業種別開業ガイド

おにぎり専門店

2023年 11月 8日

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トレンド

近年、日本のファストフード「おにぎり」の人気が高まっている。「ミシュランガイド東京2019」で初めておにぎり専門店が掲載され、おにぎりが1つの食ジャンルとして確立した。

農林水産省の「米の消費動向」によると、コメの1人当たりの年間消費量は、昭和37年度は118kgだったのが、令和2年度には半分以下の50.8kgにまで減少した。一方、おにぎり・その他の消費支出は、令和2年3月から令和3年2月にかけて減少となったが、その後は緩やかな増加傾向だ。

また、一般社団法人日本惣菜協会の「2023年版惣菜白書」によると、2022年の米飯類の販売市場は4兆7,699億円で、前年比107.4%と増加している。購入頻度は性別や地域にかかわらず、おにぎりは2位という結果だ。

最近半年間での購入頻度 上位品目

おにぎりが人気な理由としては、忙しい人でも手軽に食べられ腹持ちが良いこと、ラーメンやパンと違ってコメはグルテンフリーのため健康志向の人も食べやすいことなどが挙げられる。また、おにぎりは他の外食に比べると安く、物価高で節約志向にある人も購入しやすい。SNS映えする見た目やおいしさも魅力のひとつだろう。

おにぎりは、寿司や天ぷらに並ぶ日本の伝統的な食文化として外国人にも人気が高く、海外での展開も進んでいる。多種多様な文化や宗教にも、具材で柔軟に対応できる。訪日外国人の中には、日本で本物の味を食べたいと望む人も多い。手軽に買えてシェアできるおにぎりは食べ歩きにも向いていて、さまざまな日本食を楽しみたい人にも最適なスタイルとなっている。

コメ離れが危惧される中、農林水産省ではコメの消費拡大に向けて全国各地のおにぎり専門店の情報を発信している。山口県のおにぎり専門店では、地場産の特別栽培米を山裾のきれいな湧き水で炊き、まろやかな味の藻塩と自家栽培の野菜を使ってこだわりのおにぎりを作っている。愛媛県では学校給食に出る「みかんご飯」をおにぎりにした店もあり、ソウルフードとして話題だ。

近年注目の「サステナブル」をコンセプトとしたおにぎり専門店も登場した。果物なのに豚肉のような食感のジャックフルーツを具材に用いるなど、地球や身体にやさしい食材のおにぎりを提供している。ほかにも、店内をオシャレなカフェ風にしたり、おにぎりを包む包装紙を可愛いものにしたりと、若者の集客に力を入れているところも多い。

おにぎり専門店には「イートイン型」と「テイクアウト専門型」がある。

(1) イートイン型

イートインならではの「出来たて」にこだわる店が多い。例えば、おにぎりは注文を受けてから目の前で握ったり、具材はショーケースに並べ、客に指さしで選んでもらったりするスタイルは人気が高い。メニューも、塩むすびとおかずのセットや丁寧に出汁をとった味噌汁など、その店ならではの工夫が見られる。

(2) テイクアウト専門型

テイクアウト型のおにぎり専門店は、すでに握ったおにぎりをショーケースに並べて販売するパターンと、注文を受けてから握るパターンの2つがある。高速バスや新幹線の乗り場近くでは出来たてが好まれるが、ビジネス街など時間に余裕がない人はすでに握られているほうがニーズが高いだろう。おにぎり1個を手軽に買ってもらえるのも利点だ。

近年のおにぎり専門店事情

都市圏を中心におにぎり専門店の進出が相次いでいる。他業種からの参入も急増しており、コメ卸業者をはじめ、海苔製造卸会社や製塩会社、家電メーカーもおにぎり専門店の運営に乗り出した。

おにぎり専門店が増えている要因としては、コロナ禍を経て多くの人がテイクアウトに慣れ一定の需要があることや、小麦の価格が高騰し物価高が続く中で、コメの価格は比較的安定していることなどが挙げられる。

