業種別開業ガイド

パスタ専門店

2023年 11月 22日

パスタ専門店のイメージ01

トレンド

パスタ発祥の国であるイタリアでは前菜のような位置付けになることの多いスパゲティやペンネだが、日本においては麺ものが大衆に根付いていることからパスタが昼食や夜ご飯に主食として定着した。また、日本独自の和食パスタのジャンルが確立しており、箸でパスタを食べるスタイルもある。このトレンドは世界的に見ても稀であり、日本の製麺技術の高さと季節感ある食材が多いことが後押しした結果と言える。

(1) 細分化された専門性

顧客の嗜好の細分化に合わせて、パスタ料理の中でも何に特化しているお店なのかをはっきりと打ち出した専門店が相次いで出現している。本場イタリアのカルボナーラの奥深さに魅力を感じ、上質なチーズを使用しカルボナーラだけで勝負する専門店が立ち上げられた。また、たらこスパゲティに特化した店も存在し、これまでの和風パスタをさらに深掘りし、産地直送の魚介類と合わせて提供され、高価格業態として運営されている。

(2) コンビニからのインスパイア

最近では外食業界がコンビニ業界からヒントを得て施策を打つ流れが多くなっている。コンビニの定番であるサラダパスタ惣菜の通年販売が定着したことに着目し、これを専門としてオープンした『サラスパ』専門店が登場。バリエーションは自家製の和風スタイルを筆頭に多彩で、国産食材にこだわり好評を得ている。また、スープスパゲティ専門店も人気を博している。小ライスのサービスもあり、残ったスープに入れてリゾットで楽しめる。このようなバリエーションの広がりはまだまだ未来を感じる。

(3) パスタに特化した最先端の調理ロボ

タッチパネルを使用して商品をオーダーすると、麺の茹で時間や水量を自動で調整し、具材やソースを正確に計量して供給でき、さらに、高出力での加熱で麺とソースを絡めて調理することができるロボットを導入している店もある。調理が終わると、鍋は自動で移動し、洗浄され、次のオーダーに備える仕組みとなっており、業務を完結できることから人の手を全く必要としないレベルまで来ている。今後はセルフオーダーシステムとどう連携できるかで飲食業界が大きく変わる可能性があるだろう。

(4) IoTセンサーデバイスの採用

IoTセンサーデバイスが飲食業界で注目されており、仕込み作業の比重が大きいパスタ専門店には大きなメリットを生んでいる。このデバイスは、温度や濃度、pHなどの物理・化学的なパラメーターを測定し、そのデータを無線通信でクラウドに送信することができる。よって調理中のスープやタレの状態をリアルタイムで可視化。クラウド上では、そのデータを分析し、適切な調整をするシステムが構築されている。このようなデバイスは、特にセントラルキッチンで製造し各店に配送するチェーン店に大きなメリットをもたらしている。

(5) 長く愛されるナポリタンという文化

ナポリタンは、日本の洋食文化の中で常に異彩を放ってきた。その発祥は、1927年と古く日本人の口に合うようにアレンジされた独特なものだ。特に、茹でたパスタを5、6時間寝かせることで、もちもちとした食感を生み出すのが特徴である。イタリアのナポリには存在しない日本独自のナポリタンは、その歴史と独特の調理法により、長く日本人の心をつかんで離さない文化として根付いている。そして今の時代、インバウンドの影響もあり、日本の文化として新たなトレンドかのように再び注目を浴びている。

近年のパスタ専門店事情

コロナショックにより、多くの飲食店が売上の落ち込みを経験している中、パスタ専門店は独自のアプローチで変革を遂げている。特に、生パスタを提供する店舗は、茹で上げからの時間経過により、アルデンテの食感や風味の浸透が引き立つ特性を活かし、テイクアウトやデリバリーでの提供に成功している。

また、コロナ禍以降、家での食事の機会が増加し、乾麺パスタの利便性や保存性が評価されるようになった。その結果、家庭でのパスタやパスタソースの消費が拡大している。これに対応する形で、パスタ専門店は調理技術を活かし、大きな釜で一気に茹で上げることで最高の食感を提供するなどの麺を美味しく茹でる技術で差別化を図ろうとしている。また、冷凍麺解凍機の技術進歩に合わせて冷凍パスタの品質がかなり上がり、業務用の販売数も年々伸びてきている。総じて、パスタ専門店はコロナ禍の中でも新しい取り組みやメニュー開発を進め、顧客のニーズに応えているのである。

