。

それでは、SNSの利用者数はどのように変化してきたのだろうか。総務省が発行する「令和6年版 情報通信白書」によると、すでに国内でのSNS利用者はのべ1億人を超えたという。国民の多くが使用するものに定着した今、広告効果やマーケティング戦略、ブランディング戦略を重視する企業の多くはSNSを活用している。その業務をサポートするのがSNS運用代行業だ。

SNSは非常に種類が多く、テキスト、画像、動画など掲載するコンテンツが異なるため、それぞれの特性や利用者層が大きく異なる。ここでは、代表的なSNSとその特徴について整理する。使用するSNSをひとつに絞らずに、ターゲットを切り分けて複数を併用するケースも多い。
- Instagram:写真、イラスト、動画の投稿が主体。テキストは最重要ではなく、文字よりもビジュアルが重視される。継続的に成果を出し続けるためには、アイデア、導線設計、デザイン性が重要になり、何よりも継続して反響を得る企画力が求められる。企業のブランドイメージに直結することも大きな特徴。
- X(旧Twitter):リアルタイムの情報共有とコミュニケーションが強みのSNS。他者の投稿を拡散するリポストの機能があるため、短期間で一気に情報が広がる可能性を秘めている。一方でネガティブな情報も広がりやすいため、反響を予測するリテラシー(能力)が必要になる。近年では長文の投稿が可能になり、閲覧者を引きつける仕掛けや文章力がさらに求められている。
- YouTube:情報の拡散だけではなく、動画の閲覧量によって収益を直接生むことが魅力。ただし、動画の制作にはアイデア、台本作成、キャストの手配、動画の撮影および編集、機材の維持管理など、非常にコストがかかる。また、企画がマンネリ化しやすく工数が多いため、安定した運用を継続する難度は高い。しかし、成功すれば他社との大きな差別化や収益アップにつながりやすい。
- TikTok:短い動画の投稿機能に特化したSNS。同様の短尺動画はInstagramやYouTubeにもあるが、TikTokの最大の特徴は、閲覧者の年齢が若いこと。そのため、若者向けの製品やサービスを持つ企業、若者を採用したい企業などが積極的に利用している。TikTokにはファッションや趣味など娯楽性が高い動画が多いため、効果を得るためには人の興味を強く引く企画が重要になる。
- LINE:顧客に一対一で直接アプローチできることが魅力のメッセージサービス。日本国内の利用率は驚異の83.7%で、10~60代の8~9割以上が利用する手軽な連絡手段として日常生活に浸透している(NTTドコモ モバイル社会研究所、2023年1月調べ)。継続的に商品やサービスの周知とキャンペーン告知を行えるが、適切な文章の作成や送信するタイミングの難しさ、他のSNSとは違い他社の動向が見えづらいことなど、LINE独自の運用方法を理解する必要がある。
- その他:日本人が対象のnoteやLステップ、海外を対象としたWhatsApp、WeChat(微信)、LinkedInなど、多種多様なSNSを目的に応じて選択することが望ましい。
近年のSNS運用の動向および代行業事情
SNSはすでに、企業のブランド構築に欠かせないツールとなっている。そのため、運用を効率的かつ効果的に行いたい企業は増加し続けており、その動きに比例してSNS運用代行業者も増え続けてきた。市場の拡大と運用手法の多様化が進み、参入業者数が多いことが現在の状況と言えるだろう。
SNS利用者の増加と多様化
総務省の調査によると、SNSの利用者数は2028年に1億1,360万人に到達すると予測されている。SNS黎明期とは違い、現在は若年層だけではなく全年齢層に浸透しつつある。
動画コンテンツの台頭
TikTokやInstagramリールの普及により、短尺動画の活用がSNS運用の中心になりつつある。そのため、ストーリー性のあるシリーズ展開、アンケートやクイズなどの参加型コンテンツを制作する傾向が強まっており、その動向は加速している。
ライブコマースの成長
SNSを活用したライブ販売が拡大し、EC事業者のSNS運用ニーズが高まっている。特に、リアルタイムで商品を紹介し、視聴者と直接コミュニケーションを取る手法が、購買意欲を高める要因になっている。
AI・自動化ツールの活用
AIを活用した投稿管理や分析ツールが登場し、SNS運用の効率化が進んでいる。特に、ターゲット分析、投稿の最適化、チャットボットによる顧客対応などが、SNS運用の質を向上させている。
インフルエンサーとの連携
一部の企業では、SNSの影響力を効率的に向上させるべく、インフルエンサーとの提携を強化している。
SNS広告の進化
細分化した市場から自社に合う市場を選ぶターゲティングの精度向上により、SNS広告はさらに効果的なマーケティング手法となっている。特に、リターゲティング広告やAIによる広告最適化が、広告運用の成果を高める要因に。
専門特化型スタイルの確立
商品専門、飲食店専門、求人専門など業種業態や特定ニーズに特化したSNS運用代行をする業者が現れ、成果を出している。
SNS運用代行業の仕事
SNS運用代行業を営むためには、戦略設計、コンテンツ運用、広告活用、データ分析を組み合わせて価値を生む総合的なスキルが必要だ。フォロワーとの関係構築、分析と改善、マーケティング視点を持つことが成功の鍵と言えるだろう。各プラットフォームに共通する主なサービスは以下のとおり。
プロモーション全体の戦略立案
クライアントを獲得したら、売上アップや見込み客の発掘など、目標を達成するための戦略を立案する。その際にはSNSの活用方法だけではなく、目標に至るまでの導線も設計し、最大限の成果を得られる計画を提案する。
コンテンツ企画・制作
提案が承認されたら、投稿内容の企画、画像や動画の制作、キャッチコピーの作成など、コンテンツを作成して投稿する。
アカウント運用
投稿スケジュールの管理、コメントへの対応、フォロワーとのコミュニケーションなどを行う。
広告運用
ターゲティング戦略の策定を行い、SNS広告の設計と運用を実施。広告の効果測定を全体の計画に活かす。
データ分析・改善提案
エンゲージメント率(いいね、シェア、コメントの数など)やコンバージョン率(閲覧者が成果へ達成した割合)を把握し、データを分析する。さらに良質な投稿を継続し、効果を高めるための改善案を提案し、実施する。
インフルエンサーの活用
適切なインフルエンサーと提携し、PR施策をさらに強化して実施する。予算や人脈が必要。
キャンペーンの企画
顧客の商品やサービスを、無償もしくは割引で提供するプレゼントキャンペーンや、ハッシュタグ企画などユーザー参加型コンテンツの構築、人気インフルエンサーとのコラボイベントなどを企画および運営する。
顧客対応とオンライン接客
問い合わせ対応、口コミと評判の管理、ユーザーとの関係構築など、顧客対応を行う。企業の公式アカウントを管理する場合は、対応の質がブランドイメージに直結するため、適切な対応が求められる。
SNS運用代行業の人気理由と課題
SNS運用代行業には必須となる資格がなく、実力があれば参入できる。そのため参入障壁が低く、個人事業主やフリーランスに人気が高い。また、副業として手掛ける人も少なくない。ただ、業界そのものが成長期から過渡期に入っている側面があり、市場の拡大に伴う競争の激化や、成果の可視化の難しさといった課題も浮上している。以下に、SNS運用代行業が人気の理由と課題を整理する。
人気の理由
- 市場拡大とSNSの利用人口増加
- 初期投資が少なく開業しやすい(極端な例ではスマホ1台でも開業が可能)
- 資格や許可が不要
- 個人でも実績を積みやすい
- フルリモートなど柔軟な働き方が可能
- スキルの汎用性
課題
- 競争環境の激化
- 成果の可視化の難しさ
- アルゴリズム(検索結果や表示順序などを決定するプログラム)の変化への対応
- 安定収益の確保の難しさ
- 業務領域の広さによる負担の大きさ
- 同業者と情報交換をする機会が少ない

