業種別開業ガイド
点心バル
2025年 1月 24日
トレンド
(1)カジュアル中華の台頭
さまざまな時間帯に気軽に寄れる点心バル店は、海外でまず人気を博し、日本でも影響を受けた店舗が増えている。これらの店舗では、手軽さや親しみやすさが重視され、洗練されつつも堅苦しくない雰囲気が特徴だ。提供されるメニューは餃子やシュウマイなどの点心を中心とし、価格帯もリーズナブルであるため、幅広い層に受け入れられている。予約不要で気軽に立ち寄れる形式や、友人や同僚とシェアしやすいメニュー構成も人気の要因だ。
さらに、日本国内では、立ち飲みスタイルやオープンキッチンを取り入れた店舗が注目されている。これにより調理のライブ感を楽しみながら、シンプルでスピーディなサービスが受けられる点が顧客からの評価を得ている。特に若年層や女性客を中心に、餃子や小籠包を片手に、軽くお酒を楽しむライフスタイルが広がってきた。伝統的な中華料理の重厚なイメージを払拭し、現代的なデザインやインテリアで若者層を引き込む工夫が成功のカギにもなっている。
(2)フードペアリングと自然派飲料
点心とアルコール飲料のペアリングは、単なる食事を超えた体験価値を提供することができる可能性がある。ワインや日本酒、クラフトビールとの組み合わせは、それぞれの飲料が持つ風味と点心の味わいが引き立て合い、顧客の満足度を高めている。例えば、肉汁溢れる小籠包には、爽やかな酸味を持つ白ワインや軽めのスパークリングワインとの相性が良く、香辛料を効かせたエスニック風の餃子には、柑橘系の香りが特徴的なIPA(インディア・ペール・エール)が好相性とされている。
さらに、日本各地の地酒が中華系のバルでも取り入れられ始めている。異なる種類の日本酒を少量ずつ楽しみながら、それぞれに合う点心を味わう形式は、特に酒好きの顧客に好評だ。健康志向の高まりを背景に、ナチュラルワインや低アルコールビールといった飲料が加わることで、より多様なペアリングが可能となっている。ペアリング体験は顧客のリピート率を高める重要な要素となり、今後もさらに広がりを見せるだろう。
(3)多国籍フュージョン中華
点心に他国の料理や食材を取り入れる「多国籍フュージョン中華」は、既存の枠を超えた価値を生み出している。タコスのように食べられる餃子や、タイ風の香草を効かせたシュウマイは、その代表例だ。こうした料理は、異なる文化や風味を一皿で楽しめるため、観光客や冒険心のある若者に高い人気を博している。
また、イタリアンやフレンチの技法を点心に融合させた例も増えている。例えば、フォアグラを餡にしたシュウマイや、トリュフを使った小籠包など、高級感を演出したメニューは、特にデートや記念日に利用されているようだ。
(4)小皿文化とシェアスタイルの定着
小皿料理をシェアしながら楽しむスタイルは、点心を中心とした中華系のバルの基本コンセプトとして顧客に支持されている。少量多品種のメニューを提供することで、顧客は一度の食事で多様な味覚を楽しむことができる。これにより、一皿ごとに異なる調理法や味わいを体験する楽しさが生まれる。さらに、さまざまなメニューを選び組み合わせることができ、『ちょっとしたおつまみ』や『おやつ感覚』のもの、前菜・メインから締めの麺類まで楽しむこともできる。
(5)立ち飲み×中華のハイブリッドスタイル
日本の立ち飲み文化と中華料理の融合とも言える点心バルは、新しい業態として注目されている。立ち飲みスタイルは、短時間での利用を想定しているため、オフィス帰りのサラリーマンやOLに特に人気だ。点心や一品料理を注文しながら、気軽に飲み物を楽しめる形式は、手軽さとリーズナブルさが魅力となっている。
近年の点心バル事情
近年の点心バル業界は、原材料や高熱費の高騰、人手不足といった課題に直面しつつも、業態特有の強みを活かしながら対応している。
もともと小麦粉を主原料とする点心を扱う飲食店は、原価率を低く抑えられる業態として知られてきた。しかし、近年の食材費の高騰により、そのメリットを活かすのが難しい状況になっている。現在では、他の飲食店業態と同程度の原価率の高さになり、経営におけるコスト管理がますます重要になっている。しかし、焼き鳥などと同様に少量多品種を注文してもらうスタイルは、顧客に「リーズナブルで楽しめる」という印象を与える効果があり、満足度を高められる。
また、点心はテイクアウトとの親和性が非常に高い業態である。持ち帰り需要が大きいため、家庭やオフィスでの軽食、夜食といった幅広いシーンに対応できる点が強みだ。これにより、来店利用とテイクアウトを組み合わせることで、時間帯や顧客層を問わず安定した収益を確保しやすい特性を持っている。
