業種別開業ガイド

コワーキングスペース

2023年 3月 17日

トレンド

コワーキングスペースとは、異なる業種の人たちが一つのスペースを共有し、仕事をするワークスペースのこと。英語の表記では、co-workingであり、会社などの垣根を越えて、さまざまな業種の人がひとつの場所で仕事をすることを言う。

コロナ禍において、職場に通わず家で仕事するリモートワークが浸透する中、「家では集中できない」などの理由からこれまでコワーキングスペースを必要としていなかった会社員の利用者が増えている。また、オフィス自体を縮小し、完全にリモートワークにすることでコワーキングスペースを利用する企業も増えてきている。働き方が多様化している時代であればこそ、コワーキングスペースはこれからますます注目を浴びてくるだろう。

利用者にとってのメリットは、設備を共有することで経費削減につながり、また、異業種同士で情報交換し、交流することで、協働にもつながることだ。基本的に壁や仕切りはなく、内装はカフェのようなオープンスペースとなっていることがほとんどである。

コワーキングスペースイメージ01

近年のコワーキングスペース事情

コロナ以前は大きなデスクを利用者が自由に使うというスタイルが主流であったが、コロナ禍においては感染対策のため仕切り等でスペースを区切ったり、個室スタイルを導入するのが一般的となり、オンライン会議ができる個室ブースを設けているところもある。

より多くの人に利用してもらうためには、差別化をはかることが大切。コワーキングスペースによっては無料のドリンクサービス、郵便物の受け取りをはじめ、法人登記ができるところ、キッチン等のさまざまなサービスがある。

コワーキングスペースには大きくわけて「入居のみ」「入居+ドロップイン」「ドロップインのみ」の3つのパターンがある。「入居」とは月単位で利用者が料金を払うことであり、「ドロップイン」とは1日、もしくは時間単位で料金を払うシステムのことである。一般社団法人大都市政策研究機構の報告によると、全国的には半数以上のコワーキングスペースが「入居+ドロップイン」を導入している。

また、地方では、ドロップインのみを採用しているところが多い。地方でのコワーキングスペースは、ときにはイベントをしかけたり、フリーマーケットを開催するなど、地域の人との交流の場づくりをすることで、地方ならでは特色を打ち出し、地域活性化に寄与している。

最近では、3Dプリンターがありモノづくりができる体験型のスペース、キッズスペースがあり子連れで行けるワークスペース、温泉が併設されており仕事と憩いを両立できる場所もある。2020年以降は、コロナ禍で経営が悪化したホテルや商業施設などがコワーキングスペース運営に踏み切るなど増加が加速しており、市場の拡大が予想される。

▼コワーキングスペース施設数の推移(地方ブロック別)

コワーキングスペース施設数の推移(地方ブロック別)

コワーキングスペース開業の人気理由と課題

人気の理由

1. 資格や免許が必要ない

  • 専門的な資格や有資格者を雇用する必要がない(ただし、飲食店併設の場合は食店営業許可を取る必要がある)

2. 低コストでサービスを提供できる

3. 利用者と交流することで知識や人脈を広げることができる

4. 利用者同士をつなぐことで、人の役に立てる

課題

  1. 大きな売上を出すのが難しい
  2. 売上を作るのに時間がかかる

開業までの6ステップ

開業までの6ステップ

開業資金

コワーキングスペースの開業費用は、その規模にもよるが 100万円〜1000万円 である。場所が都心部で、テナントを契約し、内装工事を行い、備品等を一通り新規でそろえることになると費用が増える。また、利用者をどれくらい確保できるか、月々のランニングコストはいくらかかるかを考え、資金調達を行うことが重要となってくる。

自治体によっては、企業誘致や移住者を呼び込むための施策として、コワーキングスペースを開業する人に補助金を設けているので、開業する地域の制度を調べることも大切だ。たとえば2022年には兵庫県でコワーキングスペース開設支援事業として以下のとおりの補助金があった。