年間生産食数とパスタ冷凍麺生産数推移

一方、円安の影響を受けて輸入食材の価格が高騰する中、パスタ専門店は日本の食材に置き換えたメニュー開発を進めている。特に、従来から人気のある和風パスタは、その充実度をさらに高める方向で、新しいバリエーションやアイディアが取り入れられている。

特に大型店では、生産者にクローズアップし、特定の地方の港町とタイアップするといった試みが見られる。また、ファミレスタイプのパスタ専門店は、1人客と飲酒をする顧客のニーズに応えカウンター席を増設し、小皿でのおつまみを提供できるようにしている。

さらに、テイクアウトやデリバリーを拡充したり、お土産になるような物販を増やすなどしたりして、全方位での販売を実施し成果を上げている店舗も多い。このように時代に応じてアレンジが効きやすく食材の組み合わせが無限にあり、愛されている点が外的要因によるトラブルに強い業態でもある。

パスタ専門店のイメージ02

開業までの流れ

開業までの流れ

パスタ専門店として必要なスキル

パスタ専門店での求められるスキルは、業態や狙う客層により大きく異なる。

【40席以上の大型店舗で家族連れをメインとしたファミレスのような業態の場合】

大型店舗では、多くの席数とスタッフを確保し、家族連れをターゲットとするための広々とした空間やお子様を受け入れる設備が必要となる。この場合、オペレーションコントロールや大人数のスタッフ管理のスキルが求められる。ピークタイムの効率的な人員配置や、迅速な対応、さらには家族連れに合わせたメニュー提案やキャンペーンの企画能力も必要となる。また、子供向けのメニューやサービスを提供するための独自のアイディアや工夫が求められる。一方でセントラルキッチンや既製品での簡単な調理を実現する方向も検討が必要だ。

【1〜2名のお客様をメインとした20席程度の小型店の場合】

限られたスペースとスタッフでの運営となるため、効率的なオペレーションやコスト管理のスキルが重要となる。また、ある程度高級感を持たせることで、1、2名のお客さんをターゲットとした夜の時間帯のワインの提案や、オリジナルのパスタメニューの提案能力が求められる。所作やマナーを織り交ぜた必要に応じてのホスピタリティーは、ディナータイムやデートスポットとしての利用も期待できるため必要である。さらに、自家製のソースやパスタを提供するための、高品質の食材を選び出す目利きや、季節ごとのメニュー変更など、柔軟な調理スキルが必要となる。パスタの茹で加減やソースの調合など、基本的な調理技術はもちろんのこと、シェフ自身の体力や健康管理が重要となるため、適切な労働時間や休憩時間の確保が不可欠である。

開業資金と運転資金の例

食材の原価率を低く抑えられることで有名だったパスタ料理だが物価の高騰もあり、その数値は特段秀でるものでもなくなってきた。これ以降の事例は、冷凍麺解凍機を利用した上質の冷凍パスタと工場で加工されたパスタソースを使用し、最低限の食材の火入れだけでアルバイトでもクオリティーのブレが少ないメニューを提供できるパスタ専門店として取り上げる。原価率は当然高くなるが、これから期待するべきビジネスモデルとなる。

開業資金と運転資金の例

売上計画と損益イメージ

パスタ専門店は、最新機器による麺の解凍と調理済みのソースを使用することで提供時間の短縮と味の均一化を達成ができる。最少人数での運営が可能な業態で魅力が多い。金銭の管理面では不安があるがセキュリティーを固めてアルバイトスタッフのみで運営することも不可能ではない。合理化による省人化に加え最新鋭の設備による最先端の業態にもなり得る。調理済みの加工食品を多用するため原価率は高いが、この時代において人件費を極限まで抑えられる業態でもある。また、初年度は薄利のため利幅がないが軌道に乗ればロングランが期待できる。

売上計画と損益イメージ
パスタ専門店のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)