業種別開業ガイド

ステーキハウス

2019年 11月 28日

トレンド

(1)市場規模

「平成30年度食料需給表」によると、牛肉の国内消費仕向量は増加傾向にあり、2018年には1,291千トンに達している。また、「外食産業マーケティング便覧 2018 No.3」(出典:(株)富士経済)によると、上位チェーンによる新規出店の継続により市場の伸長が見込まれており、ステーキ店の市場規模は、前年比9.4%増の3,685億円となることが見込まれている。

(2)赤身牛の品ぞろえ

最近では、南米アルゼンチンやウルグアイなど、新たな牛肉輸入先が増えている。両国の牛肉は、脂身が少ない高タンパク質の赤身の肉という特徴がある。健康意識が高まってきている国内市場において、赤身の肉の品ぞろえが増えることで新たな顧客の獲得につながるとして、特に大手ステーキチェーンでの導入が増えている。

また、これらの肉はオーストラリア産などと比べて、低価格であることも魅力の一つである。

(3)新たな形態の店舗の登場

ファミリーレストラン型式のステーキ店が一般化して久しいが、最近ではカウンター席だけの廉価なステーキ店や、良質部位の切り落としステーキを特徴とするステーキ店、立ち食いステーキ店も登場している。

ここで視点を変えて、焼き肉店の動向についても触れたい。焼き肉店は客席の排煙設備の関係でカウンター席は珍しかったが、最近はオフィス街にカウンター席だけの焼肉店が登場している。このような焼肉店は、カウンター席や立ち食いのステーキ店であれば、直接競合することとなる。このように、ステーキ店の競合は他のステーキ店とは限らない点に留意が必要となる。

ビジネスの特徴

立地によって業態が変わるが、郊外立地では駐車場の確保ができるかどうかがポイントとなる。

(1)ファミリー向け業態(郊外・大型店舗・駐車場)

この業態は郊外で駐車場を持ち、比較的大型店舗であることが多い。近隣に家族連れでの来店が見込める世帯が多く住んでいるか、店が面する道路の交通量はあるか、駐車場が確保できるか、などがポイントになる。

(2)カジュアル業態(駅前・小型店舗)

ファミリー向けと高級店の中間に位置する。女性客や会社員の飲み会にも使われることが多く、駅前立地の一歩入った路地などに小型店舗を出店することも多い。ランチ営業で近隣の会社員の昼食需要を満たした上で、単価の高い夜間営業に誘導できるかがポイントとなる。

(3)高級業態(駅前・小型店舗)

客単価が高い反面、客数が少なく回転率も低いため、顧客満足度を高め、付加価値を付与する取り組みを継続していくことが重要となる。また、近隣住民だけではなく、駅前立地という特性を生かし、駅乗降客の取り込みを図ることもポイントとなる。

(4)高稼働業態(駅前で目立つ立地・小型店舗)

最近のカウンター席のみのステーキ店や、立ち食いのステーキ店はこの業態に該当する。高級業態は一般的に回転率が低いが、これらの店舗では、駅前立地を生かし、稼働率をあげることで、回転率の低さを穴埋めしている。

会社員の昼食需要などを取り込むために、料理の提供価格を低価格に設定し値段の割においしいなどの、費用対効果の高さを訴求できるかどうかがポイントとなる。

開業タイプ

ステーキ店というジャンルが誕生して数十年たっているため、食肉の仕入れルートや価格に強みを持つフランチャイズチェーンのステーキハウスが多く台頭している。

こうしたフランチャイズチェーンの特性を鑑みると、食肉の独自仕入れルートを持っている、あるいは安価なバラ肉から良質部位のみを切り出すといった加工に独自性があるのであれば、独立型で開業することによって、より強みを発揮できる。逆に、独自性が見いだせないのであれば、FC型も検討されたい。

(1)独立型

メニューの開発や営業ノウハウ、資金などの開業準備に努力を要するが、努力が実れば高収益が期待できる。

(2)FC型(フランチャイズチェーン)

独立型に比べ開業準備は比較的容易であるが、FC加盟のための加盟金やロイヤリティーなどがかかる。

ステーキ店のFC本部は、大手だけでなく、地域に特化した地場のチェーンもある。FC型を選択する場合は、各々のチェーンの特徴を比較したい。

開業ステップ

開業においては、飲食業は許認可業種であることに留意が必要である。店舗の立地調査、事業計画の作成、資金調達、スタッフの確保や教育、開業と提供するメニューの宣伝を行う。