農林水産省の「令和4年産米の相対取引価格・数量」では、令和4年産米の年度平均価格と対前年比が示されている。コメの品種によっては少し値上がりが目立つものもあるが、多くの品種で微増に留まっている。

令和4年産米の相対取引価格・数量

おにぎり専門店は省コストで機材が揃えられ、調理の難易度が低くオペレーションが容易という点も、店を展開しやすいポイントだろう。

逆におにぎり専門店のネックとなるのが、客単価だ。おにぎりは1個200円弱から300円程度で販売されている。また1個でも買える気軽さもあり、店舗型の飲食店やお弁当スタイルのテイクアウト専門店より客単価が下がりやすい。各店、高級素材を使用しておにぎりの価値を上げたり、セット販売で客単価を上げたりする工夫が見られる。

一般社団法人日本惣菜協会の「2023年版惣菜白書」によると、購入時の選択基準は1位「おいしさ」、2位「価格」、 3位「メニュー」となっている。

惣菜購入時の選択基準

最近では、コンビニで販売されるおにぎりにも変化が見られる。少し前は贅沢な具材を使った商品が多かった印象だが、2023年に入ってからはコメ自体の味を活かした商品が目立つ。品質の高いブランド米を使ったおにぎりや、コメの味を堪能できるようあえて海苔を使用しないおにぎりなどが登場している。今の消費者が感じる「おいしさ」とは何かを追求して商品企画がされているのだろう。

お昼時になると長蛇の列ができるおにぎり専門店は、「おいしさ」を演出している。出来たてを味わってもらえるような仕組みや、ご飯の炊き方・握り方、コメ・塩・海苔・具材、新しい味の提案など、その店独自のこだわりが感じられることが多い。

2023年はコロナ禍を経て増えた在宅ワーク者と、活気を取り戻してきたインバウンド客が消費を大きく変えていくだろう。これからおにぎり専門店の事業に関わるなら、店独自のこだわりを持ち工夫を凝らすことで、コンビニや他店舗との差別化につながるはずだ。

おにぎり専門店の仕事

おにぎり専門店での仕事は「仕入れ」「調理」「販売/配膳」「片付け」「清掃」に分けられる。それぞれの具体的な仕事内容は、以下のとおり。

  • 仕入れ:契約業者への発注や店舗へ行って直接仕入れをする
  • 調理:コメを焚き、食材の下処理や味付けを行う
  • 販売/配膳:客から注文を聞き、会計。オーダーされたおにぎりを包装紙で包む。イートイン型であれば、テーブルまで調理されたおにぎりや副菜を配膳
  • 片付け:客が食べ終わったあとの食器類の片付けやテーブルのクリーニングを行う
  • 清掃:営業終了後、客席や厨房の掃除をする
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おにぎり専門店の人気理由と課題

人気理由

  1. 飲食店の中では比較的少額で開業できる
    必要な調理器具やスペースが少ないため、初期費用が抑えられる

  2. 専門技術を必要としないため、人材確保しやすい
    おにぎりは高度な技術はいらないので、未経験者も簡単な研修で即戦力にしやすい
  3. ロスが少ない
    梅干しや昆布など日持ちする食材も多く、食品ロスが出にくい

課題

  1. 同業他社との差別化
  2. 客単価のアップ

開業のステップ

おにぎり専門店開業の基本的な流れは、以下のとおり。

開業のステップ

以下のような場合には別の許可が必要なため、所轄保健所の食品衛生課に確認する。

  • あらかじめ大量に調理し、保管後販売する場合
  • 別の場所で調理する場合
  • インターネットや別の店舗で販売をする場合
  • おにぎり以外のメニューを販売する場合

おにぎり専門店に役立つ資格

おにぎり専門店の開業には、食品衛生責任者の配置が義務付けられている。食品衛生責任者になるには、調理師、栄養士、製菓衛生師などの資格が必要だ。しかしこれらの資格がない場合には、保健所が実施する講習会を受講すれば、食品衛生責任者の資格を取得できる。