開業のステップ
SNS運用代行業を開業するには、市場分析、戦略策定、収益モデルの構築といった準備が不可欠だ。以下に、開業までの主なステップをまとめる。
STEP1:コンセプトとターゲットの明確化
どのSNSを使い、どの領域をターゲットにするかを明確にする。また、動画コンテンツ専門、SEO連携に自信ありなど、自身の強みを活かした差別化のポイントを決定する。
STEP2:市場調査と競合分析
既存のSNS運用代行業者がどのようなサービスを提供しているかを調査し、自らのサービスが市場でどのような価値を提供できるかを明確にする。
STEP3:事業計画書と資金計画の作成
初期費用と運転資金を試算し、必要に応じて資金調達を検討する。その際には、顧客単価や契約期間を想定し、売り上げの見通しを立てる。
STEP4:サービス内容と価格設定の決定
月額契約、スポット契約、広告運用などの料金プランを作成する。自らの強みと弱みを知ることで、攻めと守りの価格設定を行うことができる。
STEP5:事業の設立準備
個人事業主登録や法人設立を行い、開業に向けた事務作業を行う。その他、銀行口座の開設や事務所の契約、事務所運営に必要な各種契約を行う。
STEP6:営業活動とクライアント獲得
実際に開業を決めた後は、成功事例の発信やキャンペーンの告知をさらに行い、有力クライアントの獲得を目指す。
STEP7:開業
開業後は、業務効率化のためのテンプレート作成やワークフローを整備する。顧客との信頼関係を深め、長期契約を目指す。
SNS運用代行業に役立つ資格
SNS運用代行業の開業に必須となる資格はない。だが、自らの専門知識を証明し、クライアントから信頼を獲得するために役立つ資格は多数存在する。マーケティングやデータ分析、コンテンツ制作、広告運用などの資格は、SNS運用代行業と特に親和性が高い。
SNSマーケティング関連資格
SNSを活用した戦略設計とアカウント運用のスキルを証明する資格に、「SNSマーケティング検定」と「SNSエキスパート検定」がある。前者は、ターゲット設定や広告運用などのスキルの高さを、また後者は、各プラットフォームの特性を理解し、最適な運用方法の提案ができることを証明する資格になる。
データ分析・マーケティング資格
SNSの効果を正しく測定し、最適なマーケティング施策を提案する際には、データ分析の専門スキルが求められる。「ウェブ解析士」は、WebサイトやSNSのアクセスデータを基に戦略的な改善策の立案ができることを証明する資格。「Googleアナリティクス個人認定資格(GAIQ)」は、Googleアナリティクスを活用した詳細なデータ解析の知識を持ち、SNS広告やコンテンツのパフォーマンス改善ができることを証明する。
コンテンツ制作・ライティング資格
SNSで成果を上げるには、訴求力のあるテキストやビジュアルが重要になる。「Webライティング能力検定」はSNSの投稿に適した文章表現のスキルやSEOライティングのスキルが高いことを証明するもの。「フォトマスター検定」は写真の撮影や編集技術の高さを証明できる。
広告運用・SNS戦略資格
SNS広告を効果的に運用するために必要なスキルを証明する資格には次のようなものがある。「Google広告認定資格」はGoogleの広告プラットフォームを使いこなす能力を証明し、SNSと連携した広告戦略の設計スキルを持つことが証明できる。「Meta認定資格(Meta Blueprint)」は、Meta社の広告プラットフォーム(Facebook・Instagram)に関する知識と運用スキルの認定で、ターゲティング精度を高めた戦略立案ができることを証明する資格。

