起業マニュアル

賃金

賃金とは

賃金とは、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを言います(労働基準法 第11条)。賃金の種類は、賃金、給料、手当、賞与など様々ですが、労務の提供に対し支払われるものであれば、名称に関わらず、賃金となります。

労働者にとって生活の糧である賃金は、労働条件の中でも最も重要な項目であると言えます。今回は、その賃金に関する基礎知識や、近年、毎年10月に改定されている最低賃金制度を中心にご説明します。

賃金の5原則

労働基準法では、労働者が、賃金を確実に入手できるよう、賃金の支払いについては、以下の原則を定めています。まずは、この基本原則から確認していきましょう。

1.通貨払の原則

賃金は、原則として通貨で支払うこととされています。そのため、現金での支給が原則ではありますが、労働者の同意により、本人名義の預貯金口座への支払いが可能となるため、その利便性から、現在では多くの会社で口座振込により賃金が支払われています。

なお、「退職時の賃金のみ現金払いにしたい」など、会社の都合によって一時的に支払方法を使い分ける場合には、混乱を避けるため、あらかじめ就業規則などに明記しておくと良いでしょう。

2.直接払の原則

賃金は、原則として直接労働者に支払わなければならないとされています。そのため、例えば、本人の意思とは関係なく、突然来社した労働者の親族や知人等に労働者の賃金を支払ったとしても、適切な支払いとみなされない場合がありますので注意しましょう。

3.全額払の原則

賃金は、原則として、その全額を支払わなければならないとされています。ただし、所得税の源泉徴収や、社会保険料の控除などといった、法令に定めのある場合や、社宅費用の控除等について、労使協定を締結している場合等は、賃金の一部を控除して支払うことができます。

なお、労働者に遅刻、欠勤等があり、それに対応する賃金相当額を控除することは、違法とはなりません(ノーワーク・ノーペイの法則)。

4.毎月1回以上払いの原則

賃金は、原則として毎月1回以上支払うこととされています。そのため、たとえ年俸制であっても、ひと月ごとに支払う金額を設定し、毎月1回以上支払う必要があります。

5.一定期日払いの原則

賃金は、原則として一定の期日を定めて支払わなければならないとされています。
賃金の支払は、「当月末締め、翌月○日払い」などと、当月中、または翌月に支払われるのが基本ですが、創業したての会社等で、資金繰りの都合から、給与の締日の翌々月を支給日としている規定が見受けられます(例えば、10月分の賃金を翌々月の12月に支給する等)。一定期日払という意味では、直ちに違法とはなりませんが、労働者にとってあまりに不利益となる場合には、見直すようにしましょう。

最低賃金制度

最低賃金制度とは、賃金の最低額を保障する制度で、いわゆる生存権について規定する憲法 第25条で定める「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するためのものとして最低賃金法により定められています。

この制度は、正社員だけでなく、パート、アルバイト等の非正規社員にも適用されます。また、時給制だけでなく、月給制、日給制の労働者についても、時間あたりの単価が最低賃金を上回っているか確認する必要があります。

最低賃金額との比較方法

日給・月給それぞれにおける最低賃金を説明した表

上記の賃金体系が組み合わせて適用される場合には、それぞれの時間額を換算し、合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。

また、臨時に支払われる賃金や賞与、時間外・休日・深夜割増賃金、皆勤手当、通勤手当、家族手当は、最低賃金額との比較にあたって、算入することはできません。

最低賃金は、近年では、毎年10月に改定が行われています。都道府県ごとに異なるため、事業所所在地の最低賃金を確認するようにしましょう。
(一部製造業・小売業などの産業では、産業別の最低賃金も定められています。)

出来高払と最低賃金

完全出来高制のもとでは、労働者の賃金が不当に低く設定されたり、仕事の繁閑によって受け取る賃金が著しく増減することで、労働者の最低限度の生活さえも脅かされる恐れがあります。そのため、労働基準法では、出来高払制その他の請負制であっても、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をすることとされています。

なお、保障給については、労働基準法上に具体的な定めはなく、就業規則や労働契約等で定める必要があります(休業手当と同様の考え方で、平均賃金の6割程度とするのが一般的です)。一方で、出来高払制の賃金も、最低賃金を下回ることはできませんのでご注意ください。

賃金に関するその他の制度

以下では、賃金に関するその他の制度をご紹介します。

【賃金の非常時払】

労働基準法 第25条では、労働者と労働者の収入によって生計を維持する者が、出産、疾病、災害、結婚、死亡、やむを得ない事由による1週間以上の帰郷といった非常の場合の費用に充てるため、労働者から請求があった場合は、賃金支払期日前であっても、使用者は、既に働いた分に対する賃金を支払わなければならないと定められています。

ここでいう疾病や災害には、業務上の疾病や負傷のみならず、業務外のいわゆる私傷病や、洪水等の自然災害も含まれるとされています。

【賃金の差し押さえ】

まれに、裁判所からの債権差押命令により、自社の従業員の賃金が差し押さえられる場合があります。具体的には、消費者金融から借りた借入金の返済が滞っている、扶養義務があるにもかかわらず養育費を滞納しているなどの理由が多いようです。

労働者の個人的な事情に基づくため、まずは本人に事実確認をした上で、会社として必要な対応を取るようにしましょう。場合によっては、賃金全額ではなく、賃金から毎月決まった額を返済等に充て、残りを本人に支給するなどといった対応も考えられます。

【未払賃金立替払制度】

未払賃金立替払制度は、企業の倒産などにより賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立て替えて払う制度です。
この制度の利用を希望する場合には、まずは労働基準監督署に相談しましょう。

■問い合わせ先

賃金に関する詳しい内容につきましては、下記にお問い合わせください。

(執筆・監修:特定社会保険労務士 岩野 麻子)
最終内容確認 2018年2月

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