起業マニュアル
年少者の雇用
未成年者の雇用
かつての日本では、未成年者の雇用にあたっては、明治44(1911)年当時の工場法で、「12歳未満の児童については、労働者として働かせることができない」と定められていました。その後、1919年に国際労働条約への批准を経て、現在の労働基準法では、原則として「使用者は、児童が満15歳に達した日以降の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない」と定められています(労働基準法(以下「法」)第56条)。
現在、高校生等、児童を除く満18歳未満の年少者については、労働させることはできますが、健康と福祉の観点から、事業主にはいくつかの就業制限が課されているため、雇用の際には注意が必要です。
今回は、年少者の雇用に関する基礎知識と注意点について、ご説明します。
年少者と年齢区分
年少者等は、法律上はその年齢により、以下の3つに区分して定義付けがなされており、その区分によって異なる取扱いがなされています。また、「その年齢未満の者を労働者として使用することができない年齢」を最低年齢といいます。最低年齢は、身体の発育が不十分で、通常義務教育を受ける年齢である児童を保護する目的で定められています。
- ※「満15歳の年度末までにある者」とは、満15歳に達した日(満15歳の誕生日の前日)以降の最初の3月31日までにある者を指します。例えば、4月1日生まれの者は、3月31日が満15歳に達した日、となります。
なお、上記の例外として、次の全ての要件を満たす場合には、満13歳以上の児童(映画の製作または演劇の事業のみ、満13歳未満も可)を労働者として使用できます。
- 非工業的業種の事業
- 児童の健康及び福祉に有害でなく、労働が軽易なものであること
- 事業場の管轄労働基準監督署長の許可を受けること
- 修学時間外に使用すること
年少者等の就業制限
年少者等については、身体的・精神的に未熟であることから、同法の一部が適用除外となっているなど、注意すべき点が多々あります。以下に具体的な例をご紹介します。
(1)年少者の証明書
年少者を使用する事業場では、年少者の年齢を証明する書面を備え付けなければなりません(法 第57条)。証明書とは、住民票記載事項証明書等、公的な書類であることが望ましいと言えます。そのため、労働者本人の申告のみで年齢を確認するだけでは不十分となり、万が一、本人の申告が虚偽であった場合には、事業主の確認不足という責を免れることはできません。また、満15歳の年度末までにある児童については、上記に加えて、学校長の証明書、および親権者または後見人の同意書が必要となります。
(2)未成年者の労働契約
法 第58条では、親権者または後見人は、未成年者に代わって労働契約を締結してはならない、としています。これは、親が子に代わり、子の知らないうちに使用者と労働契約をするなど、未成年者の不利益となる場合が考えられるためです。ただし、未成年者が労働契約を締結する場合は、一般法である民法の規定が一部適用されるため、親権者または後見人の同意を得なければならないと考えられていますので、注意しましょう。
一方、親権者もしくは後見人または労働基準監督署長は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向かってこれを解除できるものとされています。
(3)未成年者の賃金
未成年者は、独立して賃金を請求することができ、親権者または後見人は未成年者の賃金を代わって受け取ってはならない、と規定されています(法 第59条)。こちらも、上記と同様に、子の賃金を親が受領するなど、未成年者の不利益となることを未然に排除するためのものです。
また、労働者が未成年者であっても、事業主は、最低賃金を守らなくてはなりません。
(4)労働時間・休日について
満18歳未満の年少者に対しては、労働時間・休日に関する次の規定が適用されません(法 第60条)。
【時間外・休日労働】
満18歳未満の年少者に対しては、原則として、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超えて労働させることができません。高校の夏休みや冬休み等であっても残業させることはできませんので、注意しましょう。
【変形労働時間制】
満18歳未満の年少者に対しては、原則として、以下のようないわゆる変形労働時間制を適用することはできません。
- 1カ月単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週単位の非定形的変形労働時間制
ただし、以下の場合は例外が認められています。
- 1週40時間を超えない範囲内で、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を10時間まで延長する場合
- 1週48時間、1日8時間を超えない範囲内において、1カ月または1年単位の変形労働時間制を適用する場合
(5)深夜業
原則として、午後10時から午前5時までの深夜時間に、満18歳未満の年少者を、労働者として使用することはできません(ただし、交代制により使用する満16歳以上の男性を除く)。
(6)危険有害業務
肉体的、精神的、技術的に未熟である年少者については、安全、衛生、および福祉の見地から危険有害と認められる業務への就業が禁止されています(法 第62条・63条)。
具体的には、次のような例が挙げられます。
- 重量物の取扱いの業務
- 有害物または危険物を取り扱う業務
- バー、クラブ等における業務 等
また、危険有害業務以外の業務に就かせる場合であっても、年少者については、職務経験の未熟さから、一般の従業員に比べて、労災事故に至る可能性は高いと言えます。労災事故防止のためにも、仕事に必要な安全衛生教育をきちんと行なうようにしましょう。
なお、年少者等であっても、労災保険の補償が受けられることとなっています。業務上または通勤途中に怪我等をした場合には、手続きを取るようにしましょう。
以上のことを踏まえながら年少者等の若い力を上手に活用していきましょう。
(執筆・監修:特定社会保険労務士 岩野 麻子)
最終内容確認 2018年2月
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