運営支援型の場合/兵庫県

事務機器取得費については、およそ次のようなところだ。

事務機器取得費

ほかに通信回線料がWi-Fiを5,720円/月、携帯電話は5,300円/月とすると、ここまででうまく補助金を使えば資金が必要なく、初期投資を抑えることができる。

ほかには、Wi-Fiルーター使用料年間約5,000円、機械の設置工事費4,840円やコピー機のリース3,000円/月やスマートロックの設置に約3万円程度かかるので、どこまでが自治体の補助金の対象になるのかは各自治体に問い合わせるとよい。

コワーキングスペースイメージ02

損益イメージ

以下は、月額利用額8,000円で会員30人、1日1,000円で10人のドロップインの利用者があることを想定した地方都市におけるコワーキングスペースで、補助金を使った場合のイメージである。

損益イメージ

コワーキングスペースに関連する業界である貸事務所業のデータを紹介する。貸事務所業と比較してコワーキングスペースは比較的小規模であるため、必ずしもコワーキングスペースに当てはまらない箇所もあるが、参考としてご覧いただきたい。

コワーキングスペースを含む貸事務所業の黒字企業3,344社のデータ

従業員の採用

コワーキングスペースには、利用者にサービスを提供したり、清掃をするため管理人を置く必要がある。ただし、来店客が落ち着くまでは、必要最小限でのスタッフで運営することが望ましい。個人での運営の場合、運営者自ら現場に立つことになる。スマートロックなどを導入することで無人運営も可能だ。

設備

仕事をするためのデスクや照明をそろえるのはもちろんのこと、フリーWi-Fi、コピー機やドリンクサーバーなどを設置する必要がある。以下のものをそろえておくとよいだろう。

  • 電源
  • フリーWi-Fi
  • コピー機、ファクス
  • プロジェクター、液晶モニターなど
  • ホワイトボード、ミーティングスペース
  • 私物を入れるロッカー
  • 書籍コーナー
  • オンライン会議用のブース

開業にあたってのポイント

開業にあたっては、以下の4点にとくに留意するとよい。

1. 会員管理や請求システムの導入

コワーキングスペースの運営においては、どれくらいたくさんの人に利用してもらえるかが肝になる。利用プランとしては長期利用向けや短期利用向けのプラン、また時間単位でのプランもあるので、どの会員がどのプランで利用したのかを把握し、毎月、請求する必要がある。そのため、会員数が多くなると、その分、管理の業務が増えることになる。また、同一会員による過剰な予約やキャンセルによって起きるトラブルを回避するためにも、同一IDの会員の予約を制限できるシステムの導入が必要になってくる。

会員情報の管理と利用状況に応じた請求、また入金の管理をスムーズに行うためには、「会員管理」、「予約管理」「請求、決済、入金管理」などの機能を持ったシステムを導入するとよい。

2. 電子決済の導入

ドロップイン型を中心とするコワーキングスペースの運営を考えている場合、利用者には料金をその都度その場で精算してもらうことになる。そのような場合は、QRコードを使った電子決済や端末を導入すると、業務を簡易化できる。

3. 入退室管理システムの導入

会員の利用状況を効率的に管理するためには、ICカードなどを利用した入退室管理システムが便利だ。入口に設置することで、利用状況を把握することができる。無人でコワーキングスペースを運営する場合、導入は必須で、有人型でもこのシステムの導入で負担を減らすことができる。

4. ネットワークのセキュリティ対策

利用者が安心して仕事ができる環境づくりとして、ネットワークのセキュリティ対策が必須である。一般社団法人日本テレワーク協会と一般社団法人セキュアIoTプラットフォーム協議会は、「共同利用型オフィス等で備えたいセキュリティ対策について(第2版)」を公開し、利用者が安心してテレワークが行えるネットワークについて記載されている。基本対策として最初に挙げられているのは管理体制。セキュリティポリシーや利用規約の策定、そして利用者からの同意を得ることが大切だ。事故が発生したときの対応マニュアルの整備、定期的なチェック、最新のセキュリティ情報の収集が必要である。

コワーキングスペースイメージ03

※開業資金、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)