開業資金と運転資金の例
SNS運用代行業の開業は、一般的に自宅を事務所にするケースと、事務所を借りるケースに分かれ、後者は事務所の運営費が必要になる。自宅事務所の場合のメリットは、経費がコンパクトになり運営しやすいこと。対して、賃貸オフィスの場合は写真や動画の撮影スペースが確保でき、複数名で会話するコンテンツの制作もしやすくなる。ここではそれぞれの開業資金と運転資金の目安を示す。
<条件>
- 共通:スマートフォンだけでの創業は事例の対象外とする。
- 自宅事務所:従業員なし。
- 賃貸オフィス:賃料10万円のオフィスを借り、毎日1人日(1人が1日でこなせる作業量)分のアルバイトを雇用する。


売上計画と損益イメージ
SNS運用代行業の収益は、月額契約、スポット契約、広告運用手数料など複数の収益源から構成されることが多い。中でも月額契約の確保が収益の安定化に直結するため、そのような案件は競合も多い。良い実績ができれば、次々と案件が舞い込む展開になることもあり、収益増や事業拡張を実現できる。
以下に、自宅または賃貸オフィスで開業した場合の2つのケースにおける、1か月あたりの売上計画と損益イメージの一例を挙げる。
顧客単価は、月額契約、スポット契約、広告運用手数料で構成される。
それぞれの単価は以下を想定する。
- 月額契約の単価=10万~20万円
- スポット契約の単価=5万~10万円
- 広告運用手数料の単価=5万~20万円

月間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。

案件が少ない初期は、人件費を差し引くとマイナス収支になる可能性が高い。早急に利益を生む体質に変えていくことが望ましい。
補助金・助成金
SNS運用代行業は、「IT導入補助金」や「小規模事業者持続化補助金」の対象になる可能性が高い。新規開業の場合は創業者向けの補助金や給付金が、既存事業を持ちながらSNS運用代行業に参入する場合には「小規模事業者持続化補助金」が活用できる。パソコンやソフトウエア、カメラなどの設備投資には特に適している。ただ、「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」ともに、「ウェブサイト関連費」の項目は適用規模の縮小が続いているため、活用するなら事前のチェックは必須だ。また、これらの補助金を広告宣伝費として活用する場合は、数値シミュレーションも含めた企画と提案ができるようになっておくと良い。
SNS運用代行業は、2020年代に本格化した新しい職種と言える。そのため、まだ方法論が確立されておらず、大きな利益を上げる者がいる一方で、事業拡張に苦戦する者もいるのが現状だ。今回、「売上計画と損益イメージ」の項目において、月間見込み損益にマイナスが含まれているのは、開業初期から良い顧客に恵まれるケースが少ないため。だが、実直な経営を基に、着実に成果を残していけば、長く深く関係を継続できる顧客を開拓でき、大きな成長が期待できる。世界のマーケティングを変えたSNSを活用し、豊かな社会の創造に貢献できるこの職種に、ぜひチャレンジしてほしい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)