(1)開業のステップ

開業のステップ

上記の中で、一番大切なのは立地調査と資金調達であり、飲食店は立地で売上げの大半が決まるという認識を持ち立地調査をすることが重要である。ただし、好立地であれば当然家賃は高くなるため、一般的に望ましいといわれている原価率30%以内に抑えられているかどうかも踏まえて、出店場所を探すことを考えたい。

資金調達は銀行借入をする場合は、創業支援制度融資も利用したい。その場合、店舗の改装費用や厨房などの設備費用をなるべく借入で賄い、開店後の半年間にかかる家賃や人件費などの費用を自己資金で賄う計画を立てられると良い。なぜなら、開店後に時間をかけて来店客が増えていく店のほうが多いため、開店直後は資金繰りで苦労する飲食店が多いからである。

(2)必要な手続き

飲食店を開くには、「飲食店営業」の申請を行ない、許可を得る必要がある。店舗の設備や構造については、法律上の要件を満たしていれば営業許可を取得することができる。

ただし、細かい要件は保健所ごとに運用が異なるため、注意が必要である。内装工事開始前に店舗の概要を書いた図面等を持って、出店地域にある保健所へ事前相談に行き、工事完了の直前に飲食店営業許可申請をして、工事完了のタイミングで保健所の担当に店舗に検査に来てもらうというのが一般的な手続きの流れとなる。また、食品衛生責任者の設置も義務付けられている。下記表を参考に出店地域の保健所に確認されたい。

申請に必要な書類

申請先

出店地域の保健所・食品衛生課

必要書類

・飲食店営業許可申請書
・店舗の図面(厨房配置入り平面図)
・水質検査証明書
・(法人の場合)履歴事項全部証明書
・食品衛生責任者を証明するもの(1.または2.)
 1.食品衛生責任者手帳(講習受講者)
 2.免許証(調理師や栄養士の方)

メニューについて

専門店として、来店客に食材の質や料理の味について納得してもらえるかどうか、価格と品質のバランスを考えたうえで基本となるメニューを設定する必要がある。既述しているが、飲食店の原価率は30%以内とするのが望ましく、原価を考えたうえで食材を選び、価格を設定したメニューとすることが重要である。

必要なスキル

まずは、食材に対する目利き力が大事である。これは、原価に直結する部分でもある。また、肉は焼き加減で大きく味や柔らかさなどが変わる食材である。焼きすぎるとタンパク質の凝固作用により硬くなり、水分と一緒にうまみ成分が出てしまうなどの難しさがある。

その他トッピングのメニューやソースなどにも工夫を凝らし、付加価値を高めることが重要である。

開業資金と損益モデル

開業資金は、予定する店舗規模や賃貸か店舗建設かによっても異なるが、ここでは高級業態の店を賃貸で出店する場合を想定する。

(1)開業資金

店舗面積30坪で、4人掛けテーブル4卓、カウンター4席、合計20席を想定している。

【大都市の駅前繁華街にて、面積30坪の店舗を開業する際の必要資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

大都市の駅前繁華街での立地を想定する。売上は単価×客数が基本となるが、平日と休日での客数の違い、ランチとディナーでの単価の違いに留意し、売上例を以下に示す。

売上計画例の表

b.損益イメージ

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率はその他の専門料理店に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

ステーキハウスに限った話ではないが、競争が激しい飲食業界では、他店舗と差別化を図ることが最も重要である。ステーキハウスの競合としてはステーキハウス以外にも焼肉店や鉄板焼き料理店などが挙げられる。

また、ステーキは一般に高級な食材であるため、客単価を上げ収益性を高めることも、他の食材に比べて容易である。逆に客単価を抑えたうえで、客席回転数を高めることにより効率性をあげることも有効な取り組みとなり得る。例えば、ランチなどの客数が見込めるときには、客単価を抑え回転数を上げることで、売り上げを確保するのが有効であろう。逆に、ディナーでは、ランチに比べ低い客席回転数を、客単価でカバーするのが有効である。

いずれにしても、メニューや値段を工夫したうえで来店客に「値段のわりにおいしい」という費用対効果を訴求できるかどうかの取り組みが欠かせない。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)