また、収容人数30人以上の飲食店では、防火管理者*1の選任が義務付けられているため、当てはまる場合には資格の取得が必要だ。

(*1)防火管理者の詳しい情報は、こちら(一般財団法人 日本防火・防災協会)をご確認ください。

調理師免許は必須ではないが、持っていた方が店舗の信用を得やすい。調理師学校か養成施設を卒業していない場合は、2年以上の実務経験があれば調理師試験を受験できる。

さらに以下のような資格を持っていると、他店との差別化を図るのに役立つだろう。健康意識の高い人に向けて、「食べて綺麗になる」というアプローチが可能になる。

雑穀マイスター*2 日本能力開発推進協会が認定する資格で、雑穀に関する栄養や歴史、日常生活への取り入れ方の知識を証明するものだ。受験するには「資格のキャリカレ」が開いている講座を受講する必要がある。履修には約4カ月を要し、70%以上の得点率で合格となる。

(*2)雑穀マイスターの詳しい情報は、こちら(一般財団法人 日本能力開発推進協会)をご確認ください。

開業資金と運転資金の例

おにぎり専門店を開業するにあたっての資金は、イートイン型かテイクアウト専門型かで大きく異なる。イートイン型は、運営スペースや人材がテイクアウト専門型より多く必要になり、その分費用がかさむ。

例えば、イートインスペースをカウンターだけの簡素なものにしたり、厨房器具やテーブル、小物などをリサイクル品にしたりすれば費用を抑えられる。また物件はスケルトンではなく、居抜きを選ぶと初期費用が少なくて済む。

開業にあたって必要になる費用としては、以下のようなものがある。

  • 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
  • 内装工事費:電気工事、水道工事、その他飲食店営業許可を取るための必要な工事など
  • 機械設備費:炊飯台やガス台などの厨房機器
  • 什器備品費:持ち帰り容器や包装紙など(テイクアウトの場合)、配膳用漆器(イートインの場合)
  • 広告宣伝費:グルメ情報サイトへの申込みやマーケティング会社との契約費など
  • 商品仕入費:コメや魚介類、肉などおにぎりに必要な食材の調達
開業資金例
運転資金例

売上計画と損益イメージ

おにぎり専門店を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

  • 年間営業日数:312日
  • 年間平均客数:31,200人(100名/日、営業26日/月)
  • 平均客単価:イートイン型 600円/テイクアウト専門型 500円
  • 年間売上:イートイン型 1,872万円/テイクアウト専門型 1,560万円

年間の収入から支出(上表の運転資金例)を引いた損益は以下のようになる。

売上計画と損益イメージ

おにぎり専門店は、他の飲食店に比べて少ない初期費用で始められる。イートインスペースを設けるか否かで大きく予算も経営スタイルも変わっていく。ターゲットや地域性を考慮しながら予算に合わせた経営スタイルを選ぶと良いだろう。テレワークなど在宅で活動する層を狙って、オンラインデリバリーサービスも積極的に活用したいところだ。

他にも内装工事費を掛けずに済む物件や、さらに集客を望める立地を探し出せれば、上で算出した金額より大きな利益を生み出すことができる。材料の仕入先を開拓してコストを下げる試みも重要だろう。また、テイクアウト専門で作り置きしたものを販売すれば、人を雇わず1人での営業も可能になる。

ただし、開業のしやすさからライバルが多い業種でもあるため戦略は欠かせない。素材のお米にこだわるのはもちろんのこと、梅や鮭などベーシックな具に加えて季節を感じる食材や、洋・中など別ジャンルの要素を取り入れた変わり種で話題作りも必要だ。

SNSで情報を得る現代では、情報の拡散のためにSNS映えするような見た目も鍵となる。おにぎりはシンプルだが、競争相手の多いおにぎり市場で勝つためには、味と見た目両方にこだわっていく必要がありそうだ。

いかに他店と差別化を図り時代のニーズに応えていくかが、成功を収めるポイントになるだろう。

おにぎり専門店のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)