さらに、点心は蒸し、揚げ、焼きといった多様な調理法を用いるため、商品ラインナップの幅を広げやすい業態である。この多様性に加え、スチームコンベクションオーブンやオートメーション技術の進化によって、調理の効率化と均一な品質の提供が可能になっている。特にデジタル化の恩恵を受けやすい点心バルでは、調理ロボットやセルフオーダーシステムを導入することで省人化を実現し、運営コストの削減に取り組む店舗が増加している。
このように、点心バルは、課題を抱える一方で、安価で満足度が高いという印象を顧客に与えやすい特性や、テイクアウトとの相性の良さ、自動化技術の導入による効率化といった強みを活かし、新たなチャンスを模索している段階といえるだろう。
開業のステップ
必要なスキル
この業態は専門店として点心そのものに関する知識と調理技術が求められる。餃子やシュウマイ、小籠包などの代表的な点心を正確かつ効率的に調理するスキルは不可欠であり、生地の扱いや蒸し加減、焼き方の技術を習得していることが重要である。また、調理工程を省力化するために、スチームコンベクションオーブンや調理ロボットを活用するスキルが求められる。
次に、顧客に合わせた提案力が大切だ。点心バルでは、料理だけでなくドリンクメニューとのペアリングを提案する機会も多いため、ワイン、日本酒、ビールなど幅広い飲料の知識を持ち、それぞれの特性と点心の味わいを組み合わせるスキルが必要となる。特に、ナチュラルワインやクラフトビールの人気が高まる中、これらを魅力的にプレゼンテーションできる能力が顧客満足度を左右する。
さらに、接客・コミュニケーション能力も欠かせない要素だ。点心バルでは、少量多品種のメニューを提供するため、顧客がメニューを選びやすいようサポートする必要がある。料理の内容や特徴を分かりやすく説明し、顧客の好みに合わせた提案を行う柔軟性や観察力が求められる。
加えて、テイクアウトやデリバリーが点心バルの重要な収益源であるため、これらに対応する運営スキルも求められる。専用パッケージの選定やメニューの最適化、オンライン注文システムの導入と運用が収益向上の鍵となる。これにより、多様な顧客ニーズに応えながら、売上を安定させることが可能となる。
点心バルに役立つ資格と許可
点心バルの経営では、飲食店営業許可を取得すれば十分だが、テイクアウトとの相性がとてもいいことから、売り上げを伸ばし、認知度が高まった時に、EC展開を視野に入れたい。その時に向けて、惣菜製造業の営業許可証も併せて取得できるように店舗設計を検討しておくべきである。
経営管理が複雑になるが客単価の高いテイクアウトのニーズに対応できることを考えると検討する価値は十分にある。また、深夜帯も強い業態なため、深夜も営業するのならば、深夜酒類提供飲食店営業届出を警察署にあらかじめ出しておく必要もある。また、食品衛生責任者は必須となるため、1日の講習を受けて取得しておくことが重要だ。
開業資金と運転資金の例
開業にかかる資金と月々の運転資金の目安は以下の通りである。近年では主流になりつつある、席がかなり狭めで密集気味の点心バルを例に試算した。地域や店舗の規模によって経費も異なるが、参考にしていただきたい。
【前提条件】東京都内 10坪 席数 カウンター23席
売上計画と収益イメージ
前項の店舗立地条件で収支予測を掲載している。客単価が徐々に変化していくのは、多くの顧客に認知されることで、テイクアウトのみの利用やちょっと1杯だけ飲む人、2、3軒目に利用する人が増える傾向にあることを考慮している。最初の1年はワンオペで十分機能すると考え試算しているが、日常的に利用する業態でもあり、回転数が多いため、客単価は低めに設定。損益分岐点の到達は早くはないが、到達後は売上高にあまり波がなく安定しやすい業態でもある。
補助金・給付金など
点心バル店では、IT導入補助金と人材開発支援補助金の活用を検討したい。店舗にて作業の効率化のためにデジタルツールを導入する場合、その諸経費と同ツールを有効活用できるようにスタッフを教育する研修費や研修時間の人件費を補助してもらえる制度である。雇用保険に入っていることが必要だが、ほとんどの事業所がこれに該当するため支給条件などの確認をし、利用すべきである。また国からの支援だけでなく、各市町村でも創業時の宣伝費や家賃のサポートなど、様々な補助金・助成金があるかもしれないので詳細をチェックしておきたい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)